12 / 外伝と改変
清潔なベッドの上で、優雅かつ憂鬱にページをスワイプする。
「魔の山」……か。
本編でいうと第三章の終わりに起こったとされる、悲惨としか言いようのないイベント。
攻略サイトのコメント欄はひどいもんだ。阿鼻叫喚というやつ。でも正当な叫びだよ。そりゃそうさってくらいに少女たちが死にまくるんだもの。
大陸中央の険しい山地から、ある日突然、黒い濁流が押し寄せる。
それはいわば液状のフロムヘルのようなもので、そこからは各タイプのフロムヘルが無数に発生する。要するに海側で稀に起こる「津波を伴う大規模襲撃」が山から起きたわけだ……いや、そんな簡単なものじゃないか。
だって、津波対策していないところへ津波が来たようなものなんだから。
直撃されたのはフリーダムライト学院。ここって周囲に強力な学校があるから対フロムヘルの防衛意識が弱い……同じ理由から内部で連合派、鍛造派、中立派と外交がらみのドタバタ議論を繰り返していたわけだが……それが全て裏目に出てしまう。
まず防衛戦力が足りなかった。周辺校を刺激しないためとはいえ、所属生徒を傭兵として派遣しすぎていたんだ。<鉄槌のレジィ>なんかもその例だよな。
次に、連合の治安維持軍を動かせなかった。鍛造にも無視された。まさに外交の失敗。
中立であることのデメリットをグロテスクに示す……本編主人公へのアンチテーゼなら最悪だ。
しかし、惨劇を招いた最大の理由はやはり平和ボケという名の正常化バイアスだろう。「そんなことが起こるわけがない」という鈍さ。「どうすればいいか議論しよう」という遅さ。「誰のせいでこんなことに」という……愚かさ。
かくして、ろくな抵抗もできずフリーダムライト学院は壊滅してしまう。
少女たちが泣き叫びながら死んでいくんだ。喰われたり、なぶられたり、もてあそばれてさ。
……メッセージ性が嫌だわ。ガチでむかつく。コメント欄の皆もそう思うよな? 政治批判とか思想とか、そういうのやりたいなら登場人物を大人にしてくれよ。子どもでやるならハッピーエンドしろし。
外伝主人公<夜叉のシドウ>は、めっちゃがんばる。奮闘に涙したファンも多いはず。
彼女のAP兵器「ヴァルキリアス」は作中最強の対フロムヘル能力を有する。強力無比なPRRは機動アーマーそのものを発光させるほどで、攻防一体のバリアーとしてフロムヘルを鎧袖一触にするからだ。どうも代償がありそうだけれど。
その力をもってしても、辛勝だった。遅ればせながら来援したプロキア専門学校とニューパラダイス学院の派遣軍にも甚大な被害が出てしまって。
具体的な一例としてクローズアップされたのが、<甲守のアオイ>の三人組。
本編第四章に傷病者として登場するアオイ……ツンデレがんばり屋さんキャラの言動に混入する異常行動……人形と真面目に会話したり、ずっと山へ行く準備中だったり、寝ずに花壇の整備をしたり、急に泣き叫んで走り出したり。その原因は「魔の山」にあった。
アオイ率いる三人組は孤立し、一か八かの敵中突破を敢行する。その途上、まず<巧攻のウティ>が死ぬ。囮となって敵を引きつけ、八つ裂きにされる。
次は<閃弾のシデン>。彼女は捕食タイプに下半身を咀嚼されながらも、最後の力で長距離射撃を成功させる。決死の弾丸は破壊タイプの急所を貫く。そのおかげでアオイは窮地を脱し、撤退に成功するんだが。
その結果、アオイの心は壊れてしまうわけだ……はぁ……思い出すとしんどい。
だから。
だからさ?
今回のWeb漫画最新話はいいねえ! 大好きだぜ! もう一回読も!
「俺が……俺がなんとかしなきゃ……!」
モブコ、青ざめた顔で決意。うんうん。君が地下でAP兵器を起動したから起きたことかもね。
ん? じゃあ外伝の時はどうして「魔の山」が起きたんだろう。誰か考察していたっけ?
