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羽澄よ、何故私の目の前の席に座るんだ。
貴様みたいなキラキラした奴が私と一緒にいると目立つだろうが。いやだよ、注目されるの。
「羽澄様、私と一緒にいてもつまらないだけでは?」
訳:あっちいけ
「そんなことないよ。あそこは少し疲れたんだ」
「そうですか」
あそこ、と言って、先輩方が踊っている方を指さした羽澄。
ふぅーん、アンタみたいな陽キャでも疲れるもんなのか。まぁ、小学生だもんね、こういう社交場は普通疲れるか。
もぐもぐと食べる私をじっと見ながら、羽澄はふわりと微笑んだ。
「美味しい?」
エッッッッr
「………えぇ、美味しいですけど、見ないで下さい」
「あぁ、ごめんね?」
アッッッぶねぇ。
コイツもしかして人生二週目とかじゃないか?ピュアな少年時代から柔らかい色気があるなんてけしからん、私のいないところで存分にやってくれ。
なんとなくした嫌な予感は的中し、芋づる式に桐間、会長がやってきた。
「おい生馬、お前俺だけ置いて逃げたな。話しかけられて大変だったんだからな」
「お疲れ様、諒太。何か食べたいものがあったら取ってきなよ」
「喧嘩売ってんのかお前」
年相応ではない語彙を飛ばして喧嘩する彼らは少し微笑ましい。
人気のなかったテーブル席に会長、桐間、羽澄が集まることによって、踊ってたり、談笑していた先輩方がわらわらとテーブル席に移動してきた。うそん。
めっちゃ見られてるよこれ、やだぁ。第三者視点で、絶対に私だけ浮いてるって。
スパークリングドリンクを飲み干し、お皿を持って退散しようとすると、会長がガーンと効果音がつきそうな顔で私を見た。
「もう、行ってしまうの?」
「……会長こそ、他の方と挨拶は…………」
「もうすべて済ましましたの」
「そうですか…………」
そうですか………。でもさっきからこのテーブル席をちらちら見ている方々は小雪様と話したりないみたいですが。ほら、「小雪様が話してらっしゃるあの子はどこの子かしら」とか言ってる人もいるよ。
「そう言えばお前、一曲も踊っていないな」
早く逃げればよかった。
桐間がとんでもない爆弾を投げやがった。
「まぁ、先輩方が踊っている中で踊るのは大変だよね」
羽澄がフォローのつもりだろうか、ニコニコしながら私の心を刺してきた。
違うんですよ。そもそも踊れないんですよ。
「俺は………誘われて踊ってきたぞ」
「諒太は中等部の会長に誘われてたね」
そういうの嫌そうなのに、先輩から誘われたら一応踊るのか。
そういうとこはきちんとしてんだなお前。偉いぞ。
「神子戸、踊る相手がいないんだったら、俺が踊ってやろうか?」
―――踊ってやろうか?―――踊ってやろうか?―――踊ってやろうか?
脳内で桐間の声がこだまする。
あぁ、なんという容姿と家柄と才能に恵まれてなければ言えない言葉なんだろうか。
違うんだ、相手がいないとかじゃなくって私、習ってないんだよ。
「桐間様」
「なんだ」
「私、踊れないんです」
「………………」
しばしの無言。
会長も、あの場を和ます才能がある羽澄ですら黙ってしまった。
えっ?そんなに気まずいこと私言ったの?えっ?私一人が恥ずかしい思いして「なーんだお前踊れねーのか!わっはっは!」で終わるようなことじゃないの?
あっ、もしかして誘った桐間に恥をかかせてしまった?
どうしよう、コイツに嫌われたら今後の私の学園生活の安寧が………………!
心の中でアワアワしていると、小雪様が沈黙を破ってくださった。
「社交ダンスは習っていないのね、なにかやっている習い事はありますの?」
「いえ、特にはありません」
「………………」
やっぱ変か。お嬢様で習い事何にもしていないのって。変なのか。
うーん、ピアノなら前世小学一年生から中学三年生まで習っていましたよ?才能ないながらもそこそこ頑張ったので、やめる時はリストの愛の歌三番が弾けたと思う。
「あっでも、ピアノは少し弾けます」
「まぁ!今度サロンで是非聞かせて頂戴」
両手を合わせて嬉しそうに微笑む小雪様。
丸みのない真っすぐなボブヘアーが揺れて可愛い。
「おい」
桐間から呼びかけられる。
「なんでしょう桐間様」
「来年は…………踊れるようにしておけよ」
「あと八年ほどお待ちいただければ」
「おい」