19
日に日に、柚木を潰そうという私の周りの女の子たちの私への圧が強くなっている。
今日も今日とて、女の子に「梢様は柚木さんをどうお考えで?」とかなんとか、よくわからないことを聞かれた。
うーん、これは困る。
そもそもまだ君たち小学生なのにこう、ネチネチしてるのはいかがなものか。
まだキャピキャピしている年齢じゃないの?と思ってしまう。
まぁ、親の会社のパーティーに首席させられたり、家目当てに話しかけてくる大人にあったりしている子たちがこの学校は多い。
そんな事ばっかりあれば、早熟するのも当たり前か。
取り敢えず、このままではいかんと思った私は対策を講じた。
私の新しくできたオトモダチ。
私のサロンメンバーとしての権力を盾に、柚木日葵に対抗できる派閥を作ろうとして、私に近寄ってきた子。
その子たちは大体、桐間や羽澄ファンの子だ。
庵君は柚木が狙っていないので、庵君ファンは柚木日葵にあまり何とも思わないらしい。
そもそも、庵君ファンは大人しめの子が多いしね。
「あ、あの、梢様。私にお話とは」
「緊張しないで、私は小豆さんと仲良くなりたいだけ」
最近できたオトモダチの一人を放課後お話があると言って呼び出した。
すこし緊張している彼女に張り付けた詐欺師のような優しい笑顔で微笑みかけ、ソッと両手を包んだ。
「小豆さん、確か羽澄様をお慕いしていたよね」
「な、なぜそれを……………」
「ふふ、わかるよ、恋する女の子の瞳をしていたもの」
「……そう、なんです、私、羽澄様のことが好きで……でも、私、サロンメンバーでもないし、あきらめていたんです」
「そうだったの」
「……それなのに!!柚木さんが羽澄様の教室に押しかけて!!話しかけるならまだしも、抱きついたり!あまりにも酷いですわ!」
「そう、それはすごく嫌な思いをするよね」
うんうんと相槌を打ちながら、内心柚木の行動にビビりまくっていた。
え、抱き着くの?マジで?原作の神子戸つばきが見たら怒り狂いそうだけど。
というかそれは、羽澄が怒ったりしないのか?アイツ確かに優しいし天使みたいだけど、漫画の中で怒るシーン相当怖かったぞ?
「―――みんなの羽澄様ですよ?それなのに!!!……なのに、っ」
目の前の彼女がぽろぽろと泣き始めた。
おおぅ、大丈夫か。えっどしたん、話きこか?いやもう聞いてるか。
よすよすと背中を撫でると、服の裾を掴まれて泣かれた。
マジかー、泣くほど柚木はやらかしてたのか。
ハンカチを渡して、背中をさすりながら優しく囁く。
「辛かったね、大丈夫。この件は私に少し預からせてもらえるかな?絶対になんとかするから、あと少し、待っていて欲しいの」
「、っ、ヒクッ、梢様………」
その子はこくんと首を縦に振った。
よし、オッケー。これからこの子は暴走して柚木に喧嘩売ったりしないだろう。
柚木もサロンメンバーにはなれなかったものの、まぁまぁ大きなお家ですものね、オホホ。
おっと、眼鏡がずれた。
今日はそれを七人くらい繰り返した。
そのうち四人が泣いた。びっくり。
・
次の日の放課後、私はサロンに直行した。
「桐間様、羽澄様、少しお話をしたいのですがよろしいですか」
「………神子戸か、最近サロンに来てなかったなお前。一瞬誰か分からなかったぞ」
「神子戸さん、久しぶりだね。全然いいよ……個室に移動しようか」
二人きりで会話をしていたので遠慮なく話しかけたのだが、その二人を鑑賞していたらしい先輩方や後輩たちが残念そうな顔をした。
いやぁ、ごめんなさい、こんな芋女が眼鏡芋女にレベルアップして戻ってきたと思えば、輝かしい二人に話しかけるなんて身の程を知れって話ですよね。知ってます。
でも連れてきまーす!ごめんなさーい!
はぁ?性格悪い?今更でしょうが!今まで私のどこに性格の良さがあったか?!
ないでしょうが!!
「神子戸、………変わったな」
個室の扉に鍵をかけると、桐間にそう言われた。
「えっ、…………あぁ、目が悪くなってしまいまして」
「それもそうだが、なんというか、……………髪か?」
おい、桐間よ。私の髪が今までボロボロだったこと、気づいてたのか。
きちんと三つ編みにしていたのに、バレていた。椿油スプレーも振りかけていたのに。
ちょっと複雑な気持ちになったが、髪が変わったと言われるのはやっぱりうれしいのでふぁさっと髪を手で掬い上げた。
「どうですか」
「「………………」」
「なんでもないです忘れてくださいそれよりも今日お二人に話があるのですが」
おい羽澄よ、服の袖で口を押さえて笑うな。見えてるぞ。
「ふふっ、話ってなにかな?」
「……………」
「はいはい、ごめんね。笑わないよ」
本当か?
不満げにしている私にニコニコと微笑む羽澄。
相変わらず、天使のような美貌だなと思う。
この時期のいくまーが見れるのもそんなに長くないと思うとなんだか寂しくなった。
それはそうと、私はこいつらにお願いをするために今日わざわざサロンに来たのだ。
「桐間様、羽澄様、お願いがございます」
「なんだ」
「うん、なに?」
「……柚木、日葵さんのことなのですが」
彼女の名前を言った瞬間、桐間の表情が一変した。
眉間にしわを寄せ、いかにも不機嫌ですという顔になった。
羽澄の笑顔もなんだかいつもと違って冷たい。
あっ、やっぱりこれ、柚木さん結構やらかしてんなぁ。
頭ン中で冷や汗をたらたら流しながら、ごくりと唾を飲み込んだ。
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