俺の幼馴染が俺の未来日記を書いている〜見てみぬふりをしたいけどバレバレなんだがどうすればいい?〜
俺は今衝撃的な光景を目の当たりしている。
いかにも怪しげな頭巾を可愛らしく鼻の下で結び、忍足で歩みを進めながら俺の部屋を徘徊している。そして最近の元凶であるノートをそっと机の上に置いていた。普通、自室に怪しい人影があれば足早に部屋から逃げ、警察に通報するだろう。
しかし、そんな緊迫した状況とは裏腹に俺はドアの隙間から呆れながらそんな状況を落ち着いて見ていた。
なぜならばそこの奇怪な行動をとっている人物が普段家族ぐるみで仲の良い幼少期からの幼馴染『雛草 花恋なのだから。』
そんな幼馴染こと花恋は今ベッドの下に顔を突っ込みながら間抜けな格好でガサガサと音を立てながら何かを探すように動いている。まぁどうせアダルトな本を探しているとかそんなところだろう。
以前似た類の本が見つかったとき『こ、こんな低俗な本は私が処分しておく……』だとかなんとかいって捨てられて以来パソコンの秘蔵ファイルの中に大事に保管している。二度と同じ過ちを繰り返さないように……
一仕事終えたのかふーっと息を吐きながらベッドに寝転びながらゴロゴロしている。ていうか部活終わりで疲れているから早く出て行ってほしいんだが。
* * *
数週間前のある日。
「ただいまーっと」
「おかえりー歩! そういえばさっき花蓮ちゃんがあんたの部屋にきてたわよー」
「なに思春期真っ只中の男子高校生の部屋に異性を勝手にあげてんだよ!」
「なにってあんたたち仲良いじゃない」
「いくら家族ぐるみの付き合いだからって俺にだってプライバシーってもんがあんだよ!次からぜっっったいに俺の部屋にはいらせないでくれよ!」
「はいはい。わかったわー」
「絶対わかってないなこれ」
雛草家とは家族ぐるみで仲が良く、花恋にはうちのスペアキーを渡しているほど信頼しきっている。
母さんは基本おおらかで大雑把なひとなんだがせめて男子高校生の気持ちぐらい理解してほしい。
そう諦め半分に自室に続く階段を登っていく。そしてガチャリと扉を開き投げやりにカバンをベットの上に放置する。少し休憩するために軽く椅子に腰をかけようとしたとき謎の黒いノートが机の上に置いてあるのが目に入る。
「ん? なんだこれ?」
そう言いながら手に持ち表紙を見てみると未来日記と書かれている。怪しげなノートをおそるおそるページを開いてみると――
『5月12日
俺はめずらしく幼馴染で美少女である花蓮に起こしてもらった。
朝から見る花蓮はこの世のものとは思えないほど美しく、目の前
に女神が降臨したと思うほど神々しく――――』
追記 この日記に従わなかった場合孤独死します。
「ってなんだこれ!」
そう言い放つと同時にある人物が頭の中に思い描く。こんな真似をするやつなんて一人しかいない。学校では高嶺の花といわれていて絹のような艶やかな黒髪に鋭い目つきをしてながらも校内で有名な俺の幼馴染雛草 花蓮
表の顔は学校では毅然とした態度で過ごしており、生徒会に属しながら学校の風紀を守っている。生徒、教師と共に評価が高く、玉砕覚悟で告白する生徒が続々出ている。断る際の言葉は厳しい口調ながらもファンクラブが存在しているほどに人気だ。
一方裏の顔では……
基本だらだらしている。寝転びながら漫画を読んだり、ゲームをしたり、せめてベットの上でポテチを食べるのはやめてほしい。
まぁそんな表裏の差が激しい花蓮だがこんな意味不明な日記、
しかも今日は5月9日、未来のことを書いているそんな馬鹿らしい日記を書いていると幼馴染として思いたくない。
「……とりあえず放置しとくか」
一旦机の中にしまっておくことにした。
* * *
5月12日
早朝の現在、今俺の部屋に人がいる気配がする。母さんならすぐに起こすだろうし、寝てるフリをしながら薄目で確認してみる。そこには俺に背を向けながらぶつぶつとなにかを唱えている花恋がいた。
「どんなシチュエーションで起こせばいいんだろう。普通に声をかけて起こす、それとも添い寝をして優しく起こしてあげるのもいいかも……でもそうしたら私の心臓がドキドキしすぎて破裂しちゃいそう……やっぱり素直に……」
