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06 火煙衆

「ちょ、ちょっとレジィ、そういう言い方は」

「大事なことだろ。助けてはもらったが、連合内のいざこざになんざ巻き込まれたかねえ」

「またそんな……すみません。詮索するつもりで映像を求めたわけじゃないんですが、その……ちょっと急ぐ事情がありまして」


 原作との整合性はともかく、さて、どう返答したものか。


 俺の現状というのは、確かに傍目にはややこしいだろうし、実際にはややこしいどころの騒ぎじゃない。推定「ゲーム世界TS憑依転生」で原作ブレイク中とか意味不明すぎる。


「失礼、少々待ってもらっていいでしょうか。仲間が合流するので」

「仲間だぁ?」

「レジィ! いい加減にしてってば!」


 ドローンの操作は任せるぞ、グランヴォルド。こっちは言い訳を考えるのに忙しいんだ。連合の主要校の一つだもんなあ、アイギス士官学校。他校のAP兵器を盗んだって見え方はまずい。


 っていうか、俺、このまま連合に合流できるのか? しちゃっていいのか?


 原作において主人公キリエを追い詰めたのは、連合だ。


 階級制による新秩序を掲げる「連合」と、弱肉強食の果ての強兵創出を謡う「鍛造」……資源を巡って二分化し対立を深めていく学園都市を憂いて<白風のキリエ>は立ち上がる。


 彼女は神秘的な声―――プレイヤーの指示を聞きつつ、「転校生」という特別な肩書で東奔西走する。弱きを助け強きも助け、仲裁し、対話による和解を説く。フロムヘルにも勇敢に立ち向かう。正しい選択の先に希望の未来があると信じて戦い続けるのだが。


 全部、無駄なのだ。連合の有力者は、彼女を囮として利用していただけなのだから。


 第三章において彼女は危険地帯の探索に赴く。そこでフロムヘルの大群に襲われ、仲間を次々に失って、自分が最初から裏切られていたと悟る。彼女たちを見捨てて進軍した連合部隊が、鍛造側の後方基地を攻撃・占拠した事実をもってして。


 何を置いてもその悲劇だけはぶっ壊すとして、どう立ち回ると効率よく効果的だろうか。AP兵器の利点を最大化する方向で考えるなら……って、うるさいな。なに騒いでいるんだ?


「コガネさん! コガネさんじゃないですか! うわあよかった! よくぞ無事で!」

「あれー? ナルセじゃん。どしたの、こんなとこでー」

「バカ! こっちのセリフだ、バカ! おめぇを探しにきたんだよ、バーカ!」

「な、なんだし! バカバカうるさいし! 宝探しはロマンだし!」

「どうしてぼくたちに声もかけないで、一人で、こんな無茶なことしたんです!」

「だ、だって、急ぎの話だったしー? あんたたちいなかったしー?」

「待ってりゃよかったろーが! 別の仕事だってあんだよ、おれたちには!」


 おー、もめとるもめとる。レジィと、もう一人のナルセというのは初耳だけれど、察するにこの三人はお仲間だったわけだ。


 ……ちょっと待て。それってつまりは。


 コガネが一人で宝探しに行き、USBだけ遺して、あの捕食タイプに喰われちゃって? 死体が出ないから行方不明扱いで? そんなコガネを探しに出た二人が、さっきの破壊タイプたちに襲われて、おそらくナルセって子が殺されちゃって? それで、レジィだけが生き残って、あの破れかぶれな火煙衆に参加……っていうのが、原作の流れなの!?


 うわぁ……人の心とかないんか、シナリオライター。子どもを曇らせないと死ぬ病気なんか?


『小僧、警戒せよ。レーダーに反応ありだ』

「ん……これ向こうにも察知されているってことか?」

『その通りだ』


 五つのシグナルが四時方向から接近してきている。どれも機動アーマーのようだがIFFによる呼びかけはない。その意味するところは明らかだ。


「鍛造の戦士か」

『で、あろうな。どうする。照準照射を受けてからでは間に合わんこともあるが』

「人間同士で戦いたくはないな……お前の性能ならどうとでもなるだろ?」

『通常兵器が相手ならばな』

「えっ?」


 シグナルの内の一つが急加速した! 速い! すぐにも目視距離に来るぞ!


