02 宝勘のコガネ
<宝勘のコガネ>。
フレーバーテキストによるとドリフ商学院所属のスカベンジャーつまりは廃品漁りで、一攫千金ねらいの無茶ばかりする問題児とのことだ。二つ名の通りそこそこの実績はあるもののいつしか行方不明に。
彼女の遺したUSBをもとにプレイヤーはハイリスクハイリターンの宝探しに挑むわけだが。
「助けて兵隊さん! やっつけて! あたし食べてもおいしくないんだからっ」
うっさ。こういう声だったのか。声優さん誰だろう、なんて。
しがみついてくる手を握ってやって、離させて、機動アーマーへと押しやった。
「時間を稼ぎますから、君は逃げて」
「ええ!? あんだって!?」
「いやそこは聞き取ってよ」
どうせフロムヘルは殺せない。通常兵器じゃとどめをさせない。十分な打撃も与えられそうにない。それでも捕食タイプならやりようがある。
「わ、うわあっ、登ってくるう!」
フェンスをへし折る黒いヒレ的なもの。せり上がってくる頭には、目も鼻もない。口しかない。奇妙に人間的な、大きな大きな口。歯並びにまとわりつくよだれ。フロムヘルめ。
「さあ行って! 生き延びてくださいね!」
黄ばんだ歯へ7.62ミリ学連弾を一発。腰撃ちだぜ。ははは、化け物、痛そうにするじゃないか。
コガネも動いてくれた。機動アーマーは跳び去った。それでいい。助かってくれよ。メインストーリーなんてものが実際にあったとして、彼女の生存がどういう影響を及ぼすのやら予想もつかないが。
鬱展開なんて、クソ喰らえ。
走る。突撃銃をひっつかむ。ダダダッと派手に撃つ。そら、こっちだ化け物。追ってこい。廃校舎内へ引きずり込んでやる。死ぬ気でねばって、死んでも暴れてやるからな。
ついに屋上へ這い上がったフロムヘルへ、さらに撃ちまくってやろうとして―――捕まった。
「は?」
機動アーマーのごつごつした手指が、左右からしっかりと俺の身体をつかまえている。
「一緒に! 一緒に逃げなきゃだから! 恐いんだから!」
「いや、だから、囮をおおおおおっ!?」
大ジャンプ! すっごい縦G! おお、フロムヘルの突進を避けたのか……あ、うはっ、落ちる落ちていく! 下っ腹に大穴が空いたみたいな不快感っ! からの、今度は横Gぃっ!
海に! 汚い灰色の海に、落ち、落ち……ない! どういうブーストの使い方なの!
「ってか、前前前! 壁! ぶつかるぶつかるぶつかっ!」
「ぎゃあああああああ!!」
激突。痛み、あまりなく。
耳をつんざく轟音と、粉塵やオイルの臭いと、操縦者への同時にして複数種類の怒り。なんでやねん。どういうことやねん。
あらまあ、ビルの外壁を突破して転がり込んだ感じか。ジャンクな機動アーマーもいよいよおしゃかになったようで、するりと拘束から抜け出せた。突撃銃は大丈夫だけれど、ひっさげた鞄には弾倉が二本きり。これでどれだけやれるものか。どうすれば―――
「いったたた……ああっ、うわあっ、ゴールドゼニー号があ……!」
―――どうすれば、この子を逃がせるだろうか。
「あ、兵隊さん! これ直せる? あたしおっきな機械ってちょーっちダメでぇ」
「すぐにフロムヘルが来ます。とにかくこの場を離れましょう」
「え、ちょ、待って待って置いてかないで!」
ここは、しかし、どういう建物なんだろう。
窓がないのに暗くない。非常灯とはいえまだ電源が生きている。整然としていてオフィスビルっぽくもあるが、何か違和感が……まず廊下が妙に広い。五、六人なら余裕をもってすれ違えるくらいの幅がある。扉は金属製で重厚だ。飾りっ気もない。
「あ、そこ開ける? まかせてまかせて」
厳重そうだから無理ですよ、と言うよりも早くガチャリと鳴った。コガネの手にはうねうねと身をよじるタッチペンのごときもの。
「ふふーん。電子錠でも物理錠でも、このオプーンゴマデバイスの前には即落ち二コマってね」
「な、何そのチートアイテム」
「んー。会議室かー。何もなさそ……あ、旗! 軍学校のやつじゃん!」
軍学校? アルファズル軍学校のことか? 設定資料集で見たことがあるぞ。アイギス士官学校の姉妹校で、津波を伴う大規模襲撃で連合発足前に壊滅したとかなんとか。
「この辺りかもって探してたんだよね、隠し基地。お宝あるに決まってるし」
なるほど、ゲームではそういう流れで行方不明になっていたのか。フロムヘルに襲われてしまって。
チャンスかもしれない。
宝探しミッションでは廃墟、遺構、森、洞窟、崖下など様々な場所を探索することになるが、中には破棄された軍事施設もあって、「当たり」なら育成強化用のレアアイテムや強力な追加武装が入手できた。
「奥へ進みましょう。武器が要るし、防衛設備の一つや二つあるかもしれません」
「あたし機動アーマーほしい! ゴールドゼニー二号!」
「あったら逃げてくださいね、今度こそは」
「うん! 一緒にね!」
「可能ならそうしますが……」
破壊音がした。そう遠くない位置だ。来やがったな。捕食タイプのフロムヘルは変態ストーカーみたいなものだ。鼻もなしに鼻が利く。獲物を諦めやしない。よほどの速度差がないと逃げきれるものじゃない。
「基地のマップはあるんですか?」
「な、ないけど、たぶんこっち!」
にわかに怯えだしたコガネを先頭に、急ぐ。床がひっきりなしに揺れる。追われている。
なるほど、ここは確かに基地であるらしい。階下へと下っているが浸水がない。水没していたらジ・エンドだったわけだが、これもコガネの宝勘というものか。
しかし、まずい、フロムヘルの音が至近だ。階段で距離を詰められた。
「あ! あれ! エレベーター!」
「走れ! さっきのやつを!」
追いつかれた。フロムヘル。気色の悪いモンスターめ。大口がいびつにも笑みの形をとった。そんなに女子どもを喰らいたいか。食事の必要な生態でもないくせに。
射撃。口腔を狙う。嫌がれ。撃ちきった。弾倉交換。再射撃。
体液が飛び散った? 5.56ミリ学連弾程度で? 弱い個体だったのか? いや違う。ああも暴力をみなぎらせている。銃のお陰か? 心なしか弾速も集弾性も上がっている気がする。
後退しつつ、最後の弾倉交換。どうあれ牽制が精々だ。致命傷など望むべくもない。
「開いたよ! 早く早く!」
走る。ドタバタと迫り来る音へ射撃。やはり多少とも効く。吠え声。大きく開かれた顎。喉の奥の暗闇。バカめ、歯は痛いんだろ? そら、怯ませられた。壁へ激突させてやった。
飛び込む。
二重扉が閉まるなり轟音が鳴った。激しく揺れもした。ふわりとした浮遊感が生じて、おさまって、俺は突撃銃のボルトが後退位置で固まっていることに気づいた。
「うはあ……し、死んじゃうかと思ったあ……」
コガネがへたりこんだ。まだ死なせていないが、これからどうなるかはわからない。
エレベーターの先にあるもの次第だ。