「なぁ、俺の部屋でなにしてんだ?」
「にゃっ!?」
わかりやすく体を跳ねさせながら驚いていた。
「な、なにって歩を起こしにきてあげたんでしょうが!」
「起こしにきたって、いままで起こしに来たことなんてなかっただろう。しかもこんな早朝にどんな気の迷いだよ」
「だって緊張して少しはやくきてしまったんだもん……」
そういえば数日前に置いてあった日記の内容全く同じ状況だな。
「花恋最近俺の部屋に変な日記を置いて行ったりしてないか?」
「に、日記ってなんのことだろう! そんなことより早く着替えてさっさと朝食食べて学校にいくわよ! わたしは下でまっているから!」
絶望的に誤魔化すのが下手だな。けれどこれで例の日記を置いて行ったのが花恋だと確信した。
* * *
「おはよう拓真」
「あぁおはよう歩! ところで今日は珍しく花恋さんと一緒に登校していたって聞いたぞ。最近の進展はどうなんだよ」
「進展もなにも別になんもねぇよ」
「あんな才色兼備で女神の化身のような人が幼馴染ってそんな理想的な展開でなんもないことないだろ! 羨ましすぎるだろ! 前世でどんな善行を積んだらあの人の幼馴染になれんだよ!」
「んなもん別に徳なんて積んでねぇよ」
「おっと、噂をすれば」
花恋が少しおどおどとした様子で近づいてきた。
「ねぇ歩……今日の昼一緒にご飯食べない?」
「わりぃ今日弁当持ってきてなくて学食にするつもりなんだ。いつも母さんが作ってくれるんだけど今日に限って忘れてたらしくて」
「そうなのね! でも今日たまたま偶然多く弁当を作りすぎてしまって二人分あるの、だからどう?」
「それならありがたくいただくけど……」
「じゃあ昼休み中庭で待ち合わせね!」
それからはあっという間に時間が過ぎいつのまに昼休みになった。約束通り昼食を一緒に食べるために中庭のベンチで待っていた。
「おまたせー待った?」
「いやさっき来たところ。それよりはやく食べようぜ」
「そうね! 今日作った弁当は過去1のできよ!」
「へぇそりゃ楽しみだな。ではさっそくいただきます」
「ど、どう?」
「んー確かにうまいな」
「ふぅ、よかった!」
「それより花恋が弁当を作ってくるなんて珍しいな」
「そ、そうかな? べつに。アーソウイエバ!最近かわったことないかな?」
だめだ、反応がわかりやすすぎる。きっと日記関連のはなしだろう。
「あーそうだな……最近未来日記ってのが俺の部屋に置いてあったてだな、なんでもその日記に従わなかったら孤独死するらしい」
「それは大変ね! よかったら私が協力してあげるわ!」
「んーそうだな。手伝ってくれ」
「なによその投げやりな返事は。まぁいいわ手伝ってあげる!」
* * *
それからというもの定期的に日記の内容が更新されていき、大抵花恋関連の内容だった。その中身は水族館、遊園地、映画館行くことなどほとんどデートみたいなもんだった。
そして今日も今日とて相変わらず日記が更新されていた。
「今度はなんだろな。あいつ変なこと書いてなければいいけど」
『6月22日
今日は幼馴染の花恋に告白をした。そしてなんと! 付き合うことになった!あぁこれからいろんなことしていこう――』
そして日記を一旦閉じた。
うん、ちょっと待て。なんか俺告白することになってんだけど。
いや見間違いかもしれない。もう一度見たら変わってるはず。
『6月22日
今日は幼馴染の花恋に告白した――』
うん、ダメだ何も変わってね。え、明日告白すんの? マジで? ほんとに? でもまぁ――
そううだうだ考えているうちに日が過ぎていった。
* * *
登校し朝のホームルームを迎えようとしている。けれど花恋はまだこの教室にきていないらしい。そしてホームルームをむかえる。
「えー今日は雛草は風邪をひいたらしいので休みらしい」
担任からそのような連絡が告げられる
「へーそうなんだ心配だね。歩はしってたん?」
休み? 俺今日告白することになってしまってるんだけど、どうすればいい?
