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14 ねぎとろ号

 すごく……すごく変な船だ。


 大きい。大きい以外の印象が定まらない。貨物船と旅客船を足してから軍艦テイストを掛け算したかのような? なんか艦尾の真ん中がえぐれているけれど、あれ浸水しないのかしらん。


 チラっと見たら目が合ってしまった。「お魚屋さん」の自称万能秘書のワカナさん。


「強襲母艦『ねぎとろ号』でございます」 


 あー、うん、書いてあるね。横のところにデカデカと。


「捕鯨母船を改造した船体は、全長約百十三メートル、全幅約二十一メートル、排水量九千トン級。推進はCODAG方式、二軸CPP機構、補助ウォータージェット双発の構成。瞬間最大速力三十五ノット。装甲は複合セラミック装甲。船腹は二重船殻。旋回性能および兵装は対捕食タイプの特別仕様。格納庫には機動アーマーを最大十二機収容できます」


 すんごい早口。どうすごいのかわからないが、ワカナさんが無表情ながらもドヤッているのはわかる。鼻息荒いし。


「本艦は高速強襲および即時離脱の可能な、機動アーマー母艦として設計されております」

「はあ、そうなんですね」

「……軍用オートメーションの徹底により乗組員の超少人数化にも成功しておりますが?」

「え? はい……」

「3D水中ソナーについてもご説明しましょうか。それとも戦術リンクシステムでしょうか」


 やべえ、なんだか不満そうだ。リアクション不足ってことか? 無理だよ。だって基礎知識がないんだから。


「はえー! すっごい!」


 コガネ! いいところに!


「でっかいし強そう! 見て見て、デリックブームの脇に魚雷発射管あるんだけど!」

「おー、確かに。ってか、あのシートかぶってんのが主砲だろ? 中身見てーなー」

「ちょ、二人とも待ってってば……わあ、カッコいい船!」


 レジィとナルセも来た。いいぞ、その調子だ。ムフーってさせてやってくれ。


「そうです。ねぎとろ号はカッコいいのです。そしてすばらしい目の付けどころですね。副兵装としての魚雷もさることながら、本艦が『ねぎとろ』の名を冠する理由はまさに主砲が理由なのですから」

「なんかすごそうじゃねーか。ねぎとろってのは意味わかんねぇが」

「思い当たる軍事用語はないなぁ……トロ、のところがトロールなら妨害兵器っぽいですけど」

「……特別にお見せしましょう」

「え、いいの? やった! 見たい見たい!」


 大いに盛り上がり、四人仲良くタラップを上がっていく。とりあえず手を振っておこう。あ、コガネが振り返してくれた。まあ、俺も乗るのだけれども。


「モブコ、少しいいか」


 振り向くと眼帯の軍服少女。シドウだ。服装の黒と髪の白との対比がいかにもカッコいい。


「機動アーマー部隊の編制についてだ。君は私の小隊の二番機に決まった。別小隊の一番機兼部隊副長という案に私が反対した結果だ。その理由を説明したい」


 おお。言いにくさを感じていながらもそれから逃げない真っ直ぐさ。やっぱり見た目だけじゃないぜ、<夜叉のシドウ>は。


「士官教育の有無は問題視しない。君は聡明だ。勇敢でもある……だが、自らの安全を考慮しない傾向があるように思う」


 憂いを帯びた口調。申し訳ない。先日の「魔の山」では醜態をさらしたからなあ。


「カバーする僚機が必要だ。機動力と戦闘スタイルを鑑みれば適任は私になる。それが編成理由だ。納得してもらえるだろうか」


 納得もなにも、もとより否やはない。むしろ申し訳ない。


「もちろんです。精一杯戦いますから、どうぞよろしくお願いします」

「こちらこそだ。AP兵器使い同士、頼りにし合おう」


 握手にも誠実さを感じてしまうな。ヒーローだもの。


 でも、この子がプロキア専門学校の所属ということは忘れないでおきたい。連合の中では最も穏健派であり、現実主義路線の校風ではあるけれど……静かな絶望を漂わせるキャラが多いから。


 本編主人公パーティの<雷火のチドリ>は第二章で言っていた。「無駄かもだけど、やるだけやってから死にたいんだ」と。同校機動部隊のエース<烈騎のハクト>も第四章の決戦時に泣いていた。「どうせ、こんな世界さ。いつだって、がんばるほどにみじめになる」と。


 シドウはどうなのだろうか。外伝で彼女が弱音を吐いたことはない。しかし、英雄然とした立ち居振る舞いの裏に抱えているものがあるのかもしれないじゃないか。


 よそう、無責任に憧れの視線を向けるのは。


 自らの安全を考慮しないという指摘も……本当は彼女自身のことなんじゃないか?


