43:お願い→土地神様→信仰心。
「志導殿。図々しいのは百も承知でお願いしたい」
アルパディカの奥さんに、糸の材料にアーサの第二群生地を教えてもらい、彼女らにも手伝って貰ってせっせと収穫。
なんとか夜までに人数分のハンモックを用意しているときにバサラが突然、土下座をしてそう言った。
「いや、そんなに頭を下げなくていいから。できることがあるなら、手伝うよ」
「何かをしていただきたいのではなく、俺たちを……」
「え……」
バサラだけじゃなく、獣人族全員が俺の前で土下座をしはじめた。
「どうか俺たちをここにおいてくださいっ。そしてどうか、志導殿に仕えさせて欲しいのですっ」
「つ、仕えるって……。昨日もそう言ってたけど、俺、そういうのはちょっと……」
「ちょ、ちょっとというのは?」
「いや、だから……。俺は身分のある人間じゃない。平民だ。仕えられても、みんなを養うだけの経済力だってないんだ。だから正直困るっていうか……」
仕えるっていうのは、家臣になるとか部下になるとか、そういう意味のものだろう?
なんか嫌なんだよ、そういうの。
「志導は私やユタと従魔契約をしているわ。だけど志導は私たちに頭ごなしの命令をしない。自由にさせてくれる。きっと志導は、対等な立場でいたいのよね?」
「そうっ。それだよユタ。誰が上で誰が下とか、そういうのが嫌なんだ」
「アッ」
「ん?」
ユタが俺の足元でこちらを見上げている。それからピョンピョンと跳ねた。
もしかして、背が高い、低いのことを言ってると思っている?
とりあえず撫でてやろう。
「ね、志導くん。彼らはあなたに仕えることで、ここでの暮らしを許して欲しいと思っているんじゃないかしら」
「え、そうなのか? バサラ、レイアの言った通りだったりする?」
するとバサラは他の獣人たちを顔を見合わせ、それから真剣な表情で頷いた。
「なーんだ、そんなことだったのか。俺は元々、別の場所に住んでいたんだ。町長でもないし、領主でもない。だから俺に許可を取る必要はないよ。んー、そうだなぁ」
この町は滅んでしまった古代魔法王朝の一角でもある。
人はいない。ニーナも以前、そう言っていた。
いるのは土地神様のニーナだけ。
そうだ!
「ニーナ」
俺が呼ぶと、礼拝堂の奥に置いてある新しいニーナ像から光がぽぉっと浮かび上がった。
その光がニーナの姿へと変化する。
『はいなの』
淡い光を放つ幼い少女が姿を現すと、獣人族たちが一斉にどよめいた。
「と、とと、と、とち、と、土地神、様……まさか土地神様でいらっしゃいますか!?」
『きゃっ』
突然、バサラが興奮したように大きな声を上げた。それに驚いたニーナがパッと消える。
「あ、兄貴のバカッ。土地神様がビックリしちゃったじゃんっ」
「あ、あぁ、土地神様、申し訳ございません」
バサラが謝罪するが、ニーナは姿を現さない。
ははーん。これはアレだな。
「バサラ。土地神様はご立腹なご様子だ」
「し、志導殿っ。ど、どうすればいいのでしょうか?」
「そうだなぁ。土地神様のことを『ニーナ』って呼べば、機嫌をよくしてくれるかもしれないぞ」
「ニ、ニーナ……ですか?」
ここまで聞いて、レイアが隣でくすくすと笑い出した。彼女もニーナが姿を現さない理由がわかったのだろう。
ニーナは『土地神様』と呼ばれるのが嫌で、わざと出てこないのだ。
「俺はここに居候させてもらっている身だ。この町の主は土地神のニーナだから、ここに住みたいならニーナに頼むしかない。でもニーナは『土地神様』と呼ばれるのを嫌う。名前で呼ばれたいんだよ。その方が親しみが込められてるだろ?」
「と、土地神様に親しみを込めて……」
困惑しているようだったけど、彼らは小声で話し合った結果――。
「ニ、ニーナ様っ。ど、どうか我ら獣人族を、この町の住人としてお迎えください」
「お願いします。俺らに帰る場所はありません。行くところもないのですっ」
「なんでもします。だからお願いニーナ様っ」
帰る場所がない? 故郷がないってことだろうか?
獣人族の訴えに、ニーナ像がぽぉっと光る。だけど本人は出てこない。
『様……ヤ、なの』
それだけ言うと、光が消えた。
戸惑う獣人たち。
「えっと、様付けだと仲良しって感じしないだろ? ニーナは崇められたいんじゃなく、きっと友達になりたいんだよ」
俺が勝手にそう思っているだけかもしれないが。
だけどニーナ像がキラキラと小さな光を出している。たぶん正解だってことなんだろう。
獣人族は顔を見合わせ、それから、子供たちから先に声があがった。
「うわぁっ。土地神様と友達になれるの!?」
「おいバカ。土地神様って言ったらダメなんだぞ」
「そーよ。ニーナちゃんって呼ばなきゃダメなんだから」
ニ、ニーナちゃん……あ、像が光った。
『と、友達に、なってくれる、ですの?』
もじもじとした仕草でニーナがそう言うと、子供たちは満面の笑みを浮かべて「もちろん」と答えた。
それからこどもたちがニーナを囲む。
俺は大人たちのところへ行って――。
「俺がここへ流れつくまではさ、ずっとひとりでこの町を守っていたみたいなんだ。でも神力も底を尽きてて、消える寸前だったらしい。だからさ、崇める必要はないけど、祈って欲しいんだ」
「信仰心、ですね」
「そ。でも俺さ、信仰って具体的にどうすればいいかわからないんだけど、ニーナは普通に話しかけて、自分の存在を忘れないで欲しいって言うんだ」
ニーナにとってはそれが一番の信仰心なんだろう。
子供たちに囲まれているニーナは、心なしか、普段よりキラキラしているように見えた。




