おとうさんのパスワード
白い。
オレは目を凝らす。地平線が微かに見える。
コレがあの世か?
すぐにそう思った。
目線の先から人が歩いてくる。
神?いや、オレには縁がない。苦笑した。
しかし近づいてきた人物には見覚えがあった。
・・おやじ!?・・
最後に会ったのは十年前。すっかり爺さんだったのに?
「元気か?」
家族とは仲が悪くすっかり疎遠になっていた。
だから父親の死に目には会っていない。年老いた父の姿を見るのも辛かった。
しかし、声をかけてきた彼は、幼少の頃に見た若くたくましい・・
「おとうさん?」
オレは声を上げた。オヤジではなく彼はお父さんだった。
オレは照れと惨めさで目を逸らす。ぽつぽつと近況を語った。
「でも、お前は頑張った。ちゃんと知ってるぞ」
あの頃のままだ。声は爺さんのそれではない。
「時間がない。これからパスワードを言う。しっかり覚えろ」
パスワード?
スマホを持つのを拒んだあのアナログ親父。
オレは苦笑する。
親父はそんなオレにお構いなく11桁の数字とKUJIのアルファベットを告げた。
「じゃぁな!お前も家族を持て・・」
そう言い残すとすぐさま彼は消えた。
「お父さん!」
目が覚める。白い。天井。看護師がカーテンを開ける。朝。
オレは大型トラックで配送中事故を起こした。
単独事故でトラックと積み荷だけの破損で済んだ。
しかし会社とお得意先に大損害を与えてしまった。
「すまないが・・」
ある日入院中のオレに上司が見舞いに来た。
損害は保険で賄えるがオレの処遇は・・
オレは「お世話になりました」と頭を下げた。
転職ばかりしていたオレを拾ってくれて20年近く面倒をみてくれた。
感謝で一杯だった。
さて、どうしたものか?
大怪我をしたが再起不能ではない。
時間をかければなんとかなる。
問題は先立つモノ・・
・・!
オレはふと思い出す。
夢の中で親父が告げたあの数字とアルファベット。
オレはスマホであるサイトにアクセス。
記憶した数字を打ち込んだ。
当たった。
数字選択式宝くじで一等ではないが入院費と当座の生活費が賄える金額を手に入れる。
KUJI。要するにクジだ。
・・お父さん・・
オレはその夜、十数年ぶりに泣いた。
少し気分の楽になったオレは順調に回復していく。
面倒見のいい女性看護師とも仲良くなれた。
歳は同じくらい。
「仕事ばっかりでお嫁にいけない」
笑ってぼやいていた。
・・お前も家族を持て・・
おとうさんの声が脳裏をよぎる。
ゲンキンなヤツだなオレは・・
思わず苦笑した。
読んでいただいてありがとうございました。
面白かったら★★★★お願い致しますw
他にも短編を掲載してますのでお時間がありましたらそちらも読んでみてください!