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第五話 謝罪

 ウインドブラスト。

 俺が初めて使った魔法だ。


 アリシアにヒントを教えてもらうまでは全く成果が無かったものの、それを聞いた後は驚くほど簡単に魔法が使えた。


 揺れる葉を見て、その後に水面を見た瞬間に分かってしまったのだ。何をどうすればいいのか。



 まあ結果だけは予想外だったが、とにかく魔法が使えて大満足だ。アリシアに感謝しなければ。


 その予想外についてアリシアはリリアにお説教を受けている。


 思い返せばアリシアは俺に教えた魔法に危険はないと言った。


 しかし結果はこの有様。

 とても危険な魔法だったようだ。


 木が真っ二つになったのだ。人に使ったらどうなるかは考えるまでも無い。

 まあ俺自身への危険は無いだろうからあの程度で済んでいるのかもしれない。


 あの程度とは、今のアリシアの状況。地面の上で正座をしている。



「いや、済まなかった あんな子供の出せる出力ならカーテンを揺らす程度がギリギリだと思っていてな…」


 リリアは怒っている。とても。

 我が子に危険が無いならと許可した魔法が実は人を簡単に殺せる大変危険なものだった。反応はこんなもんだろうか。


 アリシアは何とか取り繕うと忙しないが、言い訳の言葉を思いつかなかったのだろうか、項垂れてしまった。



 ゼノが苦笑いしながらアリシアの助けに入る。

「まあ魔法が使えるような重要なヒントをアリシアはユラに伝えなかったって言うし、そういう意味では安全性は保たれていたのかな~なんて…」


 ゼノはどうも弱気だ。リリアサイドのはずなんだが…。ビビってんのかな。


 リリアはまくしたてる。

「もし魔法が発動していたら家が壊れてユラが下敷きになっていたかもしれないでしょ⁉」


 家を半壊させるほどの威力は無いとは思うが、あの魔法を見た人間ならそうも思うか。


「ああ、そうかもしれない。済まなかった…。ユラも、危険な目に合わせて済まなかったな…」


 …あれこれ、アリシアクビになるパターン? 

