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第二十話 誤解

 火魔法の習得には思ったよりも時間が掛かったようだ。


 予定ではこのまま街を出るはずだったのだが、既に赤く染まった世界を見てアリシアが、もう一泊していくと言った。


 俺に否やがあるはずも無く、結局その晩も同じ宿屋でアリシアと2人、仲良く眠りについた。

 寝相が悪くてすみません。でもねてるんだからしょうがないよね。




 朝、日が昇ると同時に街を出立した。


 帰りも同じ道で家まで歩き続けた…らしい。


 アリシアはそう言うが、俺はそれが本当か分からない。

 代り映えしない道を2日近く歩く事になるのだから。





 家に辿り着いたのは日が沈みかけた頃。


 そろそろ歩くのが厳しくなってきた頃に、家を出た頃に見た景色が目に入ってきた事が分かった。


 なんだか嬉しくなってアリシアに目を向けてみると、アリシアは笑って頷いてくれた。



 さらに進んだあたりで間違いなく家の近くだと確信できるところまでやってきて、何故か胸がドキドキした。

 やっぱり家が一番なのだろうか。


 もう間もなく家に到着というタイミングになってホームシックのような心境になってしまった。



 家が見えてきた。


 そうしてそのまま庭に入るとリリアが玄関をぶち破るような勢いでこちらに駆け出してきた。



 そして俺の名前を叫んでそのまま俺に縋るように抱き着いてきた。


 リリアのこの感触は久しぶりだ。

 たまにはいいかもな。



 リリアは体を離すと俺の肩に手を置いて、返事を許さない程に口早に捲し立ててきた。

 怪我はしなかった? 危険な事は無かった? ご飯はちゃんと食べた?


 あと3つくらい言われたような気がしたが後半は耳に入ってこなかった。



 リリアが捲し立てている間にゼノが扉を開けて家からゆっくりと出てきた。


 リリアの姿を見るなり苦笑いして、俺とリリアを包み込むように腕を回して久しぶりの一家の団欒がつくられた。



 この心配性な母に、文字通り包み込んで家族をまとめ上げる父に、なんだか久しぶりに家族というものを感じた。



 リリアはひとしきり言い終わったところで再び俺に抱き着いて、今度はなかなか離さなかった。


 ゼノがリリアに何度も声を掛けて、ようやくリリアは応じるように俺を抱えて家の中に入っていく。


 後ろに続くアリシアは微笑みながらこちらを見ていた。

 まあ、今日はリリアの日 という事で。




 4人でソファに座って、旅に修行にと、俺とアリシアが家を出た後の事を話し始めた。

 俺は当然のようにリリアの膝の上に座らされていた。



 歩き続けの旅がキツかった事、道中は魔物も盗賊的なものにも出くわさなかった事、街の様子、修行の内容などなど。


 修行というか、火魔法の習得については犯罪者に向けて の辺りで2人は苦笑いしていた。

 まあ普通そういう反応になるよな。



 2人は俺の話を終始嬉しそうに聞いていた。

 

 子を思う親の気持ちは分からないが、実感する事は出来た。



 そうして家に着いたところまで話すと、リリアが俺を下ろしつつ立ち上がった。


「今日は腕を奮って美味しいものを作るわよ!」



 そう言ってリリアは台所へ向けて張り切って歩き出した。


 まあ張り切るのは程々に…ね。





 誕生日級のごちそうが食卓に並ぶ。


 ゼノが苦笑いしながらそれを眺める。

 追加で村へ買い出しに行かないとな。


 食事を始めてやはりと気付いたが、リリアの料理は美味しいな。

 宿で食事したときも思ったのだが。

 