「うおおおおお!!」
咆哮の突撃。なにげに盾や装甲が光っている。PRRだとしたらちょっとした外伝再現だ。
がむしゃらながらも理にかなった格闘戦。アクション描写もハイクオリティ。グランヴォルドはコンセプトにロマンがあるよ。重装甲、高機動、格闘特化だもんな。
でも劣勢。それはそう。生き残るだけならともかく侵攻阻止は無理すぎる。
「ダメだ! ダメなんだよ! ここで止めないと、大変な……大変なことになる!!」
ハイパーPRRフラッシュとファンが名付けたところのパイルバンカー炸裂。ひきつった笑み。でもそれ「やったか!?」ってやつさ。ほら、フロムヘルはまだまだ盛りだくさん。
「俺がどうにかしなきゃ! こいつらをやっつけなきゃ! じゃなきゃ、なんのために俺は!」
なにげに意味深なセリフ。この人格、やっぱりAP兵器を起動するためだけに生まれたのかな。
実際、すんごい戦いっぷりだ。いわゆるひとつの「戦いの中で成長している」ってやつ。手に汗にぎるしドキドキしてくる。なんならちょっと具合悪くなったし、初見の時。
ただなあ……それで大勝利させてくれないのが、灰フロのシナリオライターなんだよ。
次第に増える被弾。積み重なっていくダメージ。AP兵器は決して無敵じゃない。全力を尽くし限界を超えてもくつがえせなくて、むきになって……悟ってしまった終わりに歯噛みし、涙をにじませ、吠えて……それでも敗北は刻一刻と迫ってきて。
「ああ……ああああああああ!!」
捕食タイプへ自爆的なブーストアタックを仕掛けようとしたところへ―――天から一条の白光。
ヴァルキリアス!
青空そのもののような純白とロイヤルブルーの装甲を、優美なドレスのようにきらめかせて!
「こちらシドウ。学連特捜。貴機を援護する」
外伝主人公、エーントリー!
その手にはヘビーハイドロパイルバンカーよりも大きな突撃槍「ニーベルンゲン」。光学砲塔でもありながらブースターもついている規格外の武器だ。クソかっけー。
「シドウ!? ど、どうしてここに……!」
「あたいが呼んだ……って言えたらかっこつくんだけどさー」
複雑な顔のアマミは、なんと輸送ヘリの中にいる。隣にはイツキ。チラリと視線を向けた先には微笑みを浮かべた新キャラ。透明感のある美少女。誰なんだろうね、この子。
「情報を売る予定だったやつがさ? どーゆーわけだか、あたいたちのこと追いかけてきてたみたいで……助かったけど感謝したくねー! すげー納得いかねー!」
それどころじゃないんだけれど、でも気持ちはわかるセリフ。信用問題だよねぇ。
「あたしもいるよん!」
「この声……コガネか!?」
「ちょ、ちゃんとコールサイン使いましょうよ……コホン、ダッドⅠへ! こちらランサーⅡ!」
「ランサーⅢもいるぜ! とんでもねぇことになってんじゃねえか、オイ!」
コガネ、ナルセ、レジィの三人組もエントリー!
「ぼくたちは先発部隊です! どうか無理しないで! フリーダムライト学院義勇軍もすでに進発してますので!」
超明るいニュースを告げ、ランサー小隊が後方の高台から援護射撃を開始すると―――
「ホーッホッホッホオ! こーんな山ん中で奇遇ですわね御機嫌よう! マキノでしてよ! 華麗なる火煙衆、報恩報復の精神でもって助太刀いたしますわ! たまたま通りかかったので!」
「ねえねえ、同じヘリに乗ってきたのにどうたまたまなのかな?」
「コガネさん、しー! またプルプルしたらかわいそうですし……わあ、たまたまだなあ!」
―――別の高台からは火煙衆も射撃を開始した。マキノは赤面して震えながらだ。ペネペのゼルヴァインもいる。ブレイクフル・ドローンを高台に全展開しての連続砲撃。
「みんなが……来てくれた……?」
「集中しろ。プロキア・ニューパラダイス合同派遣軍の到着までは時を要する」
モブコとシドウの共闘! グランヴォルドとヴァルキリアスの即席バディはクソ強ツートップだよマジで! 後方の護りはゼルヴァインがいるし、例によって謎バフかかって銃撃が威力マシマシだしで、もうこんなのパーティーさ! 作画コストも半端ないパーリナイ!
で、完勝だもの。
フリーダムライト学院が危機におちいることもなく、外伝時の数倍という十分な戦力でもって「魔の山」を迎撃しきる神改変。
そりゃあね? ご都合主義な気はするよ? 来援タイミングできすぎじゃねとか? なんでフリーダムライト学院がまともに動けたのか―とか? コガネたちじゃ説得きびしいだろとか? 火煙衆どういう「たまたま」だよとかさ?
でも、ま、いいじゃん! 誰も死なずに、みんなで笑顔で、いいじゃん!
全ての「なんで?」は、この微笑む美少女……アマミと関係のあるっぽい謎のオリジナルキャラが明かしてくれると期待して……また……俺は寝るぜ。
どっかで見た気もするんだよな、この子……ゲームとかじゃなくてさ?