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時は流れにノリまくり、あっつい夏や秋をぶっ飛ばして、冬になった。
私の五体投地事件で桐間と羽澄に無理やり連れてかれた時以降、サロンにはいかないと決めていたのだが、その時話しかけられてお茶をした鳳翔小雪様が最近私に会うとサロンに誘うようになった。
「失礼いたします、神子戸さんはいらっしゃるかしら」
おっとりしながら言った彼女にクラスメイトたちは皆ビビり散らかしていた。
そりゃそうである。
小学一年から見た小学六年生なんてすごく大人だ。しかもサロンの会長である。
そんな実質初等部の最高権力者は私を見つけると、粉雪のように儚げに微笑んだ。
「会長、わざわざここまで足を運んで頂いて申し訳ありません。私に何か御用でしょうか」
「えぇ、神子戸さんにお茶のお誘いがしたくて………」
小雪様が発した一言と頬に手を当てる所作は、それだけで私とは比べ物にならない程気品が感じられた。
周りのクラスメイトたちも、小雪様に見惚れているのか、先程までビビり散らしていたくせに皆ボーっと小雪様を見ている。
「あの、何故私を?」
「私、神子戸さんがいいのです………あぁ、放課後なにかあるのでしたら、無理に言いませんわ。でも、神子戸さんと前お話した時間が楽しかったのです………………」
おいおいおいおい、こちとら小学一年生だぞ。五歳差!五歳下!
五歳下と話して楽しいとかあるか?可愛いならわかるけど、私にはつばきのような愛らしさはないし、なんなら精神年齢余裕であなたのお母さんくらいですけど。いや流石にもうちょい下か。前世死んだの二十代後半だしね。
私にあるものと言えばなんだ、マジでなんだ………わかんねぇ…………。
なんでこの人は私のことをこんなに可愛がってくれてるのか。
この間も廊下ですれ違っただけなのにめっちゃ美少女スマイルで微笑まれたしね。いいもの貰っちゃったわ。
小雪様の考えてることはよくわからないが、まぁまぁ気に入られているのだろう。
精神大人ですもん。そのくらい分かる。
私のことを好いてくれる人を無下には出来ないし、そもそも会長からの直々のお誘いを断るほど私も肝が据わってるわけじゃないので、しぶしぶサロンに行くことにした。
やっぱりあの煌びやかな空間は慣れないんだよね。
・
サロンはクリスマスの飾り付けがされていた。
入った瞬間見える、大きめのクリスマスツリーには様々なオーナメントが飾られており、室内には所々調度品がスノードームなどに置き換わっていた。
「凄いですね」
「えぇ、毎年この時期は心が弾みますの」
小雪様はニコニコしながら「あちらのソファーにしましょうか。メニューも変わっていますのよ」と私の手を引いてソファーに座った。
小雪様の手、超すべすべだった。
温かいホットチョコレイトをちまちま飲みながら、博識な会長の習い事や趣味の話を聞いていると、例のニコイチがやってきた。
「会長、こんにちは。神子戸……お前来たのか」
「久しぶりだね神子戸さん。………会話の途中に、すみません会長」
「あら、構いませんわ。同学年の子がいた方が神子戸さんも気が楽でしょう」
そんなことありません。全くもってありません。
会長と桐間と羽澄が同じ場所に座ることによって、サロンの一角だけめっちゃ豪華になってしまった。
そしてその中に座る私。明らかに場違いだと思うんですが。
「そう言えば、もうすぐクリスマスパーティーですね」
羽澄が口を最初に開いた。
「そうですわね、皆さん初めてでしょう?やはり楽しみにしてるのかしら?」
「はい、サロンのメインイベントでもあるので」
クリスマスパーティーかぁ。
どうやら、高級ホテルの会場を貸し切って行われる、中等部や高等部のメンバーも全員出席する超大きな行事らしいんだが、原作では書かれていなかったからよく分からない。
私もメンバーなので勿論参加しないといけないのだが、着ていく服とか全然決め手ないやどうしよう。お手伝いさんと一緒に買い物に行くのもいいけど、高いやつを新しく買ったところで、パーティードレスなんてめったに着ないしな。
こういう時に母親がいないと結構大変だ。
親父よ、つばきにばっか構ってないで私の面倒を見てくれ。まだ小学一年生だぞ。