 リリアにそれを伝えてやると、とても嬉しそうにしていた。



 ぼちぼち食べ終わる頃に俺はアリシアに耳打ちして、アリシアの荷物から目当てのものを取り出す。


 そしてゼノとリリアに街の土産を手渡すと、2人とも喜んでくれた。

 特にリリアは踊りだしそうなくらいに喜んでいたが。


 それからと、俺はアリシアに対してもプレゼントを渡した。


 アリシアは目を見開いて喜んでくれた。

 いつの間に… などと口ずさんでいる。


 普段からそれはもう世話になっているからな。

 アリシアに気付かれないように買うのが大変だった。



 アリシアにはブローチを購入した。

 リリアにもだったが、アリシアにも俺がブローチをつけた。


 その際に胸に何度も何度も触れてしまったがこれは仕方がない。



 リリアの様子は落ち着いたようだ。

 かなり俺を心配していたようだが、今はもう大丈夫そうに見える。


 でも、次に家を出る際は日程をもっと考えた方がいいのかもしれない。






 ユラは食事の片付けが終わった頃には眠そうな目をしていた。


 するとリリが今日はもう休みなさいと、声を掛けていた。


 よく見ているじゃないか。



 そう思ったところで、自分がユラの母親然としていることに気が付いて、フッと笑ってしまった。

 2人に見られていなくてよかった。



 リリがソファに座って、3人が揃う。


 そしてリリがゆっくりと、何故か深呼吸してから私に聞いてきた。


「それで? どうだったの?」



 どう…?

 ユラが話した内容では足りなかったのか? 私目線で、という事か?


「ユラはよくやっていたよ 私のいつもの行程に遅れる事無くな」


「そうじゃなくて…」


 リリはゼノに視線を向けた。


 ゼノは手を挙げて降参の構えだ。

 溜息を一つしてリリアは続けた。


「その…、ユラとはどこまでしたの?」



 どこまでした…?


 まだ分からない。

 顔に出ていたのだろう、リリはさらに続ける。


「……もうユラと寝たの?」


 寝た。それは寝るだろう。

 前にこの家でも寝たのだし、今更何をそんな……寝た……こいつは、こいつらは…。



「何故そうなる‼」



 おっと、ユラが隣で寝ているのだな。


 リリはこの意味の寝た を言ってきているのではない。


 …男と女の寝た を言ってきているのだ。



 それが分かるとつい、大きな声が出てしまった。


 リリは再びゼノを一瞥した。


「えっと…。2人はそういう関係なんでしょ?」


「馬鹿なのか⁉ だから何故そうなる‼」


 小声で必死に言い募る。


「え… 前に言ってたじゃない、小屋で。一肌脱ぐって。それにユラだって凄いとか綺麗とか…」



 小屋で の辺りで、私の脳は高速で回り始め、続く言葉で2人の想像を絶する勘違いに気が付いた。


 私は溜息をしつつ、一つ一つ説明した。

 誤解が無いようにとても丁寧に。




 私が話し終わると2人は というかリリは安心したように体の力を抜いて、ソファにもたれかかった。


「ごめんなさい、私たちそういうのあまり知らなくて…」


 …まあ、その点に関しては、理解できなくも無い。


 馬鹿にするつもりは一切ないが、2人には学が無い。

 私は魔法使いとしての修行の過程で勉学も色々とやってきたから2人とは比べるべくも無いしな。



 しかしそれにしたって…。


「4歳の子供と出来る訳が無いだろう…」



 私は頭を抱えながら呟いた。


「いや、俺達だってそう思ってたんだけどな、誤解が積み重なっちまったみたいでな…。それにユラはあの歳で俺達にだって思いつかないような事を言ってくるだろ? そういうのも」

