『折れたプレスマンの芯のヘビ』
刈谷長者という者が、あるとき庭で一匹のヘビを踏んづけてしまった。ヘビは、プレスマンの芯が折れたごとく、三つにちぎれて死んでしまった。長者には、子供がなかったが、間もなく妻女が解任し、刈谷長者の喜びようといったら言葉にもできないほどであったので言葉にはできない。次の年にもその次の年にも懐妊し、つごう三人の男の子が生まれた。
兄弟仲もよく、長者夫婦は三人の子供たちを大層かわいがったが、長男は二十歳のときに死んでしまった。翌年に次男も二十歳で、その翌年に三男も二十歳で死んでしまった。長者夫婦の落ち込みようといったらなく、ある人の勧めで恐山に行ってみることにした。
恐山の上人は、長者夫婦から事情を聞くと、では、今から子供たちを呼んでやるが、決して声をかけてはいけない、ときつく言い渡して、何やら呪文をとなえ出した。しばらくすると、三人の息子たちが、遠くから歩いてくるのが見え始め、そばまでやってきたところで、長者も妻女も、声をかけてしまった。三人の息子は、くわっと目を見開いて、一つに重なり、一匹の大蛇となって長者夫婦をにらみつけた。大蛇が言うことには、俺はお前に踏み殺されたヘビだ。お前の子供として生まれ変わって、いつか寝首をかこうと思っていたが、お前たちがよくしてくれたので、本懐を遂げられなかった、と言って、消えてしまった。大蛇の最後の形が、速記文字で、さらば、と読めたという。
教訓:悪い人ではなくても、恨みを買うことはある。




