表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/35


キャラじゃないけど、ごきげんよう。

私は神子戸 梢(みことこずえ)といいます。

これは今世の名前です。


なんで今世かというと、……そうですね、前世があるからです。


前世の記憶を思い出したのは今日のお昼ごろ。今日は小学校の入学式で、校門をくぐった瞬間に、あれ?なんかすごいぞわぞわするな、とか思ってたんだけど、一通り入学式が終わって、在校生の先輩に学校の案内をされてる最中に「この木は本校の歴史がー」と、言われた時。

学校の中にあるにはあまりに立派な桜の木を見て、頭の中に記憶の濁流が押し寄せた。


あっ、この木、「私はポテチガール」に出てくる学校の桜じゃん!!


死ぬ年一番ハマっててた漫画の世界に転生したと気づいても、私は浮かれられなかった。


「私はポテチガール」とはなにか。

アニメ化が報道された瞬間日本のSNSのトレンドを瞬く間に搔っ攫った、超人気青春漫画である。

内容は、冴えない主人公が入学した良家の子女が通う「私立崔流学院(さいりゅうがくいん)」で、高校デビューする。主人公と個性豊かなキャラクターたちが共に部活に、友情、そして恋愛、様々な青春が織りなす王道青春漫画だ。

内容だけ聞けばありきたりな感じがするが、凄いのが作者の才能で、まるで実際にそのキャラが本当にいるかのように細部までキャラの心情が絵で表現されており、多くの読者の心をつかんで離さなかった。

そしてこの漫画には人気投票上位に食い込む悪役が存在する。

あの、なぜかヒロインよりも作画が可愛い上に、ヒロインよりも断然ファンが多く、それなのに最後作者によってあっけなく断罪される悪役「神子戸つばき」。


いや妹――――!!!


なんで、よりによってなんで私が悪役令嬢の姉なんだ。ふざけるな。


「神子戸つばき」、彼女自体は結構好きなキャラクターだ。

めちゃくちゃお嬢様で高飛車だが、頭が切れ、ちょっと抜けてる主人公のメンタルを言葉でズタボロにするところに読者たちは最初イライラしていたが、次第につばきの繊細で気高い内面が露になっていくと「つばきたんしか勝たん!」と読者の大多数は華麗な手のひら返しを決めた。

私はどちらかと言うと主人公派だったけどね。


いや、好きなんです。嫌いなわけじゃないんです。

「神子戸つばき」が妹になるなんて普通に生きてて考えもしないから。


……原作通りなら彼女の姉は最後にちょこっとだけ登場してつばきに刺されて死ぬのだ。


フィギュアまで買ったキャラクターをこんなに忌々しく思う日が来るなんて…………ダメだ、妹を忌々しく思うなんて最低だ。流石の私もそこまでクズじゃない。

でも刺されるのは無理、前世だって同棲してた彼氏に刺されて死んだんだぞ。今度は意地でも。老衰で死んでやるからな。


立ち上がって、皮のリュックからごそごそ適当なノートを取り出し、机の上に置いてネームペンで表紙に太い字で書いた。


『刺されないためのノート』


・妹と仲良くなる。


取り敢えず今からやるべきことはこれ一つ。

仲良くなっちゃえば妹に刺されないんじゃね?というとても雑な発想だ。だがしかし、今できるのはこれしかないと思う。物語の世界に入らないという手段もあったが、もう入学しちゃってるしね。


もしも、入学前に記憶が戻っていたとしてもだ。

父親は可愛い妹は弱愛しているが、亡くなった母に全く似ていない私には割と冷たい。お小遣いは山ほどくれるし、庶民な前世と比べ物にならない裕福な生活はおくれるが、帰ってきてまず最初に話すのは妹。

私には冷たいというか、さほど興味がないらしい。おい父親。お前割とクズの部類だぞ。

そこで、物語から逃げるためにわざと小学校お受験におちたら、「興味のない娘」から「出来損ないの娘」に格下げられるような気がする。


うーん…。


父親のことは前世の記憶が戻った今、まともな親とは思っていないので傷つくことはないが、あの人が私を冷めた目で見れば、我が家のお手伝いさんや車の運転手、使用人たちは私にどう接するのか。

せっかくお金持ちに生まれたんだから、不自由ない生活が送りたい。オイそこ、浅ましいとか言うな。

だからと言って父親に気に入られようとかそういうのは、なんだかとても嫌なのでナシで。


・父親とは極力関わらない

・勉強はできる、そこそこ優秀な娘でいる。


これも追加だな。

勉強は出来て悪いことないだろう、大丈夫、理系科目は得意。文系科目は前世では学年で下から数えた方が早かったけど。


三行だけ書いたノートをパタンと閉じた。

取り敢えずこんなところだろう、これを続けてなんかあったらその都度書いていこう。


ふと、横に置いてある鏡で自分の顔をよく見た。

血の繋がった姉妹なのに、なぜ妹に全く似てないのか。

鏡に映る自分は、顔立ちはそれなりに整っているのだが、つばきのように誰もが一瞬で美人、と思わせるオーラなんてものは全くない。

むしろポヤポヤアホ毛が出ていてパッと見思うことは「地味だな」だった。


うーん、転生特典が欲しい。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