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第四話 ウインドブラスト

 適性が判明してから数か月、俺はひたすらに詠唱を唱えていた。

 相変わらず特訓を欠かしたことは1日も無い。

 ゼノとリリアが心配するので最近は外で過ごす時間もとっているが、それ以外は睡眠と食事以外の時間は全て魔法の特訓に充てている。


 成果については全く上がっていない。いろいろ考えているつもりなのだが、上手くいかない。

 何度かアリシアにコツを聞いてみたのだが、魔法に関しては何も答えてくれなかった。

 もしかして4歳になるまではこのまま放置なのだろうか…。


 上手くいかない日々が続くが適性がある事が分かった以上、いつか必ずできると前向きでいられる。


 魔法以外の出来事としては、主にリリアから文字を教わっている。


 この家に本は1冊も無く、当然教本的なものは無い。

 しかし、ゼノもリリアも文字が読み書きできるという事で、誕生日にもらったノートにひたすら文字を書き続けている。


 初めは勉強という事で警戒心が高かったのだが、見る見るうちに教わったことを吸収していく。

 話す方は出来るのだからこっちもスムーズにいっているのかもしれない。

 それかこの体が、脳が優秀なのかもしれない。


 とにかく難関はクリアできただろう。



 ふと気になって、勉強している時リリアに、アリシアは文字が書けるのか聞いてみると当然だと返された。


 なんでもこの世界での魔法使いの地位はそれなりに高く、数も少ないらしい。

 街へ行けばそれほど珍しいものでもないが、村やこの家がやっているように1世帯のみみたいに、生まれる数が少ないところでは滅多に魔法使いは生まれないのだとか。

 まあそれは絶対数の違いなのだからそりゃそうだろう。


 それで適性があると分かったときにあんなにはしゃいでいたのか。

 我が子が有名私立に合格した みたいな感じなのかな。

 まあ内心では俺が一番はしゃいでいただろうけど。


 そしてその魔法使いだが、数が少ないというだけあってどの国へ行っても、どんな仕事でも重宝するそうだ。

 それは理解できるが、アリシアはなんの仕事をしているんだ?

 初めはなんとなくゼノと同じように狩猟でもやっているのかと思っていたが、魔法使いが狩猟で狩りをやっているというのはちょっとよく分からない。異世界モノへのイメージとして。


