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ヘルメン  作者: 吉田定理
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●処女作の歌詞以外完成! 俺の才能やばすぎ!


「藤井くん、自画自賛ですね」

 綾乃さんが苦笑した。お母さんは懐かしそうに

「昔から走り出すと、もうどこまでも走って行っちゃって、止まらないんですよ」

 と言った。


●ボカロ購入! とりあえずラララで歌わせることに成功!!!


「びっくりマーク、太く書きすぎですね」

 と綾乃さん。紙面に書きなぐられた大根みたいなぶっといびっくりマーク三本から、藤井の喜びが伝わってくる。

 そして作詞作業が始まった。紙面には思いつきを片っ端からメモしていったような、言葉がずらりと並んでいる。


●グッドラック! ドラッグ! 最高の気分さ。イェイイェ。天国へトリップ! キミのリップ! 天使のキミに会えてグッドモーニング! …………


「こういうのは俺だったら絶対見られたくないです」

「あ、そうですね……」

「…………」

 ページをどんどんめくった。

 

●俺には作詞の才能がない。ひどい。ださい。


「気づいたみたいですね」

「案外早かったですね」

 しかし妥協してよく分からん歌詞のまま完成に至った。


●調教いまいち。しかしマスタリング完了! ついに傑作が完成!


●西村曰く、全体的につたない。これじゃ厳しいらしい。投稿はやめといたほうがいいとのこと。どうしようか悩む。確かに言われてみれば俺の曲はプロのと比べてしょぼい。どう考えてもランキング入りはできない気がする。だったら投稿する意味があるのか?


「ここに書いてある通り、俺は藤井に、曲の発表はやめたほうがいいと言ったことがあります。だけどあいつはネット上に投稿しました」

 そう。あいつは俺に何を言われてもポジティブだった。

 今、違和感の正体が分かった。このノートに気持ちを綴っている藤井は、確かに藤井らしいポジティブさも見受けられるが、全体的にはネガティブな言葉が多い。それが、俺の知っているあいつの印象とは異なるのだ。

 あいつは創作で悩みもせず、躊躇いもせず、自分が思うがままに次々と作品を世に出した。それが俺の知っている藤井。


●初投稿してやった!!! チョー緊張!


 そして再生数とお気に入りリストへの登録数がグラフ化されている。再生数は投稿初日に10回になり、それから勢いが弱まり、一か月後には32で増加しなくなった。お気に入りリストへの登録数は、2のままずっと変動なしだった。一か月でグラフは終わっていた。これ以上の記録は虚しいだけと気づいたのか。


●西村の言うとおりだった。全然相手にされていない。ほとんど批判のコメントばっかり。クズって書いたやつのほうがクズ。


「今あいつがメジャーデビューまでこぎつけたのを考えれば、本当に見る目がなかったのは俺ですね」

 俺は自嘲的に言った。あいつはすごい。全然相手にされなくても、次の曲を作ろうと思い、実際に作ってしまったのだから。俺はずっと足踏みをしているだけなのに。

「そんなことないですよ。あの子には、あなたのようにブレーキをかけてくれる人が必要だったはずですから」

 お母さんは静かに藤井の文字を見つめている。


●西村に全然反響がなかったことを伝えた。そうしたら「予想通りだけど何回聞いても厚みというか鬱陶しさだけはすげえよな」と言っていた。少しやる気が出た。二作目を作り始めようと思う。


「これって誉め言葉だったんですか?」

 綾乃さんが尋ねてきた。

「いやー……あんまり覚えてないんですけど、誉めたつもりは……」

「じゃあもしかして、何回も聞いてくれてる、というところが効いたのでしょうか」

「確かにこう言ったかもしれないですけど、実際二、三回しか聞いてないですよ俺」

「私には難しいことは分からないですが……あの子が音楽に一生懸命になっていたのは、きっとあなたのおかげだったんですね」

 お母さんが俺を見て、なぜか納得したように呟いた。俺は少し動揺して、

「あの……どうして急にそんなふうに思ったんですか。俺なんかいなくても、藤井、くんは音楽やっていたと思うんですけど」

「だってあの子、あなたの言葉をすごく信頼していると言いますか、私にはそんな気がしてきました。すごく影響を受けているように見えました」

「西村くんの影響は、実際すごかったと私も思います。たぶん西村くんがいなかったら、藤井くんがメジャーデビューするなんてなかったんじゃないでしょうか」

 なんだか、この人たちは俺を買いかぶりすぎていると思う。藤井の才能は藤井のもので、俺は一曲すらまともに完成させたことのない三流だ。確かに藤井は俺と出会ってから、ギターやDTMに手を出したのかもしれない。当時の藤井の目には、俺は音楽に関して一歩進んだ憧れの対象に見えていたのかもしれない。だけど俺と会う前からそもそも藤井は音楽に強い興味を持っていたし、いずれこの道に進んでいたのではないか。そして人気アーティストの仲間入りを果たし、メジャーデビューの話が舞い込んでいただろう。

 俺はノートをめくる。二作目、三作目についての記述がある。二作目は、再生数とお気に入り登録数の記録はほとんど変化がない。三作目で、せいぜい200回。しょぼいが、一作目の再生数32回よりだいぶいい。

 ノートは三冊目へ。

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