「下がれ! コガネを連れて!」


 言ってとにかく前へ出た。そうするのと、そいつがビルの上へ着地するのとが同時だった。


 真紅をベースに漆黒が配色された装甲は鋭利なシルエットを描いていて、見るからに激しく奔放だ。頭部は狼をモチーフとしたデザイン。大小様々なバックパックはその不揃いさでもって荒々しいマントのような印象がある。


『AP・MA・type・Li、ゼルヴァインだ。強力なAP兵器だぞ』

「ああ。バックパックの数をチェックしておいてくれ。ブレイクフル・ドローンは多目的自走砲台だ。気づいた時には包囲されていた、なんてこともありうる」

『ほほう、その通りだ。戦闘記録の多い機体とはいえ博識なことだな』

「装着者も知っているよ。<奇戦のペネペ>って子だ。何度やられたことか」

『ほお……なるほど……』


 強い。すごい子だよ、ペネペは。ゴスペル芸術学院のエースであったのにも関わらず、束縛を嫌って脱走し、鍛造の各組織を気ままに渡り歩いていて「許される」のだから。


「……見られているな」

『呑まれるまいぞ。背に庇う者のあるからには』

「当然だ」


 敵対はしていない。まだ。武装も展開し合っていない。まだ。しかし目を離せない。次の瞬間にも襲いかかられそうな気がする。まばたきが鬱陶しい。


 そして、彼女がいるということは、<重撃のマキノ>も来るということだ。


 連合憎しのマキノだけれど、交渉の余地はあるはず。少なくとも、コガネたちは逃がしたい。


 ……来ないな。いや、来るに決まっている。さっきのシグナルの残り四つだ……まだか……クソ、気を抜くな、俺よ。外伝主人公ですら「油断ならない」と評した<奇戦>だ。隙は見せられないぞ。


 …………おい、グランヴォルド。モニターに変なアイコンを出すな。邪魔だ……ん? んんん?


「あ、やった! やっとこっち向いてくれたわぁ……あんたもよペネペ! なーんでそんなとこで怖い感じなのよ!」


 あれは非正規機動アーマーの傑作、重装型のブルシロフ? ってことはマキノじゃないか! いつの間に!


 って、おいおい、搭乗ハッチ開いちゃうの? わざわざ半身をさらしちゃって……紅茶色のロングヘアー、俗っぽいセクシーさの美貌とバスト、不敵な笑み……まあ、マキノなんだが。


「さあ、仕切り直してっと……オホッホッホ! スカベンジャーだのフリーランサーだのと、あくせくとお働きのところ御機嫌よう! わたくしこそはレべリオンスター学院の華麗なる炎! 火煙衆の親分! マキノですことよ!」


 華麗なる炎? 復讐の炎じゃなかったっけ? なんだか随分とコミカルというか……あれえ? もっとこう、絶望のどん底からにらみ上げてくるような感じだったと思うんだけれど。 


「残念でしたわね! この地に眠る財宝、アルファズル軍学校のAP兵器はわたくしが見つけてゲットしちゃいま……ゲット……ねえ、ちょっと、あれってAP兵器かしらね? あの黒くてごっついの……ええー、やっぱりそう? え、でも、それならなんで動いているの? 動いているわよね? お目目光ってるし?」


 マキノが仲間内でゴチャゴチャと相談している。なんだかなあ。


 火煙衆って、鍛造の中でも特に過激派の戦闘集団じゃん。爆破テロも要人暗殺もやってのけるタイプの。機動アーマーで身を寄せ合ってる様子、ギャグマンガのノリなんですが。負けたら複数人乗り自転車で逃げそう。


 それとも、これもなんらかの形で原作改変をしたってことなんだろうか。


 ゲームでは<鉄槌のレジィ>は火煙衆の幹部として登場する。レジィとマキノの出会いがこの時この場所だったとして……そもそもどうしてマキノはここに来た? 財宝をゲットとか言ってたな? コガネのUSBもなしにお宝の情報をどうやって……おいおいまさか……!


「グランヴォルド! 広域警戒! フロムヘルの反応を探ってくれ!」

『む? 早期警戒レーダー、分解能モード切替……周辺に感なし。ビームフォーカシング……レーダーに感あり! 二時の方向!』


 コガネも、マキノも、ここに宝物の情報を得てやってきた! アルファズル軍学校のAP兵器! その情報は誰から手に入れた? いいや、誰が流した? 軍学校の施設について詳しく知っているやつに決まっている! どう壊滅したかも含めてだ!


『これは! マルチモード運用……識別した! 捕食type、三! 破壊type、十二! 憑依type、四! 大群だぞ!』

「クソ! そりゃあ、ペネペがいてもどうしようもなかったわけだ……!」


 連合だ! 連合が情報を流したんだ!


 主人公キリエがやられたのと同じに、ここにいる子たちを危険度を計るための捨て駒にしやがった。本来なら、レジィとマキノとペネペしか生き残らなくて……だから、だからマキノは「あんな風に」なるのか!?


 くたばれ、シナリオライター! 地獄に落ちろ!


 ぶっ壊してやるよ、そんな鬱展開なんざ!!

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