 聞いてみると、冒険者をやっているとリリアが教えてくれた。

 冒険者とかやっぱりあるのか。


 その時についでにと、リリアが教えてくれたのだが、それは周囲の大雑把な地理と魔物について。


 地理的には、庭と言っていい程に家のすぐそばにある森。これは規模としては小さいらしく、ゼノは主にここで狩りをしているのだと。

 まっすぐ歩けば森から出られるという事で、まず遭難などは無いだろう。林と言ってもいいかもしれない。違いは知らないが。


 その小さな森から少し離れたところには、広大な森が広がっているという。

 どれくらいの大きさなのか、リリアは分からないと言っていた。


 そういった大きさとかの単位を知らないのか存在しないのか。○○立方キロメートルとか言われてもなんとなくしか分からないが。


 そっちはゼノも基本的に近寄らないらしい。行くとしても、よっぽど不猟の時にすぐに森から抜け出せる位置で行動するらしい。


 理由は魔物が出るから。

 いや、魔物は小さいほうの森でも出るのだが、こっちは最強格が野犬程度。

 野犬だって舐めてかかれば命を落としかねないが、めったに出現しないらしい。ゼノも見かけた事は無いようだし。

 他は女子供でも倒せるような、いわゆるスライム相当。

 鈍足で知恵も無い為、その辺の木の棒で何回かぶっ叩けば済むらしい。


 魔物=冒険者という事で、大きい方の森はアリシアが狩場として使っているらしい。

 アリシアがたまにうちに来る理由だな。


 大きい方の森は素人だとまじで瞬殺レベルだとリリアが青い顔で言っていた。

 そこで何かあったのだろうか。


 森の他には、ここから30分くらい歩いたところに村があるそうだ。

 ゼノはたまにその村で獲物を売ったり、必要なものを買っているそうだ。


 香辛料・調味料とかはそうやって入手していたのか。

 我が家の流通経路が判明した。



 それと、ここから2日程歩いたところに大きな街があるようだ。

 アリシアが以前プレゼントを買ってきてくれた街だな。


 道中は魔物に野盗にと危険があるらしく、私たちが行ったら多分死んでしまうとリリアは言っていた。 異世界怖い。


 そんな中でついでとはいえ俺の為にプレゼントを買ってきてくれたとは…。アリシアには後でまたお礼を言っておこう。あと魔法のコツ教えてよ。


 俺もそのうち魔物とかもしかしたら人を相手に殺し合いとかする事になるのだろうか…。

 魔物はともかく人を殺すのは出来たら避けたい。怖いから。


 とりあえずは勉強に魔法の練習に頑張ってみましょうか。





 勉強は順調に進み、先日文字の全てを覚える事が出来た。

 自分でも驚くほど順調だったな。踊りこそしなかったがゼノもリリアも驚いていた。



 さて。

 文字を覚えるまではリリアと過ごす時間がとても多かった。

 元々多かったのだが、俺はこれまで自室に籠り、魔法の特訓などをやっていたから、同じ家にいる時間が長かったと言った方が正しいのかもしれない。

 勉強を見てもってたときは付きっきりでいる時間が多かったのだがその為か、心境に変化があった。


 リリアは非常に綺麗な女性だ。体つきも前の世界の感覚だと現実離れしていると言っていい程だ。

 暫くはそれを眺めて目の保養にしていたのだが、ここ最近そういう方面では全く見られなくなってしまった。


 良い尻だなとかは思うし、可愛いともやはり思うのだが何か違和感のようなものがあった。

 そんな事を思い始めた頃にアリシアが庭でゼノと話しているのを見かけた。


 アリシアもやはり非常に綺麗な女性だ。

 リリアと比べるとこっちの方がタイプだな…とか思ったりもしている。

 さらにあのおっぱいだ。凄い。これ顔に出ていないだろうなほんとに。


 そして気付いた。


 アリシアは、まあ言ってしまえば性的な目で見る事が出来る。

 しかしリリアはもう出来ない。


 考えられる理由はやはり人妻ものは邪ーー 


 ではなく、リリアが俺の母親だからだろう。



 こちらに転生してきた頃は全く無かったが、日毎にゼノとリリアに対して感謝というか、尊敬みたいなものが俺の中で芽生えている…気がする。

 前世ではそんなのは誰に対しても無縁だったからそういったものに疎いが、多分そういう事だろう。


 そうと気付いた時には俺にも人の心があるんだなと、そんな事を思ってしまった。






 そんな訳でお勉強タイムは終了し、その時間をそのまま魔法の特訓に費やしている。


 ノートは魔法関連では使えない。この世界の文字で書いてもダメだ。両親も知らないような言葉が書かれていたら流石にまずいからな。

 初めのうちはノートを破りまくっていたが、それを追及されても面倒だなと、最近ではそれすらもやっていない。


 魔法の詠唱に関してはいろいろと試してはいる。

 例えばイントネーションを微妙に変えてみたりとか、無駄だろうとも思いつつ、考えられる事を片っ端から試している。


 とはいえ、もうさすがにやる気は下がりつつある。

 4歳になるのを待つしかないかと思ったりして、しかしそれでも詠唱の言葉は発し続ける。


 葉揺らし水面みなも疾風はやてのごとく花散らせ ウインドブラスト


 もう何万回繰り返しただろうか。



 欠伸が出てきた。