 それは非常に困る。とても困る。魔法以外での唯一の楽しみが…。


 再度の謝罪にもリリアは折れそうも無い。

 ゼノももはや打つ手なしのようだ。



 はあ…。これやりたくなかったんだよな。恥ずかしいから。

 でもアリシアの為…いや、俺自身の為だな。よし。


 頭の中でオトナ〇国の最後の方のシーンを再生する。ほら、一瞬だ。



「おかあさん……。ありしあいじめちゃだめだよ…?」

 俺は涙をぼろぼろ流しながら2人の間に立つ。


「ユ、ユラ⁉ お母さんはね、あなたの為にアリシアに怒っているのよ?」

 大慌てで俺の下に駆け寄るリリア。ゼノもアリシアも心配そうにこちらを伺っているようだ。

 ここで追撃。


「ありしあもいっしょじゃなきゃやだ…‼」

 まあまだ出禁のお知らせはされていないが、先に封じておく。


 リリアは何かを言おうとして、しかしやめて諦めたようにため息をついて俺の頭を撫で始めた。

「…アリシアはどこにも行かないわよ。ただちょっと悪い事をしちゃったから怒ってただけ」


 そして俺を抱き上げてアリシアに告げる。

「アリシア……うちの子をお願いします」

 えっ! そういう話だっけ⁉ いやよろしくされたいけども。


 リリアのセリフは終わっていなかった。

「ユラにこれだけ信頼されているあなたに、もうこれ以上どうこうは言いません」

 言われたアリシアは顔をあげて再び済まないと言って、少しだけ頬を緩ませた。

 ゼノはなんだかとても疲れたような顔をしていた。






 驚いた。


 家路につくまでの間、私はさっきまでの出来事を考えていた。


 これまで弟子など取った事は無かったが、初めて魔法を発動させてこれほどの威力を出せるなど、聞いた事も無い。


 それに、本来真っ先に教えるはずの情報を私はユラに隠していた。伝えたら一発で魔法の真髄を理解してしまった。その点は無い話ではないのだが…。


 ユラ…あの子は将来とんでもない事を成し遂げるような気がするな…。

 そう、私は確信とも呼べるその感覚に包まれていた。



 しかしリリにはこっぴどく怒られてしまったな。


 私も考えが甘かった。

 子を持つ親の心情についての理解が全く足りていなかった。


 あのありがたーいお師匠様は私に対してそのような方面では全く配慮が無かったからな。私もいつの間にかそのあたりが麻痺していたのかもしれない。


 リリにも驚いたが何よりユラだ。

 私の為にリリの前に立って庇ってくれたのだ。


 ゼノだって及び腰で、私もどう収拾をつけたものか困惑していたところに助けに入ってくれた。

 リリが怒って私がもうここに来なくなってしまうと思ったのだろうな。


 泣きながら私の為にあんな…。あの時は困惑が勝ったが今思い出すと泣きそうになってしまう…。


 ユラはきっと私に信頼を置いてくれているのだろう。両親以外知らないから私が物珍しいだけかもしれないが。


 とにかく私はユラの期待に応えたいと思う。

 きっと私を凌ぐほどの魔法使いになれるだろう。

 弟子など絶対ごめんだと思っていた私の気を変えるような何かを、ユラは持っている。

 その何かを見届けたいと心から思っている。


 ああもう…なんかまた泣けてきた。






 アリシア危機は俺の機転によって回避された。

 世界は再び平和を取り戻したのだった。


 アリシアはあの後何度も俺たち3人に謝っていた。

 俺としては気にする以前に感謝しかないので少し気が引けてしまうくらいだったが。


 しかし珍しく2日連続でうちへ訪れたアリシアはどこか吹っ切れた感じでいつも通りに振舞っていた。


 リリアも昨日の事など忘れてしまったかのようにいつも通りだ。

 昨日のあれは何だったんだ? 俺が一芝居打ってやったってのに茶番みたいじゃないか。

 まあギスギスした感じよりはよっぽどいいので気にしないようにしている。


 予定通りだったのか、昨日の事があったからかは分からないが、アリシアに正式に弟子入りするのは4歳の誕生日の次の日からとなった。


 両親ともに納得していたし、アリシアから言い出した事なので俺としても仕方ないかと、そこは諦めている。



 昨日使った魔法。

 風魔法 ウインドブラスト。


 アリシアが教えてくれた今のところ唯一の魔法。


 あの瞬間から、俺の中で大きく何かが変化した。

 何をどうすれば魔法が使えるのか、威力は、範囲は、となんとなく分かるのだ。


 風魔法の一種類しか知らないので他の事はさっぱりだが、それでも今は満足している。



 それから、初めて魔法を使った後は何故か詠唱しないでも使えている。

 アリシアはそれに驚いた様子も無かったし、詠唱しないで魔法を発動させるのがこの世界ではデフォルトなのかもしれないな。


 それと昨日使ったときは意識はしていなかったが、魔法の結果として木が両断された。


 そんな魔法を家で使っていると聞けば、リリアが怒るのも無理は無いのかもしれない。

 しかし言ったように魔法の形というか、規模のようなものは何故か使い分ける事が出来る。


 昨日のように殺人カッターを出す事もできるし、ブロアーのようにただ風を放出する事も出来る。

 この感覚だけは説明のしようがないな。


 だからアリシアは俺に散歩に行こうなどと言ったのかもしれない

 肌で感じろ、体で覚えろ、と。



 他の属性も気になる。

 火魔法とか水魔法は定番だな。


 まあその辺は4歳になってからだろう。



 ひとつ大きく息を吐いてベッドに横になる。


 こっちの世界に来てからワクワクしっぱなしだ。



 初めはワケも分からず困惑していたが、ゼノとリリアは優しいし、初めての子育てに苦労しているだろうが一生懸命にやってくれている。


 今まで気付けなかったが、いつも笑顔の2人に挟まれて俺は幸せを感じている。


 前世ではとうとう分からないまま死んでしまったようだが。



 俺は前の世界ではとうとう最後まで腐っていた。

 自分に対しても、周りに対しても。


 思えば向こうの両親は俺が小さい頃は目をかけてくれていたような気がする。

 今なら分かる。初めに逃げたのは俺だったのだと。

 まあ、あの2人に問題が無かったのかと言えばそうではないのだが…。


 今2人に会う事が出来たら俺は歩み寄らなかった事を謝るか、それとも育ててくれた事に感謝するか、どっちなのだろうか。


 死んでしまった今考えても仕方ないのに、頭から離れない。


 でも多分それでいいんだ。


 前の世界なら露ほども考えなかったであろうそんな事に、人間らしく悩むことが出来るようになったのだから。



 4歳まで時間はある。

 今の幸せに感謝しつつ、きっとまだあちらの世界で生きているだろう元両親に対しての贖罪でも考えるとしよう。

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