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元国立大医学部卒業のこの脳みそを百二十パーセント回転させれば、小学生の考えることなど容易く読めるのである。ふはは。


「あれ、貴女、何をしているの?」


私のロッカーを、放課後、皆が帰り終わった時間にごそごそしている女の子にラスボス調に声を掛けた。

女の子は飛び跳ね、真っ青な顔で私に振りかえった。


その子を見て、思わずえ?と喉から出そうになる。


いつもクラスの端で、大人しそうにしている九重灯香(ここのえとうか)ちゃん。

今にも泣きだしそうな彼女は、予想もしていない相手だった。


「そのっ、ごめ、ごめんなさい!わた、わた、ぁし、梢様にっ、」


ぽろぽろと、彼女の瞳からまぁるい涙が零れた。

なんとなく、直感で察した。

この子は誰かに命令されてやってる。


彼女の背中に手を回す。


一瞬、ビクッとされたが、ゆっくりさすると徐々に震えが治まってきた。


「ねぇ、九重さん。驚かせてしまってごめんなさいね」



「その、ゆっくりでいいのだけれど。…………貴女、誰かに言われてやったのではなくって?」


サロンメンバーのお嬢様らしい言葉遣いで、包み込むように話しかけた。


「私はね、権力にものを言わせて、他人の望んでいないことをさせる人間がだぁいきらいなんだ」

「もしあなたが………………いや、こういう言い方は良くないね」



「九重さん、あなたを私は信じてるから」


休み時間中に小学生が読まないような、分厚い小説を少し楽しそうに読んでいる、あなたが。

授業中に年相応に楽しそうに手を上げるあなたが。

こんなことを、無理やり誰かにやらされているのだとしたら。


私がそいつを、きつーく、懲らしめてあげる。


「ね?」


柔らかい両手を包み込むと、震えながらもこくりとうなずかれた。


「……私に、梢様に嫌がらせをしろって」

「うん」

「やなのに、そんなの、したくないのに、やらないとわたしのこと虐めるって」

「……うん」

「ごめんなさい、わたし、わたし、」


桔梗庵(ききょういおり)さまに、言われたとおりにしか、できなくって」



桔梗庵。


唐突な、「登場人物」に、頭が殴られたような心地になった。

………………そうだ、猫のような彼は、そういうやつだった。



ヒロインは、桐間と結ばれるまでに、なんの障害もなかったわけじゃない。

そう、それは例えば神子戸つばきだったり。桐間を慕う生徒だったり。


………………当て馬だったり。


桔梗庵は、俗に言う当て馬ってやつだ。

最初は面白半分でヒロインのことを虐めるが、段々ヒロインの素直なところに惹かれ、おもしれ―女。となっていき、最終的に告白し、振られる。

漫画でも序盤は「やな奴だなコイツ」となるが、後半になっていくと「うわ哀れな奴」と評価がめっちゃ変わるキャラである。


なによりコイツは過去が重い。

作中トップクラスで重い。田舎のばっちゃが送ってくる米より重い。


へらへらしているようで、実は努力家。

そして実は、私の最推しだったりする。


まぁじか、私最推しにいじめられてたん?泣くわー。降りよう。


最推しといっても、こんせの私の最推しは妹でして、庵は今は桐間や羽澄とおんなじ好感度である。

や、ちょっと今ので桔梗庵はめっちゃ下がったが。


取り敢えず、胸の中で泣く灯香ちゃんをよすよすしながら、前世の最推しをどうやって〆ようか、考えるのだった。


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