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ミズのタニ  作者: Ono310ru
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出会い

柔らかな光が床に反射し、窓の外では桜の花びらがひらりと舞っている。新入生たちが整然と並べられた椅子に座り、ソフトテニス部の入部説明会が始まるのを待っていた。置鮎里香おきあゆ りかは、窓際の席に座り、友達と小声で話を交わしている。


友達

「ソフトテニスって、どのくらい練習キツいんだろうね?」


里香

「うーん、普通じゃない? この学校、そんなに強豪校ってわけでもないし」


二人で笑い合いながら、特別な緊張感もなく説明会を待っていた。ごく当たり前の新学期の始まり。特に印象に残ることもなく、淡々と進んでいくだろうと里香は思っていた――あの自己紹介が始まるまでは。


「えーっと、1年の佐藤です。部活は団体戦です。二兎も三兎も追っていきましょう。えっと、よろしくお願いします。」

「1年の繁本孝太郎です。中学から続けてて、レギュラー目指します!未来を見ることが出来ます!マタスクエナカッタヨー!!」


一人ひとりが順番に立ち上がり、名前や抱負を簡単に話していく。里香はそれをなんとなく聞き流していた。特に興味があるわけでもなく、次は誰だろうという程度の感覚で――。


ふと、場の空気が変わった。


立ち上がったのは、背が少し低めで、きっちりと眼鏡をかけた男子。少し癖のある髪が目を引く。全体的にどこか頼りなさそうな印象だが、マイクを握る手元にだけ妙な自信が感じられる。彼は軽く咳払いをして、笑顔を浮かべながら自己紹介を始めた。


水屋湊志みずや そうし

「えーっと、1年の水屋湊志です! ソフトテニスは全然やったことないですけど、体を動かすのは好きです!」


一瞬、普通の挨拶かと思った。しかし彼はそこで終わらなかった。


湊志

「あと……」


意味深に周囲を見渡し、笑みをさらに深める。そして次の言葉を放った。


湊志

「可愛い先輩の皆さん、連絡待ってます!」


一瞬の静寂の後、ざわめきとクスクスとした笑い声が広がる。


「何それ?」

「誰、あいつ?」

「めっちゃ自信家じゃん!」


里香も思わず目を丸くしていた。だが、その一方で彼の視線が一瞬、自分に向けられたような気がした。いや、正確には「どこか定まらない視線」だった。それが妙に引っかかる。


里香(心の声)

「……何、あの人。場を盛り上げようとしてるだけ……だよね?」


隣に座る友達が小声で吹き出した。


友達

「里香、どう? ああいうの」


里香

「いや、別に……普通かな?」


淡々と返しつつも、彼の奇妙な自己紹介と視線が脳裏に残る。


学校帰りの道を歩きながら、里香はなぜか彼の言葉を思い出していた。


里香(心の声)

「可愛い先輩、連絡待ってます……って」


思い浮かぶのは、彼の自信満々の笑顔。あの不思議な視線。なぜか、そのすべてが胸の奥でモヤモヤとしている。


自分がどうして彼のことを考えているのか、それが分からない。それが少しだけ気に入らない。


そんな時、スマホが振動する。画面には「ソフトテニス部のグループチャットに招待されました」と表示されていた。メンバー一覧を開くと、「水屋湊志」の名前を見つける。



その瞬間、なぜか彼の名前を見た途端、胸の奥がざわつく感覚を覚え、そっと画面を閉じた。その感覚が面倒なのか、期待なのか、自分でもわからないままーー。

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