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09 学院生食堂

 白米、食べたいなあ。


 そんなのここじゃ贅沢の極みだし十分な栄養を摂取できることをまずは喜ぶべきだと理解はしているんだけれども魂が欲するのはとめられないからどうしたって炊き立てホカホカの山盛りをほおばりたくてしかたがないのはこれもう日本人の本能なんだと悟る今日この頃。


 紙粘土みたいなやつ……合成米ペースト……をスプーンで口へ運ぶ。味しない。レタスの切れ端が浮かんだ塩スープはひとすすり。コクがない。浮いている肉団子、昆虫由来だし。


 学園都市の現実って、つくづくポストアポカリプスだよなあ。


 ドリフ商学院―――主要十二校の中で唯一の完全中立校であり、商業取引が最も盛んな、つまりは最も物資が豊富であろう食堂ですらこれだもの。


 ゲームだと大して気にならなかったけれど……きっついわ、これ。


「ヒヒヒ、おめえ、まっずそうに食うよなあ」


 ドカッとばかりに対面へ座られた。誰かと思えば<万商のアマミ>だ。幼女といっても通りそうな見た目だけれど、この子もれっきとした高校生なんだから不思議だ。


 っていうか、俺の身元保証人様だし。住むところも世話してもらっているし。


「いや、その、慣れの問題といいますか……ね?」

「アイギスの給食が上等なんて噂、ひとっつも聞かねーけど? あ、ねーちゃん、あたいには『うんめぇの』よろしくー」


 あああそうだ、俺、店員の子からしたら感じ悪い客じゃん。よくないよくない。


「あー、おいしいなー! この肉団子とかジュワってくるしー!」

「あたい虫団子苦手だなー」

「ちょっ」

「サバイバルな食事してーってこと? 脱走兵あるある的な?」

「シー! シーッ! 吹聴することじゃないですからね?」


 あのフロムヘルどもとの戦いを終えた今、俺、脱走兵。服も商学院の中古ジャージ。


 学生証なき者は市民にあらずな学園都市において、所属校からの保護がないってのは想像以上に大変なことだった……配給受け取れないし……よかったよ、コガネにアマミを紹介してもらえて。


 活動拠点としては一択でドリフ商学院だしね。今後をふまえた立ち位置的に。


 コガネも立候補してくれたけれど、脱走兵の身元保証はかなりイリーガルだから遠慮せざるをえない。最悪、治安維持軍に捕まるもの。だから誰かしら「信用できる犯罪者」が必要だった。アマミはガチでベストな人選だよ。


 この子、ゲームではショップ画面のキャラだからね。めっちゃ課金させようとしてくる子。


 それってつまり、出すもの出せば民生品でも軍用品でもAP兵器用品ですらも用意してくれる公式違法商人ってことさ。実際、取り扱っている商品のリストやばかったし。なにをどうしたら個人で駆逐艦とか販売できるんだ?


「おー、来た来た。ヒヒヒ、うっまそうなのが来たぜー」


 ちょ、待てよ。なんだよ、そのゴージャスなランチプレートは!


 わあ……米ペーストがなんかふっくらしている……湯気出てるし……あとそれ鶏肉のステーキだよな? 皮の焼き色がすごくいい感じだ……え、サラダに赤色がある! トマトだ! こっちで初めて見た! スープに入っているのも魚肉のつみれっぽい。匂いが違う、匂いが。


「おーおー、よだれ垂らしちゃって。まあ無理もねぇ。ここじゃピカイチに値の張るプレートだかんな……食いてえか? 食いてえよなあ? ヒヒヒ、あたいのちょっとした頼み事を引き受けてくれるんなら、こいつはすぐにもおめえのもんさ」

「……話を聞きましょう」

「ヒッヒ、んじゃあ手付けに一品もってきな」

「要らぬ。お食べ。たんと。聞くよ。お話。どうぞ」

「いやいやいや、食えよ。なんか第三の人格出てきてんぞ」


 なんだそりゃ。人格に第二も第三もあるかい。


 ただし男としての矜持はある。子どもはお腹いっぱい美味しいものを食べるべし。大人は我慢すべし。だって大人なんだから。


「要らーぬのです。俺の分はちゃんとありますし。一緒に食べましょう。それで、話っていうのはなんです?」

 

 気を遣わせちゃ悪いから、こっちも美味しそうに食べよう。味しないけれど。


「ったく、やりづれぇ……んじゃ食ったあとな。頼み事はよ」


 はいはいっと。今度はどこのスカベンジかしらん。この子、いつも癖の強い依頼の仕方をしてくるけれど、ちゃんと報酬をくれるから軍資は整ってきた。情報収集もまずまず。やっぱり物の集まるところには人も集まるし、結果として情報も集まる。


