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漆黒の令嬢は美しいものがお好き

作者: 丸太塔

漆黒の髪と深い瞳を持つ侯爵令嬢リディアは、幼い頃から煌びやかで美しいものに心を奪われていた。


リディアの世界には「美」が溢れていた。

侯爵家の屋敷に並ぶ宝飾品やお母様の宝石類、屋敷の見事な庭園、侯爵領の自然豊かな景色、湖面に映る月光、さらには市街の露店に並ぶ色とりどりの魔核や、魔力を宿した魔石まで⋯⋯どれもこれも、リディアの心をときめかせるものだった。


しかし、ただ眺めているだけでは、彼女が本当に求めている「美しさ」を手に入れることはできないと気づいていた。

彼女の心には、決して満たされることのない渇望があった。

それを満たすためには、単に美しいものを愛でるだけでは不十分だと理解していた。

深く熟考した結果、彼女は一つの決意を固めた。


「世界で一番美しいものを、この手で掴み取るのよ!」


そう心に誓ったリディアは、「美の追求」に人生を捧げることを決めた。

彼女の姿勢は、決して妥協を許さなかった。美しいものを求めるため、あらゆる面で完璧を目指した。


まず最初に、リディアが手を付けたのは、自らの容姿であった。

ある日、専属メイドのネルにこう尋ねた。


「もっと美しくなるためにはどうすればいいのかしら?」


ネルは微笑みながら答えた。


「お嬢様の美しさは、すでに完璧でございます」


「でも、私はもっと輝きたいの」


リディアはネルの言葉を遮るように言った。


「私の美しさは、まだ満足できるものじゃないわ!」


リディアは、黒髪の艶をさらに磨き、指の先から全身に至るまで輝きを保つために、日々努力を惜しまなかった。


次に、彼女は知識を深めることに力を注いだ。


「リディア様。より多くの書物を読まれることをお勧めします」


家庭教師のマックウィーンが言った。


「そうね。私が求めるのは、単なる美しさではないわ。美の本質を理解することが大切よ」


美しいものをただ美しいと感じるだけでは、真の美を理解することはできない。

美しさの本質を知るために、リディアは文学、歴史、芸術、詩、音楽、哲学など、あらゆる分野に目を向け、深い教養を身につけることに没頭した。

その探求心と学びの姿勢は、学園中の教師や学生たちを感嘆させ、彼女を尊敬の対象に変えていった。


迎えた舞踏会のデビュタント。

彼女は父親に頼み込み、自らドレスのデザインを考案した。

そして誰よりも美しい所作で人々を魅了し、優雅に舞い、洗練された言葉で貴族たちを感嘆させ、見事デビュタントの主役を勝ち取った。

その姿は、まさに「美」の極みであった。


「でも、私はこれで満足しないわ。まだ追い求めなければならないものがあるの」



そんなある日、リディアが学園の図書館で本を探していると、突然、ドルバ王国のオスカー王太子が現れた。


陽の光を閉じ込めたような金色の髪、透き通る青い瞳、端正な顔立ちにすらりとした高身長、そして優雅な立ち振る舞いーー


オスカー王太子はリディアと同学年で、先日留学先の隣国から帰国したばかりだった。

かつて二人は幼少期に王宮内で会ったことがあった。

当時もとても可愛らしい王子だったが、今、目の前にいる彼は、美しい立派な青年へと成長していた。


(まさに「美」の極み……眼福ですわ!)


心の中で歓喜の雄たけびを上げそうになるのを必死にこらえ、リディアは優雅に一礼する。


「リディア嬢、こんなところでお会いするとは。どのような本をお探しですか?」


(まぁ!私の名前を覚えていてくださるなんて!)


興奮を抑えながらも、完璧な令嬢として振る舞い、リディアは微笑んだ。


「オスカー王太子。私は美の追求のために知識を深めております。貴方もご興味がおありですか?」


オスカーは微笑みながら頷いた。


「もちろんです。美しさは、人間にとって非常に大切なものですから」


「王太子も、美を追い求めているのですね?」


オスカーはしばらく沈黙し、ゆっくりと答えた。


「はい。私は王国のために、美しい未来を築きたいと思っています」


リディアはその答えに深く感動した。


(美しい王国!なんて素晴らしい響きでしょう!!)


オスカー王太子なら、きっと私に美しい世界を見せてくれるかもしれない。


そうして、二人は度々学園で顔を合わせるようになった。



そして、最後に彼女は魔力を身につけることを決意した。

美しいものを生み出し、そしてそれを操る力を得ることこそが、彼女の「美」の探求において不可欠な要素だと理解していた。

リディアは魔法の研究に没頭し、魔物から得られる魔核を得るために必要な技術や、魔石に魔力を込めたる能力を研鑽していった。



ある日、彼女が学園で魔法の研究に没頭していると、オスカー王太子が興味深そうに近づいてきた。


「リディア嬢、貴女は魔法にも関心があるのですか?」


リディアは微笑みながら頷いた。


「ええ。私の美の追求には、魔法の力も必要不可欠ですから」


その努力の甲斐あって、リディアは数々の魔物を打ち倒し、美しい魔核を手に入れる術を身につけた。また、魔石に各属性の魔力を宿す付与魔法の使い手として、多くの魔術師たちから驚嘆される存在となった。



こうして、リディアの美の追求によって、彼女の身の回りには更なる「美」が溢れるようになった。

しかし、どんなに美しいものを手に入れても、心の中に何か足りないような感覚は消えなかった。

彼女が本当に求めていた「美しさ」は、目に見えるものだけでは満たされることがなかったのだ。



そして、とある舞踏会での一幕。


オスカー王太子はリディアのそばに歩み寄り、まっすぐに見つめて問いかけた。


「貴女はなぜ、そこまで美を追い求めるのですか?」


リディアは静かに微笑み、こう答えた。


「それは、私の魂が美を追い求めずにはいられないからですわ」


彼女の言葉には、努力と情熱が込められていた。

彼女がこのような言葉を口にしても、誰も異論を唱えることはできなかった。

なぜなら、彼女の美への追求がどれだけ真剣で、深いものであったか、周囲の誰もが知っていたからだ。


オスカー王太子はその言葉に深く頷き、優しく言った。


「ならば、私は貴女の求める美しさに、ふさわしい存在でしょうか?」


その言葉を聞いた瞬間、リディアの全身を震えるような感覚が包み込んだ。

彼は強い意志を持ち、国の未来を真剣に考え、理想を追い求める聡明な王太子。

これまでどんなに美しいものを手に入れても感じたことのない、圧倒的な輝き!


そのとき、リディアは確信した。

美しさは、外見だけでなく、内面や心の深さ、そしてどれだけ真剣に生きるかにこそ宿るものだと。

オスカー王太子こそ、まさに私の追い求めた究極の「美」!


「ええ……貴方こそ、私の最も輝かしい存在でございますわ!」


二人はそっと手を取り合った。



その後、リディアとオスカーの関係は、国中に知れ渡った。

金と黒のコントラストは王宮の象徴となり、二人は光輝く美しい存在として、人々の憧れとなった。


リディアの美の追求は、ついに最高の形で実を結んだのだった。

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