第187話 人によってどう思うか?それは分からない・・・・
澪達、役員会は準備に忙しく・・・・する訳でも無く、当日を迎えた・・・・寮に泊まる準備は、寮で食事や掃除等担当しているパートさん達にお願いし、必要な物はすべて学園に言えば手配してもらえた。これも内藤少尉にすべての権限が与えられているからで、すべてがスムーズに動いていた。そしてそれらのキーパーソンなる人物達も前日の内に到着していたが、本人達の希望で歓迎会等は行わず、極力学生達と顔を会わせずに、その日を厳かに迎えた・・・・
当日は皆がソワソワしていた。どんな新入生達が入るかも気になっていたが、それ以上に特別に呼ばれた人物に皆が気になっていた・・・
新入学生歓迎会も無事に終わり、いつもならここで終了となるが、今回は違った。
学園長がまず
「新入学生、在校生の皆さん。新入学生歓迎会はここで終わります。ここからは小田会長が発案し、実現の為に各方面の方々が多大なお力添えがあって実現した事です。皆さんのこれからにとって非常に重要な事になりますのでしっかりと聞くように。では、後の事は小田会長。よろしくお願いします。」と澪にその後の議事進行をお願いした。澪は心の中で
(・・・この賛否両論のある事案を私に押し付ける気マンマンだね。それで上手く行ったら自分の手柄と・・・まぁ見てなさい。)と気合を入れ直した。この件が決まってから澪は内藤少尉と共にしっかりと打ち合わせをおこなってきた。しかし実際にはこれから行う事に台本など無い。すべてはその人の体験談を語ってもらうだけなのだ・・・
「では、皆さん。早速ですがご入場いただきましょう。拍手などは行わず、厳粛にお迎えください。」
と言うと、講堂の扉が開いた。皆一斉に開いた扉の方を見て、言葉を詰まらせた・・・・痛々しい傷か明らかに分かるのだ・・・・ザワザワした空気の中でその人物は静かに登壇した。そこで、澪は
「では皆さん、しっかりと聞くように。では、東山さん、よろしくお願いします。」と澪が言うと登壇した人物は
「はい、只今ご紹介に預かりました。東山 喜一 と言います。この様な機会など今まで無かったもので、非常に緊張しておりますが、よろしくお願いします。では、まず皆さんが気になっていると思いますが、この失った手足の事は話していきますか・・・あれは今から、12年程前の冬と春との境の時期でしたか・・・突然、世界統一政府と名乗る勢力により、今のインドネシアを中心に大規模侵攻がありました。皆さんの中にもお父様や親戚の方が出兵なさったり、疎開したりと多大な影響があったと思います・・・・当然私が所属していた魔法兵団も援軍の為急遽、ボルネオ島に向かう事になりました・・・戦略的要所の防衛が主任務。当然厳しい戦いを想像していました・・・しかし、現実は地獄と言うのも生易しい事になっていました・・・・昼も夜も関係なく轟く爆発音に、次々と倒れていく仲間達・・・タグを拾う事も出来ずに、ただ一日一日 生き残る事だけ考えて、敵が白兵戦を挑んでくる事もあれば、見た事も無い新兵器で、攻撃を仕掛けてきて、その対処に追われ、また一人一人と仲間が倒れていく・・・そうしていつの間にか、私達の部隊は戦力5割を切って既に壊滅状態でした・・・それでも敵は攻めて、攻めて、攻めて来ました・・・・・・・そして遂には私達が防衛していた陣地を奪取されました。私達は散りじりになってしまい、そこからは深い深いジャングルの中を彷徨いながら、敵からの追っ手を避けつつ、必死に生き残る為に虫と食べ、植物から水を得て、それでも仲間達との合流を信じて、歩き続きました・・・・10日程、ジャングルを進みやっと味方の陣地へと着く事ができました・・・しかし、そこに着くまでに傷の化膿は進み、左手と右足を失いました・・・・そして、少し経った頃に・・・部、部、部隊が・・・私を残して・・・・私一人残して・・・全滅したと・・・・聞き・・・そこで・・・・」と遂に言葉を詰まらせてしまった・・・・その光景に誰も言葉をかける事は出来なかった・・・
暫くの間、東山さんは泣いていた・・・・昔の事、でも今も苦しんでいたのだ・・・・そして
「・・・・すいません、どうにも感情が抑えられなくて・・・・部隊には仲の良かった同期、折り合いが悪くてどうも好きになれなかった同期・・・いつも無茶苦茶な事ばかり言う、クソッタレな上官・・・面倒ごとを押し付ける、先輩達、生意気でいけ好かない後輩に、私が想いを寄せていた人・・・・色んな人達がいたんですよ・・・・本当に・・・でも・・・もうその人達には会えません・・・・」と再び、言葉を詰まらせた・・・・そして再び
「・・・皆さん、だからっと言って私は自分がこの道に進んだ事は後悔していません。・・・同盟国を守れた、そしてこの国を守れた・・・・その誉を心に刻み、皆の分まで必死に生きていこうと思います・・・つたない言葉でしたがご清聴ありがとうございました。」と東山さんは頭を下げると
教官達や在校生は一堂に立ち上がり敬礼をした・・・・自分達が非常に重いものを背負っていつ事を心に刻みながら・・・・
新入生はその光景を見て、たどたどしく敬礼をした・・・彼ら彼女らのはっきりと自覚したのかもしれない・・・・
その後東山さんも返礼し、講堂を案内役の学生が誘導していった・・・・