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二年生になった。
会長は学年が上がり、中学生になった。
この学校は小中高一貫なので、卒業式!ではなく進級式という、卒業式に比べれば少し小さい規模のものが行われる。
会長は、会長のことをよく慕っていた先輩を後任に指名し、サロンの皆に泣かれながらサロンを出て行った。
「神子戸さん。………………その、梢さんと呼んでもよろしいかしら?」
「えっ、全然。むしろ呼び捨てでも」
「それでは、梢ちゃんとお呼びしてもいい?」
少し恥ずかしがる仕草で私に聞いてきた小雪様。
めちゃくちゃ可愛かったので、脳内で鼻血を垂れ流しながら首をこくんこくんと縦に振ったら、嬉しそうに「セカンダリーサロンにもご招待するわね」と言われた。遠慮しておきたい。
あと、会長ではなくなるから自分のことは名前で呼んで欲しいと言われ、「小雪様」と呼んだら顔を赤らめて喜ばれた。
この人お姫様みたいな愛らしさがあるな。
・
それはそうとクラス替えである。
「あっ、俺達いっしょだ!」
「やったな!」
子供らしい、同じクラスになったことを素直に喜ぶ生徒たちがたくさんいるが、私には友達がいないので、どんなクラスになったところであまりなんとも思わない。思えない。
…………寂しいやつとか言うな。寂しくなっちゃうだろうが。
でも少しうれしいのが、今年は桐間や羽澄などの登場人物と同じクラスにならなかったことだ。
アイツらが一人でもいるクラスは、なんだかすごく騒がしいんだよね。
去年なんて、「あの」メンバーがいるクラス、少し事件があったらしいし。
「おねぇさまー!」
なにより嬉しいのが、つばきが入学してきてくれたことだ。
「お姉さまお姉さま、私のネクタイ、色が皆さんと違いますわ」
「そうだねー」
「お姉さまと一緒ですわ!」
「そうだねー」
「嬉しいですわ!」
「可愛いなお前(白目)」
おっ、やばい、妹の前で素の口調が出てしまった。そんなに隠してないけど、つばきが私の口調を真似してヒロインに「お前なんだ生意気な奴だな殺すぞ!」とか言うようになっては大変なので、妹の前ではできるだけお上品なお姉さまを頑張るつもりだ。
「お姉さまお姉さま、私お姉さまとサロンに行きたいですわ!」
「あー、うん、でもね、うん…………わかった」
少し嫌そうなのが顔に出ていたのか「お姉さまはサロンが嫌いですの?」と言われてしまった。
姉失格。ごめん。
でもお姉さまは君が行きたいというなら行っちゃうもんね。へへ。
・
サロンに来た。
相変わらず今日も煌びやかなこって。
妹はそんなサロンに目を輝かせていた。
前も言ったかもしれないが、この子、神子戸つばきは特別可愛い。
漫画の高校生の姿でめちゃくちゃ美女だったんだから、今の幼少期が可愛くないはずがない。実際天使のようにかわいい。
今年、新入生の中でサロンメンバーはつばきしかいなかったのも拍車をかけ、先輩方に秒で囲まれた。
わぁ、すごい。コミケの大手コスプレイヤーさんの囲みみたいになってる。
真ん中でつばきはおろおろしていた。可哀想なので助けに行ってあげたら、先輩方からにらまれた。おお怖い。私はこの子の姉ですけどなにか?
「神子戸さんは本当に愛らしいわねぇ」
「まるで椿の花のよう………名は体を表すとはまさにこのことですね」
私の隣で先輩方に囲まれながらも、すぐに会話を返すことができるようになっていた妹。
さすが神子戸つばき。コミュ力の塊。私の妹が出来すぎていて怖い。
珍しくサロンに来た私を見て、話しかけに来た桐間と羽澄。
私に話しかけて何が面白いのか分からないが、こいつら二人が来てくれたおかげで、先輩方が桐間家と羽澄家の御曹司二人のオーラに押されて散ってくれた。
妹はやはり緊張していたのか、ホッと息を吐いた。
「なんだ、そいつ」
そいつとか言うな失礼な!!可愛いだろ!!お前が将来断罪する予定の女の子だよ!!畜生!!
「私の可愛い妹です」
「へぇ、神子戸さん妹いたんだ。よろしくね、僕は羽澄生馬。こっちの偉そうなのが桐間諒太」
「おい生馬」
「初めまして、神子戸つばきと申しますわ。姉がお世話になっております」
いきなり流暢にお嬢様らしい、小学1年生らしからぬ自己紹介をした妹。
えっっ??私がこいつらにお世話に?えっ?なってませんけど??
「ふふ、お姉さんに似て、賢そうな妹さんだね」
「まぁ!ありがとうございます、でもお姉さまは私よりも全然聡明ですわ」
ぐふふ。褒められちった。私はすぐに機嫌を直す。
でも多分、成長したらつばきの方がずっと賢くなると思うよ。
漫画の中の貴方と桐間の頭脳戦、私六回見直してようやく理解できたからね。
「聡明というか、変な奴だけどな」
桐間は私を見て言った。
おい、お前、私のこと語れるくらい私と仲良くないだろ。
私はこの時、意外となんとかなっている学園生活に油断していた。
気づかなかったのだ、後ろの方で私を睨む人影に。