第156話 エスコート
駆け込み乗車から未だ混乱している自分を見て葵は微笑みながら
「ごめんね、総ちゃん。いきなりこんなことして」と言って
「でも、今日はどうしても行きたい場所があってそこに行きたくて。駄目だった?」ときいてきたので
「・・・いいんじゃないんでしょうか?」とただただ頷く事しか出来なかった。
その後、車掌が来たが葵が
「魔法学園の学生ですが急な予定で急いで乗ってしまいました。誠に申し訳ございません。」と丁寧に対応すると、駆け込み乗車をきつく注意されたが、それ以上のお咎めは無かった。急行料金を払い、しばらくして東京駅に着き、そこから山手線に乗り換え新橋駅で降りると
「総ちゃん、ここから少し歩くけど行こうか。」と言われたので
「畏まりました、お姫さま。」と言うと葵は少し考えてから、
「・・・では騎士様にはエスコートでもお願いしましょうか。」と照れながら手を差し出してきたので自分も照れながら
「・・・では、どちらまで参りましょうか?」と言うと
「え・・・と、ここなんだけど・・・」葵は手元に有るメモと地図を見ながら場所を探していたが、中々見つけられなかったみたいなので、
「葵、ちょっと見して。」とメモと地図をみて
「分かった。こっちだね。」と言って行こうとすると
「じゃあ騎士様、エスコートよろしくね。」と手を繋ぎながら向かう事になった。
葵の手を握りながら、歩いていたが周りの目線が気になっていた。何故か温かく見守れている感を感じながら、内心では心臓のバクバクに焦っていた。
(・・・なんだろ、今日の葵はマジで積極的だな・・・なんで?・・・)と頭の中で疑問に思いつつ、目的地に着いた。
「・・・ここは・・・喫茶店・・・だよね?・・・」と葵に質問すると
「そうだよ。ここには一度来てみたくて・・・じゃ入ろうか。」と言って入ると店内は落ち着いた雰囲気で店員さんの案内でテーブル席に座ってから、葵に
「総ちゃんはブラックで頼む?」
「いや、ミルクとお砂糖有りで頼む。」
「じゃ、私も。」と言って店員さんに自分はチーズケーキのセットを葵はシフォンケーキセットを注文してから、注文の品が自分達のテーブルに届くまで、葵に聞きたい事があった。
「なぁ葵、いきなり電車に飛び乗ってまで、ここに来たかったのはなんでなんだ?」
「雪代さんがここのコーヒー好きでね・・・一度飲んでみたかったんだ・・・」と答えると
「本当にそれだけ?葵なら・・・いや何でもない・・・まぁこんな休日もたまにはいいかな」とあまり追及はしない事にした。そのタイミングで注文した品が着いたので美味しく頂く事にした。
「おお、このチーズケーキ、マジで美味。」と言うと葵が
「一口頂戴ね。」葵に一口持って行かれ、自分が
「ちょいちょい。葵さん。この美味のチーズケーキは奪ってはダメでしょ。」と軽く抗議をすると
「ごめんね私のシフォンケーキも食べていいから。」と言われたので、有難く頂く事にしたが心の中で
(・・・これがラブコメなら葵が あーーん てしてくれたのかな・・・・)と思いながら美味しくシフォンケーキを一口だけ頂いていると、年配の店員さんがこちらの席の方に来て
「これはこれは、誠にご来店ありがとうございます。どうぞごゆっくりとお過ごしください」と言ってすぐに離れていった。
「あ、はい。ありがとうございます。」と言う事しか出来ず葵は
「・・・・ありがとうございます・・・・」と何故か気まずそうな雰囲気だった。
その後、他にも行ってみたいお店があるとの事で、喫茶店を後にし、続いては洋菓子店に向かう事になった。道中で葵に
「・・・葵、そんなに甘い物に飢えているのか?・・・結構、マスターの店に行っていると思うんだけど?」
「・・・そうだね、でも色々なお店に行って、色々な場所に行って・・・色々な事を学んでいきたい・・・」と言う葵は少し考えこんでいたので
「・・・そっか、まぁいいんじゃないかな、色々な事を学び、失敗して成長する。それが人生だよね。」と言うと葵は
「・・・総ちゃんて、時々オジサンみたいになるよね・・・」と言ってきた。
(・・・まぁ、中身の方は元々30台のおっさんだし・・・そこはどうしようもないな・・・)と内心思いつつ
「ほら、葵、行こうか。」と再びエスコートする為に手を差し出すと
「・・・うん、よろしく。」と言って次の目的地に向かって歩き出した。