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サロンは初等部、中等部、高等部とそれぞれの校舎にひとつづつある。

初等部のサロンはプライマリーサロンと言う。中等部はセカンダリー、高等部はターシャリ。それぞれのサロンにサロン長がおり、その人を会長と呼ぶ。

高等部の会長がいうなれば「特別生徒」の長だ。この学校で絶対的な権力を持つ。


学び舎に権力とか、そういうのあっていいのかと突っ込みたいところだが、そういうものなのだから仕方ない。


初等部の会長は鳳翔小雪(ほうしょうこゆき)様だ。

まだ小学六年生、12歳だというのに、既に人の上に立つ者のオーラを持ってらっしゃる。

おっとりしているが、目の奥が舐めた口きいたらぶっ殺すぞと言っている。



「………という事で皆様、新しい新入生の子たちですわ」


「今年の期はなんて愛らしい!」

「桐間家のご子息?!僕の父が桐間会長にお世話になっていて……」

「まぁ!羽澄様!羽澄夫人にお母様がよくお茶会に誘われますの」


こいつら、いいえ、この人達は本当に小学生なんだろうか。

普通の小学生はな、ご子息とかそういう言葉使えないし多分聞いたこともないぞ。社会人も使う機会なんてあまりないし。


ちやほやされる同期生たちを尻目に、隅っこの方に縮こまって気配を消していたら、上級生に囲まれている同期の一人が私に気づいたらしく、てちてちと近寄ってきた。来るな。


「君が神子戸さん?これからよろしくね。僕は羽澄生馬(はずみいくま)


知ってます、総受けのいくまーですよね。貴方の総受けの薄い本前世で買いました。

とても良かったです。


とは口が裂けても言えないし、なにより目の前に立つ彼は小学一年生のいたいけな少年だ。出来るだけ優しく言葉を返す。


「よろしくおねがいします羽澄様」


そう言って笑顔を作ろうとしたが、さっきまで気配を消すことに必死だったからか、なぜか表情筋が動かなかった。


あとから自分の行動を思い返したら、隅の方で突っ立ってクール気取ってる地味女で泣いた。



さようならサロン。もう二度とここには来ません。

そう決意して振り返ることなく、帰宅したその日。


帰って真っ先に私は妹の部屋の前に立った。


手に持つはティーポットとティーカップが乗った木のトレー。



「つーばきちゃん、あーそびましょ」


陽気に小学生らしくドア越しの妹に言った。

………あれ?返事がないな?


ガタガタッと、何か物音がしてその後パタパタと足音がしたと思ったら、ドアノブが動いた。


「お、おねぇさま?」

「うん、紅茶あるけど飲まない?」


「お、お紅茶ですか………?」


ひょこりと出てきたのは、最強に可愛い悪役令嬢、そして私の妹である神子戸つばき(幼少期の姿)だった。


あまりの可愛さに出てきた瞬間トレーを投げ出しそうになったけど、ギリギリの理性で耐えた。

ただでさえこの体、手がぷにぷにしていてトレーが持ちずらいのだ。トレーが少し傾いたらお茶が入っているポットが倒れてしまうかもしれない。


妹は天使のように愛らしい顔をこてんと横に傾け、少しだけ顔を曇らせて私を見た。

まぁ、そりゃそうなるよね、あまり話さない姉がいきなりお茶しようだなんて何考えてんのか分かんないもの。


「おねぇさま、なんでいきなり」

「つばき、ごめんね私腕疲れてきたから中に入ってもいい?」

「えっ、おねぇさま、そのポッドお紅茶が入っていますの?大変ですわ」


慌ててつばきは部屋の中に入れてくれた。ちょろい。

椿の部屋は私の部屋と同じ広さだが、内装が私の部屋とはまるで違う。

私の部屋は特にこだわりがなく、ただ部屋が広いだけになんとなくごちゃっとしているが、椿の部屋はまるでお姫様が住む部屋のようにベッドから棚、机やいすまですべてのモチーフが統一されていてとても可愛らしい。


「つばきの部屋可愛い」

「あ、りがとうございます」


トレーを可愛らしいレースのテーブルクロスを引いた机に置くと、つばきはじっと私を見つめていた。

「その、おねえさまがお紅茶、作ったんですの?」

さっきから思ってたけど紅茶のことお紅茶って言うの。かわいいねぇ。


「うん、そう」

「すごいですわ!!すてき!熱くありませんでした?」

「えっ、うん、まぁ」


さっきまで私をちょっと警戒していた風だったのに、いきなり花が開くような笑顔を見せた妹にちょっと戸惑う。

…………いや、小学校も入学していない子だぞ。表情がころころ変わらなかったらそれはそれで怖いわ。

そう、決してサロンにいた人たちみたいな、頭の中で何を考えてるか分からない小学生の方が少ないんだから。むしろつばきは聡明なほうだから。


危ない危ない、ちょっとの時間で毒されかけていた。

つばきはモチモチのほっぺたに手を当てて、キラキラした瞳で私を見ていた。


「つばきもやってみたいですわ!!!」



「え、それはちょっと危ないし」

「おねえさまだって、シェフにきょか、もらえたんですもの、わたくしだって!」


えっ、許可とか貰ってないし、こっそり作って持ってきただけなんだけど。


「それよりほら、冷めちゃうから飲もうよ」

「あ、そうですわね!ありがとうございますおねぇさま!」


話を逸らしたことに気づかず、つばきはホクホクとした顔で紅茶をちびちび飲んだ。

………………かわいいな。


そう思うと同時に、脳内に私の知ってる「神子戸つばき」の音声と映像が流れた。



「貴女。桐間先輩はお忙しいとわかっていて、貴女のその私的な行動に付き合わせているのかしら?」

「お花畑さんだこと。………正直言って、最近の貴女は目に余るの」


「わたくしの堪忍袋の緒が切れる前に、退学、してくださる?」



うーん、この子があの氷のような美女に成長するなんて信じられないなぁ。

目の前に座る妹は、お茶と一緒に持ってきた一切れのタルトを美しい作法で美味しそうにほうばっている。



……………あれ、なんだか胸がギュっとした。

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