 もう緊張感のかけらもないな。


 ベッドでごろごろしていると、外から話し声が聞こえてきた。



 女性の声は耳に入るとそれだけでどこか全能感のようなものが漲る。


 俺は部屋を飛び出し、声の主の元まで駆けていく。


「アリシア!」

「やあお嬢ちゃん 修行は順調かい?」

 少しいたずらっぽい顔をしてアリシアが聞いてきた。

 聞かなくても分かるだろうに。


 俺は首を横に振って返答する。

 するとアリシアはいつもの綺麗な笑顔に戻った。


「もしかしたらお前なら何も与えずとも魔法が使えるようになるんじゃないかと思っていたよ。1歳で喋りだして2歳で魔法を使おうとしているような異常な子供なのだからな」


 ゼノは苦笑いしていた。多分俺もしている。やっぱ異常ですよね。

 でも魔法への欲求に勝てなかったんです。


 アリシアが続ける。

「大人なるまで適性があると知らずに生きてきて、何かのはずみで魔法が使えてしまうケースは稀にならあるのだが」

 アリシアは俺のすぐ前までやってきて、しゃがみ込み、俺と目線を合わせる。

 あ、おっぱい見えそーー

「子供が急に自発的に魔法を使いだすなど聞いた事が無い。もしかしたらここで初めてを経験できるんじゃないかと思ってな。重要なヒントを伝えなかったんだ」


「あえ?」

 つい声が出てしまった。この大きな膨らみは置いておいて…。ヒントって言ったか? なんだそれ。

「ゼノにも話は通してある。少しそこまで散歩をしよう」


 そう言われて俺はアリシアに抱き上げられ、久しぶりの感触に感動していた。





 俺はこの為にこの世界へ転生してきたのかもしれない


 そう胸を張って言える 胸が張ってるのはアリシアさんだが



 日が傾きつつある。

 もう少ししたらあの綺麗な夕暮れ時に様変わりするだろう。


 少しそこまでと言われた散歩は本当に少しそこまでだった。



 家の前にある池。野球の内野よりは少し広いくらいの大きさで、深さも一番深くても1メートルも無いらしい。

 ゼノがここで釣りをする事もある。

 俺は近づきすぎないようにと言われているが、この辺りならたまに来ることもある。



 後ろを見るとゼノといつの間に来ていたのか、リリアまでいる。庭からは出ないで見守っているようだ。

 そして俺を抱えながらアリシアは、池のすぐ近くにある木の、葉に触れている。


 アリシアはそのまま口を開く。

「風魔法の詠唱の意味は分かるか?」

「なんとなく」


 素直にそう言った。因みに言うと、なんとなく詠唱の内容をイメージしながら特訓した事もある。


「そうか まあ私が教えなかったんだがな」


 そう言ってアリシアは俺を地面に下ろし、言葉を続ける。

「詠唱は誰が考えたのか分かっていない。いろんな説があるがどれも想像の域を超えないものだ。しかしな、詠唱には間違いなく込められた意味があるんだ」


 アリシアは視線を葉から俺へ移す。

「この木の葉っぱを見てみろ。風に揺れているこの葉を」


 俺は言われた通り葉っぱを見た。


 これまで別に意識的に見た事はなかったが、やはり何も変なところは無い。


「まだ何を言っているのか分からないだろう。次はこっちだ」



 アリシアは回れ右して今度は池の方に向かって行き、池に入る手前のところでしゃがみ込んだ。

 俺も後についてアリシアの横に並ぶ。

「次に、あの水面を見るんだ。ちょうど今は少し風が吹いているからな」


 風は吹いているが何を言って……。あれ? なんだこの感じ。


 なんか…。やばいな。

 体中からなんかやる気っていうか…。アドレナリンなのか?

 今なら何でもできそうだ。前世でガチャで欲しかったキャラが出たときは嬉しかったが、この気分の高揚はそれの比じゃないな。


 俺の表情の変化に気付いたのか、アリシアは立ち上がってこう告げた。

「今ならもしかしたら使えるんじゃないか?」


 そう、アリシアの言った通り、葉っぱを見て、風に揺れる水面を見た瞬間に何故か感覚として分かったのだ。分かってしまったのだ。


 魔法が使えると。



 俺は両手を前に翳し、多分もう一生分は口にしたあの言葉をもう一度声に出す。



『葉揺らし水面みなも疾風はやてのごとく花散らせ ウインドブラスト』



 詠唱が終わった瞬間手のすぐそばでなにか爆ぜるような感覚があった。


 そして爆ぜたそのなにかは半透明で、軌跡が薄っすらと感じられる。


 それは水面を流れるようにまっすぐに飛び、池の向かいにあった木に触れた瞬間ーー



 バッゴーーーーーン



 生まれてから聞いた音の中で雷に次ぐ大音声が鳴り響き、続いて木が倒れる音が聞こえてきた。



 あれ……。

 アリシアはカーテンを揺らす程度と言っていたから木のところで掻き消えるもんだと思っていたんだが…。


 まあ…いいか。



 アリシア! できたよ! 

 そう報告をしようとアリシアを見てみると、アリシアは口を半開きにし、真っ青になって固まっていた。


 少し焦った俺は振り返り、ゼノとリリアの様子を伺う。


 しかしこちらの2人もアリシアと同じような反応だった。



 あれ…? これなんかやばい?

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