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7 鳳翔小雪の救済


(わたくし)の両親は、それはそれは私に甘い。


我が鳳翔家がかなり裕福な家だというのも相まって、私が幼いときは本当にお姫様のように丁寧に育てられました。

父親は私のことをリトルプリンセスなどと呼び、母親は私を見るたびに可愛い可愛いと頭を撫でた。

恥ずかしながら小さい頃の私は、自分を本当に「可愛いお姫様の私」と思っていましたの。


そんな甘い金平糖のような夢から覚めたのは小学校を入学したころでした。


鳳翔の血筋、財力。それらは当たり前のように私に「特別生徒」という特権を与えました。

入学した日、特別生徒として、同じ特別生徒の先輩にこの学園のサロンに連れて行かれた時。


一歩、サロンの中に入った瞬間、私は思わず息を呑みました。

そこには本物の、お姫様のような先輩がいたのです。


容姿、気品、どれを取っても瑕疵一つ見つからない。

「あら、貴方方は新入生の子たちかしら?」

そう言われた途端、地面がいきなり崩れ落ちたかのような感覚がしました。


あぁ、なんて勘違いをしていたのでしょう。

私は決してお姫様などではなく、本物のお姫様から見れば「ただの新入生」だったのです。



時は流れ、私はプライマリーサロンの『会長』になりました。

少しでもあのお姫様に近づきたくって、口調をまねてみたり、勉学に励んだりしましたの。

お陰で私は昨年、お姫様に「次の会長になってもらえるかしら?」と、同学年のサロンメンバーの中では最も優秀であると認められました。


ふふ、他人と自分を比較して、優劣をつけてしまう。

このようなところがあるから、私はずっとあの人と同じようにはなれないのですね。


会長の座に就いてからしばらくたち、今年も新入生が入ってくる時期になりました。


今年は少し驚きました。いいえ、かなり驚きました。

桐間家と言えば、上流階級の人間ならば名を知らぬものなどいない、あの桐間家。

そこの御曹司が入学したほかにも、羽澄家の一人息子さん。神子戸家のご令嬢や他にも………………。


言葉を選ぶのが難しいのですが、なんというか、豊作でしたわ。


私がこのサロンのことについて、会長として新しいサロンメンバーに説明している間、キラキラとした顔ぶれの中に、一人全力で気配を消さんとする女の子がいました。

名前を、神子戸梢と言うらしいです。


私がニコリと微笑むと、無表情で九十度のお辞儀をするような、少し変わった子でした。

周りの同学年の子と比べると、少し、言ってしまえば華やかさに欠けるような子だったのですけど、私はその時からこの子になにかを感じていましたの。


あの子は、サロンの説明の際に一度来たきり、サロンに足を運ぶことはありませんでした。

なんてことでしょう。会長として内心焦っていました。


サロンは、特別生徒同士の交流を深める場です。

ここで築いた交流関係は、ここから先ずっと続く、かなり大切なモノなのです。

サロンメンバーで、しかも一年生なのに、全くサロンに来ないとなると、あの子が上級生の反感を買うのではないかと。

会長として、特別生徒の後輩の面倒は見なくてはならないのですけど、正直言って煩わしいことは嫌ですの、やりたくありませんの。


それでも、やはり私自ら出向いてあの子をサロンに連れて行かなくてはいけないのかしら、と頭を悩ませていたある日。

あの桐間君と羽澄君が、神子戸さんをサロンに連れてきました。


「おい、入り口に突っ立つなよ。邪魔になるぞ」

「桐間様、一歩足を踏み入れたのでもう帰りたいのですが」

「駄目だ」

「ふふふっ、面白いことを言うね神子戸さん」


スン、と、表情の抜け落ちた顔でシャンデリアを見つめる神子戸さん。

同学年の桐間君や、羽澄君と一緒にいた方がいいのかとも思いましたが、なんだか彼女の少し変わった行動に気がひかれた私は、神子戸さんに話しかけました。


「神子戸さん、少し私とお茶をしませんか?」

「えっ」

「ラズベリーのマカロンと、ザッハトルテ。どちらがよろしいかしら」


「ラズベリー………いや、ザッハトルテ……………えと、らず、いや………………」


私が話しかけると目を丸くした彼女は、どちらのお菓子がいいかで5分ほど悩んでいました。


「ラズベリー…………っ、クッ…………」

「両方にいたしましょうか」

「えっ、いいのですか?」


あまりにも真剣そうに悩んでいたので、少しおかしくって笑ってしまいました。

両方にしましょうと言うと彼女は無表情ながら、少しうれしそうに見えました。



「会長自ら私に話しかけてきてくださるなんてすごく嬉しいです」

「あらまぁ、うふふ」


アールグレイを飲みながら、優雅に会長として気品のある振る舞いに気を付けて、あまり表情の変化がない彼女と会話を進めます。

不思議な子でした。彼女の長い睫毛が揺れるたびに、彼女の独特の雰囲気が私の肌を撫でました。

彼女はとても賢い子でした。言葉遣いはまるで大人のようで、でもすこし私の友人と言葉遣いが違って、それがまた新鮮でした。


おそらく、この子には天性の魔性があるのでしょう。


五才も年が離れているのに、この子の声を聴くたびにもっとこの子と話したいと、何となくそう思ってしまうのです。

でも、ふと思いました。


「…………神子戸さんは、きっと生まれながらにして愛らしいのね……私なんかとは違いますわ」


私が持ちえない、どれほど頑張ってもあの人に追いつけなかったものをこの子が持っている。

そう思ったとき、すこし心が痛みました。


嫌ですわ、こんな幼い子に嫉妬してしまうなんて。本当に自分が嫌いになりそう。



「……会長の方が、お姫様みたいで綺麗で可愛いですけど」

「………………え?」


少し跳ねた髪を揺らし、首を傾げた目の前の少女。


………………私はこの時、彼女の何気ない一言に確かに、胸が軽くなったのです。






…のちに神子戸さんと仲良くなった私は、神子戸さんからこの現象を「即落ちニコマ」と教わります。


ふふ、本当に面白い子だこと。




すみません、書き忘れていましたが、三日書いて一日休みます

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