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水たまり

作者: 各務 史

『そろそろ油断している巽を怖がらせよう!夏のホラースペシャル2025!』に投稿した作品です

 さっきまでの篠突く雨がうそのように止んで

その激しい雨が大気中の塵を洗い流した分、空気は澄んできらめいて

今、空には虹が掛かっていた。

地面には雨の名残の水たまりがあちこちに出来ている。

相当量の雨を受け止めた地面からはムワッとした空気が立ち上っていて、

湿度の高い空気は不快で私をうんざりさせた。

ただ、それは大人の話。子どもにいたってはその限りではない。

現に娘は非常に楽しそうに水たまりを飛び越えている。

何が楽しいんだろう?たかだか水たまりを飛び越えることが。

ギリギリ縁を踏んで水しぶきが娘のスニーカーにかかっていて私はため息をつく。

「ねぇ、靴汚さないでよ。まだ、新しいんだから。」

「平気平気。上手く跳ぶもん。」

娘は聞く耳を持たない。ぐっと身体を縮めては赤いスカートを翻して

水たまりを飛び越える。その度小さく泥がはねる。

泥はねが靴を汚す度、私のいらだちは募っていった。

 私のイライラを知ってか知らずか、娘は次々と水たまりを飛び越えていく。

「里香、待って。もうちょっとゆっくり行って。お母さん追いつけない。」

声が届かないのか、娘は止まるそぶりもない。

ぴょん!ぴょん!ぴょん!どんどん跳んでいく。

数メートル離れたところで、私が声を荒らげた。

「里香!待ってって言ってるでしょ!」

その声に集中がキレたのか振り向いた娘がバランスを崩した。

 娘の姿が水たまりの上で消えた。

一瞬、水の中から手が伸びて娘を引っ張ったように見えたけど

湿度の高い空気が揺らめいてそう見えただけだろう。

そのすぐ後にビシャッ!と派手な音がして、娘は大きめの水たまりに落ちていた。

転び方がまずかったのか、全身泥水だらけで、髪からも茶色いしずくが滴る。

「もう、汚さないでって言ったでしょ。ずぶ濡れじゃないの。」

私は娘を叱りつけた。

娘は俯いたまま動かず数秒の間無反応だった。

「里香?聞いてるの?」

私の声がきつくなる。その声に初めて気が付いたかのように娘がゆっくり

私を振り仰いだ。

「ごめんなさい。お母さん。」

娘の謝る言葉に満足して、私はしっかり娘を見なかった。

だから気が付かなかったのだ。

娘の目の瞳孔が縦に細長くなっていたことにも、耳の形が変わったことにも。

気がつけなかった。

あのバランスを崩して落ちた水たまりで「何か」と入れ替わったことに…。



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― 新着の感想 ―
ラストが過去形なので、いずれ気づくときが来るということだと想像がつきますが、いつどのタイミングで気づいて、水溜りに落ちたときに入れ替わったことをどうやって理解したのか気になりました。 得体のしれない後…
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