「おーい、聞いてる?」
「先生! 俺いまから体調が悪くなるんで早退します!」
「え?ちょっと待て――」
足早に教室から出ていく。雛草家に向かっている。正直なにも考えていない。漠然としたまま向かっているといつのまにか雛草家についた。そしてインターホンを鳴らす。
「はーい、あら歩くん久しぶり。あれ今日登校日じゃなかったっけ?」
「お久しぶりです。今日は突然臨時休校になったみたいでついでに花恋の見舞いに来ました」
「あらそうなの? でもよかったわ。あの子どうしても今日学校に行きたいって聞かなくてね」
「そうなんですね。花恋様子見ていいですか?」
「いいけど風邪がうつらないように気をつけてね」
「ありがとうございます。それじゃあ失礼します」
俺は花恋の部屋に向かっていく。そして扉の前につきノックをした。
「なにー?」
「失礼するぞー」
扉を開く。辛そうな様子で横たわっている寝巻き姿の花恋がいた。俺を目にすると慌てた様子で飛び起きる。
「どうしてここにいるのっ?!」
「見舞いに来たんだよ」
「そうじゃなくて――」
「学校は休んできた」
「どうして?」
「そりゃ未来日記に従わないと俺は一生孤独のまま死ぬらしいからな。学校なんかよりよっぽど一大事だろ」
「それって告白してくれるってこと?」
「どうして告白するってわかるんだ?」
「そ、それはなんとなく……」
――――――――――
「実はあの日記私が書いてたの……」
「だろうな」
「気づいてたのっ?!」
「逆に気づかれてないって思ってる方がおかしいだろ」
「それじゃあどうしてきてくれたの?」
「そりゃ告白するために決まってんだろ」
「でも、あの日記は私が書いてたのに」
「日記のこととか関係なく好きなんだ。
花恋、俺と付き合ってください」
「……。」
「…………。」
「………………。」
「あ、あの返事は?」
「そんなの『はい』にぎまっでるじゃん」
そういうと花恋が抱きついてきた。
「風邪なんだから少し安静にしろよ」
「風邪ひいてるのに告白してくるからじゃん」
「悪い…」
「許す!」
しばらく抱き合ったままでいるとどこからか視線を感じる。その視線の方を向くと……
「あら、お熱いことで」
「……。」
「お母さん!」
「風邪ひいてるのだからほどほどにね」
そういうとバタンと扉を閉めて行ってしまった。
「そんなこと心配しないで!まったくもう……」
「俺もお義母さんって呼んだ方がいいか?」
「気が早すぎるよ……」
そんなたわいのない会話を続けていると時間が過ぎていく。
「そろそろ帰るわ」
「もう?」
「あぁ」
「それじゃあ少しこっち来て」
言われるがままに近づいていく。その瞬間唇が触れ合った。
「今日は来てくれてありがとう。またね!」
勢いのまま部屋から出され呆然としたまま雛草家からでていた。それからの記憶はあまり無くいつのまにか帰路についていた。
* * *
翌日 俺の自宅にて
「ごほっ」
「大丈夫?歩」
「あ゛ぁ」
「大丈夫じゃないじゃない。ごめんね、昨日私がキスをしてしまったせいで風邪をうつしたみたい」
昨日のことを思い出す。
「恥ずかし過ぎて死ねる」
「でも孤独死よりかはマシでしょ」
「そうかもな」