44:アルパディカの家→その手には乗らない→キラキラ。
「ふぅ。長いこと待たせてごめんな、アッパーおじさん」
毛をくれるかわりにアッパーおじさんたちの家を建てる。そう約束していたけど、いろいろ忙しくて後回しになっていた。
それを今日、ようやく建てることに。
「いやいや、別に急いでたわけじゃねえからな。まぁもしもの時は今年の冬も教会に居候してただけさ」
「え、アッパーおじさんたちって、冬場はずっとこの町に来てたのか?」
「おう。屋根もあるし、ある程度の風は防げる。何より土地神がいんだ、他所よか幾分空気がまともだからよ」
他所よりは幾分、か。
俺はここ以外だと、ユタに初めて出会った森と、門まで行く道のりしか知らない。
門の所まではニーナがお守りを作ってくれたから、自分の周りだけ空気が浄化されていたので実際の汚染具合を肌で感じることはなかった。
ユタで出会った森だって、ほんの二、三十分で町の教会へ取れてこられたし、そこにはニーナもいた。
レイアや、新しくここの住民になった獣人族から外の状況を聞いても、なんとなくピンとこない自分がいる。
「ようし、志導。ここだ。ここにわしらの家をおっ建ててくれ」
「……おじさん」
「ん、なんだ?」
「ナンダ?」
足元でユタがオウム返しをする。
ユタは母親が戻ってきたことで、朝からずっとご機嫌だ。
まぁユラは悩んでいるようだったけど。
「あのさ、ニンジン畑の目の前に家を建てるのか?」
「おう、そうだが何か問題でも?」
問題っていうか……ニンジン食べまくる気じゃないだろうな。
ほら! 後ろの奥さんたちが恍惚とした目で畑見てるだろっ。
「わしらが畑の番をしてやるよ」
「おじさん、涎でてるぞ」
「おっと。こいつぁいけねぇ」
「アーッ。オッチャ、ニンジンクウ。イクナイ」
ほら、ユタに怒られてるぞ。
「な、何言ってんだユタ。わしらニンジンがちゃんと育っているか、たまに味見するだけさ」
「食べる気満々じゃなうか」
「でぇじょーぶだって。一日だけ腹いっぱいニンジンを食ってお終いになるよか、毎日少しずつ幸せを噛みしめながら食うのがいいってことぐれぇ、わかってるさ」
……獣人族にも手伝ってもらって大量に植えたニンジンを、一日で食い尽くせるってこと?
「アッパーおじさん。毎日少しずつの少しって、何本ぐらいだ?」
「そうだなぁ。一頭あたり二十本ぐれぇか」
「多過ぎだって、せめてじゅ――」
「アァァーッ!!」
「な、なんだよユタ」
この反応は、おなかがすいたのか?
「シドー。ワナ。オッチャンノワナ」
「アッパーおじさんの罠?」
「ちっ。感づきやがったか」
なんの罠!?
「オッチャ、イチニチイッポン」
「おい、ユタ。少なすぎるだろっ」
ま、まさか……。俺が少なめに訂正させるのがわかってて、わざと最初に多めの希望を言ったのか?
ハッ! 俺さっき、せめて十本にしろって言おうとしてた。
し、しまったぁ。危うくアルパディカだけで一日六十本消費するところだった。
ユタ。賢くなったなぁ。
あとで肉を出してやろうっと。
「アッパーおじさん。悪いけどニンジンはしばらくの間、一日三本までにしてくれないか?」
「さ、三本!?」
「だってさ、見てくれよ。こっちの畑の野菜は、ほとんどが昨日、種を蒔いたばかりの畝なんだぞ。最初に拡張した方の畝だって、やっと芽が出たばかりだってのに」
「う……そ、そりゃそうか……」
つまり収穫できる野菜が実っているのは、教会の裏の畑だけだ。
その境界裏の畑がジャンルグになった理由も、なんとなく想像はできる。
ニーナだ。あの子が神力を使って、野菜の成長を速めてくれたんだろう。自然でそうなるわけないのだから。
「だからっておじさん、ニーナに神力を使わせたらダメだぞ。力を使えば使うほど、ニーナは衰えてしまうんだから」
「わかってらぁな。はぁ……しばらくはその辺の草で我慢するか」
「お待ちになって、旦那さま。土の精霊の力なら、ニーナちゃんほどじゃなくてもs腰ぐらい植物の成長を早められるわ」
そう言ってアッパーおじさんの奥さん、ルナがやって来た。彼女の得意属性は土だ。畑を耕すときにもお世話になっている。
「精霊魔法でそんなこともできるのか」
「簡単じゃないのよ、志導くん」
「レイア。そうなのか?」
今日もレイアは猫の姿だ。エリクサーポーションの節約も大事だからな。
「確かに土の精霊には植物の成長を早くさせる力があるけど、それって自然の流れに反することでしょ? だからそれを可能にするためには、術者の魔力を精霊に分け与えてあげなきゃいけなくなるの」
「え、分け与えるってことは……ルナ、大丈夫なのか?」
そう尋ねると、彼女はハッとした顔でアッパーおじさんを見た。
おじさんが何か目配せしている。そして頷くルナ。
うん、もう何をしようとしているのか、わかったから。
「えぇ、そうなのよ志導くん。でもみんなのためだもの。私ひとりが犠牲になれば済むことだわ」
「そう言えば俺が泣いて喜んで、ニンジンをたくさん差し出す――とでも思ったのかおじさん」
「ギクッ。なななな、なな、なんのことか、わしゃあ知らねえぜてやんでぇい。」
「テヤンデェ」
「もちろんそうするさ」
と答えると、アルパディカたちの目が輝いた。
「ルナにだけ、お礼としてね」
というと、ルナ以外のアルパディカが落胆した。
そんなやりとりのあと、ようやく畑のそばにアルパディカ用の家をクラフトすることになった。
ま、家というよりは小屋だ。
広く造り過ぎると室内が温もり辛い。これから迎える冬に備えるのだから、そこを考慮して横十メートル、奥行き五メートルでクラフト。
が、これでも実際は広すぎる。でも春先には子供が生まれるっておじさんが言うから、この広さだ。
「かわりにさ、室内で間仕切りできるようにしたから」
「まじきり? なんでぇい、そりゃ」
ちょうど真ん中に、間仕切り用の壁板を用意してある。アコーディオンカーテンのようなものだ。
「この壁板に取り付けた紐を横に引くんだ」
「これをか? ひょうは……おひょ!? こいつはすげぇ。折りたたんでた板が、壁に早変わりするのか」
「寒いときはこうやって間仕切りすれば、範囲が狭くなって温まりやすくなるだろ? 暖炉も用意したんだけど、アルパディカって火の取り扱いは大丈夫か?」
「心配ぇするな。それぐれぇ平気さ」
よし。じゃあ仕上げだ。
外壁は瓦礫を再利用したけど、内側に木を使っている。二重壁だ。
アルパディカの家に土を入れ、干し草を敷けば完成。それには獣人族も手伝ってくれた。
「す、凄い。たった半日で小屋が建っちゃったよ」
「あぁ、凄いな志導殿の秘術は」
「いや、秘術じゃなくってスキルだから……ん?」
気づけば、獣人族がキラキラした目で俺を見つめていた。
「ふふ。志導くん、しばらくは家造りを頑張らなきゃね」
「シドー、オオイソガシ!」
あのキラキラは、期待のまなざしってことだったのか。
が、頑張ります。




