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妹とのお茶会は無事終わった。

少しは仲良くなれたと思う。途中で妹が「お父様におねえさまを自慢しに行きますのー」とか言い出したときは冷や汗ダラダラだった。




それはそうとて、学校がめんどくさい。

今日も私が教室に入った瞬間、様々な視線が背中に突き刺さる。


まだ小学生なので、小声の音量の調節ができないのだろうか。私の耳に届くくらいの音量で、四方八方から私について話す声がヒソヒソ聞こえる。


「サロンメンバーよね、神子戸様って」

「でも入学式以降、一度もサロンに行ってないそうよ」

「なんでかしら、桐間様は羽澄様と一緒に毎日行ってらっしゃるのに」


桐間と羽澄は関係ないでしょー!!あんな煌びやかな二人組と地味女を比べるなー!!

つかアイツらいつ仲良くなったんだ。あ、サロンでか。

うん、いいねぇ。あの二人は漫画でも息ぴったりのニコイチだから、仲良ければよいほど原作ファンとしてちょっと嬉しい。


「でも、神子戸様、…………正直言ってあの二人とは全然違うわ」

「えぇ、何というか、地味でオーラがないというか」

「髪の毛ぼさぼさですものね」


おい、聞こえてんぞクソガキ。


あっ、やだクソガキだなんて。私いつからそんな口悪くなっちゃったの?

………元々です。性根からひん曲がってるので直しようがありません。ごめんね。許してくれ。


私の性格が凄く悪いのは仕方ないことなのだが、私は思ったことでも相手が嫌な気持ちになることは口に出さないようにしている。中身大人なので。

あの子たちはまだ、心も体も幼い。陰口を言っても仕方ないし、言ってる方が健全だと思う。


でもね、小さい子の声ってすごく耳に響くんですよ。


あの子たちが中学生くらいだったら、というか幼い子特有の高音じゃなかったら全然気にしなかった。

子供の高音ってこんなに耳にくるものだっけ。私が子供の体で耳がいいのもあるのかな。


「あらっ!桐間様!!桐間様おはようございます!」

「ごきげんよう桐間様!!本日は羽澄様と登校なさったのですか?」


さっきまでヒソヒソしていた女の子たちが一斉にクラスに入ってきた桐間へと向かった。

いや、一斉にじゃないな、このクラスの中でも活発そうな女子のグループが話しかけにいき、そのほかの女子はうっとりと桐間を見つめている。


私も横目で桐間を見た。


うん、絶世の美少年。イケメンになる未来しか見えないわ。

だけど今日はいつも以上に眉間にしわが寄っている。


ははぁん。さてはそろそろストレスがマックスになりそうなんじゃないか?

これは予想だが、多分今日桐間の怒りは爆発する。


ここ数日、原作のように女子をバッサリ切らずにいたのは彼なりに自制していたのかな。

幼少期女の子にあまりに塩対応過ぎてお母様に怒られるエピソードあったもんね。ハッ、もしかしなくともそれなのでは?


だって彼が自分の嫌なことを我慢するなんて、ヒロインと関わる前は絶対な……



「………お前たち、いい加減にしろよ」


冷たい怒りを含んだ声に、クラスがシーンとなった。

………………ほぉらね。



いっやぁ、サロンどうすっかな。いきたくねーな。


私は今、サロンの扉の目の前にいる。

中に入るには少し扉を押せばいいだけだ。


行きたくないのに、実はこれと言った理由はない。

ただ、あんな煌びやかな空間に行きたくないだけだ。

同学年のサロンメンバーは私以外みんな「登場人物」なので、ハッキリ言うと顔がよく煌びやかなオーラを一人一人が纏っている。

しかし私はどうだ、ただの地味な女。家が超絶凄いだけの、本人はいたって平凡な女。


いや、サロンメンバーが全員美男美女の集まりってわけじゃない。私の同学年が異常なのであって、先輩方は割と普通である。あ、でも会長は美少女だったな。



昨日までは絶対に行かないと決めていたが、今日、私がサロンに行ってないことが学年にまぁまぁ広まってるらしく、他クラスから私のことを見にやってきた生徒を見て、ちょっとやばくね?と決意が揺らいだ。

私が妹に似た顔立ちだったらしたら、まぁまぁ違ったと思うのだが。




「あれ?神子戸さん?」


うげ。


おそるおそる横を見ると、明らかにそこだけ加工フィルターがかかってるだろと言いたいほど、なぜかキラキラしている桐間と羽澄がいた。

おぉー、今ので決めた。絶対に行かない。この人達と一緒の空間で何をしろと言うんだ。何もできないよ。無理、絶対無理。


「神子戸………?」

「あれ、諒太、同じクラスだったっけ」

「あぁ」


うそん、覚えられてた。あの桐間に。


「失礼いたします、私帰りますので」


なんとなくここに居たくなくって、ぺこりと一礼して去ろうとしたら右腕をガッと掴まれた。

ヒュッ。


「なんだ、行かないのか?」

「え」

「入ろうとしていただろうお前」


つっ、つっっっう、掴まれた。掴まれてる。腕を、桐間諒太に。

驚きと興奮と絶望が入り混じった変な汗がたらたらと額から垂れる。

なんだろう、桐間は別に、嫌いでも好きでもないキャラだったんだけど、その、変な感情で心臓が口から出そうなほどドクドクしてる。


「、う」

「入らないのか」

「っえ、と、やです!!!」



「は?」


勢いよく腕を振り、掴まれていた手を振り払った。

そのまま逃げるようにお辞儀をし、小走りでエントランスに向かう。

スマホを取り出し、運転手さんに迎えに来てほしいと走りながら連絡した。


あぁあああああ!!!むり!むり!!

あの女嫌いな桐間が?私に触ることにまず解釈違いを起こしそうになったし??アイツらがあまりに桐間と羽澄のショタの姿だったもんだから、オタクとして、そうヲタクとして!なんかのキャパシティを超えてしまったのだ。


断じてトキメキとか、そういうキュンとするようなものではなく、これは泣きたくなるような焦燥感に近いと思う。


「こここんなことなら、家でつばきとお話する方が癒されるし楽しいぃ、!」


なぜか凄く泣きたい気持ちで、足を組んで揺らしながら、エントランスのベンチに座って車を待った。


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