 主人公キリエは、まだ「転校生」になっていないな。うん。


 彼女はAP兵器使い。戦力として管理も監視もされている。所属校である天秤橋学園を飛び出したともなればちょっとしたニュースになるはず。情報屋にもチェックをお願いしてあるし。


 シナリオ的には、第二章に入ったかどうかって感じか……判断が難しい。


 もう連合内での学校間格差は身分差を感じさせるほどのものになっているし、鍛造側でも学校間抗争が始まっている。それでも両陣営の直接的なぶつかり合いは起きていない。


 でも、近いうちに本格的な学園戦争が始まるんだ。


 そうなったら、人間同士の戦いで子どもが死んでしまう。何人も何人も。


 なんとかしなきゃ。ただでさえフロムヘルなんていう冒涜的な化物に狙われているのに、その上、子ども同士で殺し合うだなんて……そんなの……そんなのひどすぎる。なんでここには大人がいないんだよ。だから子どもが子どもらしく生きられないんだぞ。


 ……俺だ。俺が、是が非でもなんとかするんだ。


 身体はともかく心が大人である俺が、キリエがやろうとすることを助けて……いいや、そんな半端な意識じゃなくて……身代わりになろう。彼女も幸せになるべき一人なんだから。


「ん」


 んん? え、どうしたのアマミ。プレート同士がぶつかったんですけれど。


「食べろよ。そんな、むっずかしい顔してないでさ」

「え、ああ、すみません。ちょっと奥歯にゴミはさまっちゃいまして」

「はい嘘。ってか、違くて、これ食えっての。こんな量、あたいには多すぎるんだよ」

「へ? いや、君がちゃんとお食べなさいよ」

「だーかーら! 見て! 食べたの! もうお腹ポンポン! もったいないから残りを食べちゃってってこと!」


 どれも一口二口しか食べていないだろう、これじゃ。


 でも、そっぽ向いた横顔がなあ……ほっぺ赤くしちゃって……アマミはやさしいね。その気持ちをくみとろう。やっべ、なんかほおがゆるむったらないぜ。


「ありがとう。いただきます。でも俺にも多いから、君も食べてくれると助かります」

「……ん。いいけど」


 美味いね。なんかどっちも美味いや。コガネたちは元気にしているかなあ。


「んで、頼み事なんだけどさ……スカベンジの護衛をしてほしいんだ」

「護衛? 俺が漁ってくるというのではなく、ですか」

「おめえに歴史と科学の知識が備わってるってんなら話は別だけど?」

「無理ですねぇ」


 色々知ってはいるけれど、結局ゲーム知識だからなあ……どうにもちぐはぐ感が否めない。AP兵器の機密を知っているくせに機動アーマーの燃料補給手順があいまい、みたいに。


「察するに『旧統治者』関連ですか?」

「お、ご明察。遺跡さ。どうしたって現地調査が必要なんだわ」


 旧統治者―――学園都市が成立していなかった時代に、この地を統治していた人間たちのこと。ま、つまるところが大人たちのことだ。少女たちに全てを委任していずこかへと去り、フロムヘル来襲の後もいっかな助けに来ないクソバカアホウども。


「連合も鍛造も手をつけてねえ山地にあるらしくてな? 地下構造物の程度によっちゃ情報売りって形になるかもしらん」

「えっ?」

「え? ああ、ほら、どんなにおめえのアーマーが力持ちっつったってプラントだの融合炉だのは運べないだろ?」

「山地って、それ、もしかして霞ケ峰の?」

「おま、なんでそれを……ちっ! あんちくしょー、あたい以外にも情報売ったか……こりゃ急ぐ必要あんな」


 霞ヶ峰ミサイル基地。あそこはやばいって。


 だってエクストラダンジョン候補地だ。まだ実装されてはいないが、外伝主人公がその存在を明言していたからな。「あそこの攻略には私がもう二人要る」ってセリフは重い。ぶっちゃけ作中最強キャラだもの、外伝主人公。


「もしもしもちもち? 予定変更。なるはや出発な。申請よろしく」


 端末の通話先はイツキかな? 専属護衛である<突針のイツキ>。彼女がいればアマミの安全は確保できる……できるはず……いや不安だわ。アマミもイツキも原作で死亡するキャラじゃないけれど、もうだいぶ原作からズレてきているだろうし……よし、こうなったら!


「俺も行きます! 行かせてください!」

「え? うん……え? そう頼んだし、もうそのつもりなんだけど……」


 聞こえているか、グランヴォルド。戦闘準備をよろしく頼むぜ。

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― 新着の感想 ―
この作品もめっちゃ面白そう! 新作嬉しいです! 更新楽しみに待ってます!
フシノゲイムも好きですけど、こういう 明るさや希望がある方がより好きです。 いもでんぷん味があって燃えます!
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