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ヘルメン  作者: 吉田定理
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●果たして俺の作った曲が何百万も再生されて、カラオケで歌われて、メジャーデビューするのはいつだろう? 俺には才能があるのだろうか。これからどうなるんだろう。もっとエフェクトをかける。サンプラーを試す。楽器の種類も増やす。歌詞は誰かに書いてもらうのもありか。


●ベースほしい。買いたい。


●四作目『人食いモンスターのバラード』完成! しっとり系が作ってみたくて作り始めたが、なかなか悪くない。ちょっとドラムのリズムを変則的に、おしゃれにしてみたが反響はいかに。


「反響、なかったですね」と綾乃さん。「私は藤井くんの初期の作品も、あれはあれで結構好きですけど」

「まあ、出世作は五作目ですしね。それまでのはいい練習、勉強だったんじゃないですかね」


●自信作なのに再生数五百。なんで? 確実に良くなってるのに。とにかく次の構想練る。西村が久々のアドバイスをくれた。枠にハマるな、だ。


「切り替え早くなってますね」

 綾乃さんの言うとおりだが、次のページには予想もしないことが書かれていた。


●このまま曲を作り続けて意味があるのだろうか? まだ西村は俺に「才能がない」とは言っていない。それが救いだ。だけどいっそ、才能がないと言われたほうが、いいのかもしれない。諦めたほうが、楽なのかもしれない。


 藤井がこんなふうに思っていたとは知らなかった。あいつはいつも、下手くそな曲を自信満々で投稿していた。周囲の評価なんて気にしないし、曲を作ることの意味だとか、あるいは自分が生きている意味だとか、そういう問題は考えないやつなのだと思っていた。うじうじと悩むようなことはないのだと。

 それに、人の言葉なんて気にせずに突っ走っていけるやつだと思っていた。だけどあいつは俺の言葉を気にしていたのか。俺の音楽に対する感性を、技術を、知識を信頼していたのか? 俺なんて、いつも借り物の言葉で音楽を語っているだけだというのに。


●俺は何のために曲を書くのか? 何のために投稿するのか? 誰が俺の作った曲に耳を傾けるだろうか? 俺は世界に対して、何ができるのだろう? 西村はどうして音楽を始めたんだろうか。あいつは自分が音楽を通じてこの世界に何か残せると思っているだろうか。それともただ好きだから音楽をやるんだろうか。


●俺は死ぬまでに、この世界に何かを残したい。俺が生きた証を残したい。普通の人生で終わりたくない。誰かに俺を見てほしい。


「藤井くん……」

 誰も何も言えなかった。藤井は短い生涯でこの世界の住人たちに影響を与えるような曲たちを残した。藤井の作った曲は、これからもファンに聴かれ続けるだろう。だけどあまりに短すぎる。藤井はもっと、多くの人に影響を与えるはずだったのに。

 俺はページをめくる。どこかで見たことがある言葉が唐突に現れた。


●言葉は現実化する。


 たったこれだけだが、周囲を線で囲って強調してあった。どこで聞いたのか、見たのか……。

「これ、藤井くんがよく口癖みたいに言っていました」

「俺もどこかで見たことがあります、これ」


●もし死んだら、なんて言ってはいけない。これからはもっとポジティブな言葉を使うようにしよう。


「そういえば、出世作の五作目『キミとボクの地殻変動』って、急に明るい詞になりましたよね。テーマも分かりやすくなりましたし」

 そして三週間をかけて、『キミとボクの地殻変動』が完成。動画サイトに投稿されるや、大きな反響を得る。


●再生数、一万超えた!!!


 そして六作目、七作目も順調にファンを増やすことに貢献し、一躍人気アーティストの仲間入りを果たした。


●俺はもっともっと上を目指すぞ! 西村の感想が聞きたい。だけど最近、あいつはチャットもSNSもあまりやってないみたいだ。メールも電話もあまり反応がない。


 このころの俺は嫉妬と屈辱で心中穏やかではなかったはずだ。友達の成功を素直に祝福できない、卑屈な人間。藤井が死んで三か月が経った今でも。


●カラオケのオファーきた!!! 


●やべえ、ファンの女の子が会いたいって言ってる。やべえ。まず美容院を予約しなければ。嫌われたくない。


「これ、綾乃さんのことですかね?」

「どうでしょうね。私のほかにも、自分が応援しているアーティストに会ってみたいっていう人は大勢いると思いますし」

 このあたりはコメントせずどんどん先に進める。八作目、九作目、記念すべき十作目のころには再生数のグラフは五万刻みの目盛りになっている。

 三冊目が終わった。少し間を空けてゆっくりお茶とお菓子をいただきながら、お母さんの思い出話を聞いた。俺は原付のことを思い出した。

「すみません。藤井くんに原付を貸していたんですが、見たことないですか」

「ああ、あれ。あなたのだったの? ごめんなさいね。庭に停めてあるから、持っていって」

「ありがとうございます」

 これで足ができた。バイトの面接でもパチンコでも行き放題だ。

「最後の一冊、ですね」

 綾乃さんがノートを手元に引き寄せる。

「私がめくってもいいですか」

「ええ、どうぞ」

 お母さんが促す。俺も頷いた。

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