「ん? じゃあ、三番機って誰になったんです?」

「イツキだ。私、君、イツキの三人組で第一小隊となる。コールサインは『サーモン』だ」


 なぜサーモン。魚類つながりということだろうか。


「なるほど。第二小隊がコガネたちの『ランサー』隊ですね」

「その通りだ」


 お魚屋さんのハマチ……口に出したら鮮魚店の品物しか思い浮かばないんだが……彼女の『陥落地域奪還作戦』は予想以上に本格的なものだ。


 拠点となるドリフ商学院はもちろんのこと、アクセスの近いフリーダムライト学院、イスラ工学院、ニューパラダイス学院、レべリオンスター学院の四校とも程度の差こそあれ公的な協力体制を整えてあるそうだ。シドウがいる以上、プロキア専門学校とも内々の関係があるのだろう。


 だから戦力も多国籍ならぬ多学籍だ。俺は一応ドリフで、シドウがプロキア、イツキがイスラ、コガネたちがフリーダムライト、そして―――


「おー、でっかいねぇ。これならクジラも相手にできそうじゃーん」

「……クジラ、乗ってみたいな……」

「あんたたち……相手は捕食タイプよ。ダメコン性能が気になるわ。軍艦並だといいんだけれど」


 ―――あの三人が、ニューパラダイスから派遣されてきた戦力だ。


 アホ毛が目立つのんきそうな小柄の子は<巧攻のウティ>。背が高く大人しそうな黒髪ロングの子は<閃弾のシデン>。青髪ミディアムボブで中肉中背の子が<甲守のアオイ>。


 生きているし、笑っているよ! 本来なら「魔の山」で悲惨なことになったはずの三人組が!


「あ、シドウ特務大尉! ほら二人とも駆け足!」


 特務大尉? そういえばそんな設定もあったっけ。なにしろAP兵器使いだ。治安維持軍から特捜部への出向だとかなんとか。


 アオイを先頭に駆けてきた三人は、シドウを前に整列し、ピシッと敬礼を決めた。


「ニューパラダイス学院所属、機動甲兵部隊第六中隊、第二小隊、小隊長少尉アオイ以下三名、着任しました!」

「着任を確認した……が、本作戦中に軍階級は無用だ。私のことは名前か役職で呼べ」

「はい、では隊長とお呼びします」

「君たちは我が機動中隊の第三小隊となる。コールサインの希望はあるか」

「はい、では『ネクスト』でお願いします」


 なまら凛々しい。それが喜ばしい。


 思いがけず発生させてしまった「魔の山」だったけれど、結果的には惨劇を回避できたし、ハマチいわく「作戦実行のための最後のひと押し」になったらしいしで、いいことづくめだ。


 なんのかんの、アマミも大きな利益を得たしね。補給相談役ポジションで。


「……あの、そちらの方はどなたでしょうか」

「紹介しよう。ドリフ商学院のモブコ。先の戦いのダッドⅠだ」

「黒いAP兵器の! ご挨拶させてください!」


 お、おお? なんか三人に勢いよく自己紹介されたんですけれど。名前知っていますけれども。


「あなたの戦いぶり、感動しました! 勇猛果敢とはまさにこのことかと!」


 あー、そうか、あの時の派遣部隊にも三人はいたのか。そりゃそうだ。いよいよもってがんばった甲斐があったなあ。


「戦闘終了後に倒れたと聞き、心配していました……もうお身体の方は大丈夫なのですか?」

「問題ないですよ。寝過ぎちゃうだけですから」

「あ、わたしと一緒だー。寝ちゃうよねぇ、戦闘のあとって」

「ちょっとあんた、口の聞き方!」

「えー?」

「構いませんよ。どうぞお気軽に……話せるだけでうれしいんですから」

「……私もうれしい……」

「え! シデンがしゃべった!? 初対面の人相手なのに!?」

「……やさしそうだから……」

「あー、わかるかも。なんかイイコイイコしてくれそうだよねぇ」

「どういうわかりかたよ! たとえ軍階級無用って言われても、節度ってものがあるでしょ!」


 笑っちゃうなあ、このにぎやかさ。これだよ。こーゆーのを見たいんだよ、俺は。


 ここは本当に理不尽な世界で。


 大人がいないばかりに子どもが子どもでいられないなんて、そんなの許せないから。今の楽しさだけでなく、明るい未来を思ってワクワクしてほしいから。


 頼むぞ、グランヴォルド。俺に最後までカッコつけさせてくれよ?


 AP兵器ありとはいえ、九機で危険地帯へ攻め込もうっていうんだからさ。

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