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「あら?お姉さまの靴が違いますわー!」
「あぁうん、壊れちゃって。えへへ」
渾身のクサイ演技で誤魔化すと、「そうなのですね!」と言われた。
うっ、この子に嘘をつくのは良心が痛む。だけどまぁ、姉がいじめられてる(?)と小学一年生が知っても、困るだけだろうし、私が言うのが嫌。
まぁ、所詮は小学生のお嬢様かお坊ちゃま。
今日私が学校でなんの反応もしなかったら、飽きてやめるんじゃないの?
そう思っていました。
・
「嘘だろオイ」
自分の教材が入っているロッカーの前で思わず立ち竦んだ。
私の声に、隣でロッカーから教材を取り出していた朱莉ちゃんが「どうしました、梢様?」と覗き込んできた。
「べっつにぃ?なんにもありませんよぉ?」
「へ、へぇー、そうなのですね」
バンッ!と光の速度でロッカーの扉を閉めた私に、朱莉ちゃんが少し疑いの目を向けた。
………………へ、へへ。
朱莉ちゃんに「お手洗いに行ってくるので移動教室に先に行っててほしい」と言って、ダッシュで走る。
違うよ朱莉ちゃん、「漏れそうなのかしら?」じゃないよ。
購買部の扉を体当たりするように、大変上品じゃない動作で開け、ギョッとしている受付のおばちゃんに急いで聞いた。
「すみません、小学二年生の理科の教科書類ってあります?」
「あっ、ハイ、そこの棚に一式」
「全部買います!」
手に持っている財布から大量の万札をスパァンとレジのトレーに叩きつけ、指さされた棚を横から一冊ずつとって、レジにドサッと置いた。
「あっ、一点、二点、三点、四点……………レジ袋はご入用でしょうか」
「大丈夫です」
「かしこまりました」
渡されたお釣りを急いで財布の中にねじ込む。
あっ、小銭が床に!なんてツイてないんだ!!クソっ!!
「だ、大丈夫ですか?」
「はい!!大丈夫ですありがとうございマァス!!!!」
両手に教材を抱え込み、また扉に体当たりして購買部から出た。
走る、走る。体力に自信が無いのですぐに息が切れ始めるが、走らないとこの校舎は広すぎるので、チャイムまでに実験室に間に合わない。
クッソ、誰だよ本当に!恨むからな!!
結局チャイムが鳴るまでに実験室には間に合ったが、ゼェハァと息を切らした私を見たクラスメイト達は揃って「えっ?」という顔をしていた。
はぁ、はぁ。目立っちゃった。かなちい。
・
「んごォォォォォォ!!!」
返ってきた私は、ベットの上に置いてある枕に顔を埋めて叫んだ。
怒ったぞ私は!
ロッカーの中に入っていた教材が、数学と理科だけだったので割と被害は少なかったものの、前世の庶民的な感覚からすると、それだけでもこの学校の使っている教材を揃えるのは結構お金がかかる。
靴と、教材。
私の貯めてきたお小遣いはまだまだ余裕があるけれど、今の財布の中はすっからかんだ。
万札が何枚も入っていたのに。悲しい。
父親には何も言ってないし言いたくもないので、今後なにかあったら払うのは全部私のお小遣いからだ。
ふざけんなー!ふざけんなよ!許すまじ!
これは将来のための貯蓄だぞ!私の大切な!!
考えれば考えるほど怒りが沸々と湧いてきた。
覚えてろよ、この私(神子戸家の財力と血筋を振りかざせるように見せれる地味女)を敵に回したら、どうなるか………………ふっ、ふっ、ふふ、アハハ!アハハハハッ!
その夜、神子戸家に幼女の笑い声が響き渡った。
「お姉さま、こっ、怖いですわ」
怯えた顔で、つばきが私の部屋に訪ねてきた。ごめんなさい。土下座した。