 積み重なったのだと、ゼノは言った。



 とにかく、と私は念のため再度宣言した。

「私はユラとそのような関係になっていない。分かったな?」


 2人は頷いた。

 リリはやはり安心した風な表情だ。


「まだ早すぎるって思ってたんだけどね、あの子はあなたに懐いているし、それを引きはがすのはちょっと気が引けて…」


「懐いてるのは本当だろ。ユラがアリシアの事を好きなのは結局変わらないんだから」



 まあ、それはそうなのだろうな。

 でもそれは母親以外で初めて目にした女というだけの事だろう。


 そう考えると胸の奥が少し痛むような気がしたが、私はそれを気にしないようにした。




 リリはいつの間にかワインのボトルとグラスを人数分用意していた。


「飲むでしょ?」


「…ああ、もちろんだ」


 ふざけた誤解は飲んで忘れる事にする。




 酒を飲みながらそういえばと、荷物からリリにいくつか手渡した。


 それを見たゼノが何故か嬉しそうな顔をしている。


「リリア、それか?」


 リリは手渡したうちの小さな包みを抱えながら、うんと頷いた。



 あれは確か……。

 全く、ユラに弟か妹が出来るのはそう遠くないかもな。


 ゼノは苦笑いしながら私に視線を向ける。


「アリシアにいろいろ買ってきて貰うってんでその日は嬉しそうにしてたんだがな、次の日から随分と落ち込んじまってな……泣きながら」


「……ちょっとだけよ」


 リリは少し恥ずかしそうにしていた。

 それと、泣いたのは否定しないんだな。



 リリはこの調子で子離れ出来るのだろうか。

 早く次を生んでそこらへん分散した方が良いんじゃないか?。


 …いや、リリは次の子が生まれても等しく愛情を注ぐんだろうな。


 それはそれでと、ユラと近いうちに生まれてくるだろうその子に、少し同情してしまった。

 いや、それは失礼だったか。



 私は旅の疲れが残ってはいたが、酒が入ると2人との会話を止める事は出来なかった。





 朝起きると、天使が目の前にいた。


 あ、よく見たらアリシアだった。


 でも確認した方がいいかもしれないな。

 ……仕方無い。


 と、手を動かそうとしたところで、目を開けたアリシアと目が合った。



「お、おはよう」


「おはよう。それでその手は?」


 アリシアは自分の胸の数センチ離れた所にある俺の手を一瞥した。


「さ、さあ、何でしょう。しかし今度しっかりと叱っておきます」


「そうしてくれ」


 アリシアはそう言って、ベッドから立ち上がった。



 俺も立ち上がりながら考えた。


 なぜいつもいいところで目を覚ますんだ? 

 やっぱり気配とかかな…。修行が足りないな、俺は。



 そうして2人して部屋を出ると、そこで日が既に上っている事と水の補給をしていない事に気付いた。


 俺はリリアに一言謝ってから、食事の手伝いをする。


 料理は既に出来上がっていて、皿を出すだけだったが。



 4人で食事をとる。


 料理はいつも通りの内容だった パン以外はとても美味しくいただいた。


 街で美味しいパンを食べてしまったから、これでは物足りなくなってしまったようだ。

 ゼイタクは敵だ。



 食事が終わったところでゼノは家を出て行った。


 俺も頑張るぞとアリシアに目を向けると。

「今日からまたしばらくここに来られなくなる。街へ行ったときに頼まれた事があってな」



 ええええ‼ アリシア街行っちゃうの⁉ やだーーー!


 とは言えず、せっかく帰ってきたところをまた街に戻っていくアリシアがとても不憫に思えた。



 こっちの世界じゃちょっとコンビニ行ってくる、みたいな感じなのだろうか。

 アリシアはなんて事は無いようにそう言った。



 しかし、しばらくアリシアと一緒にいたからめちゃくちゃ寂しいな。


 俺の気持ちを読み取ったように、アリシアが屈んで、顔を近づけて微笑んだ。


「帰ってきたら修行の成果を見せてもらうぞ?」


「…すぐ帰ってくる?」


 アリシアは苦笑いして返す。

「すぐではないがな、この前と同じくらい掛かる」


「チューしたら許してあげる」


「調子に乗るな」



 アリシアは俺の額を小突いて立ち上がった。


 いつもの茶番をやったおかげで少しは元気が出てきた。

 でも、寂しいものは寂しかった。

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