第146話 涙が出て・・・
ロビーのソファーに座ってから、しばらくの間は自分も葵も話す事は出来なかった。
(マズイ、まずい、何を言えばいいのか、全く分からない・・・)と混乱しているのか咄嗟に出た言葉は
「月がキレイですね。」だった。
「え、・・・」と葵は固まってしまった。
(なに、言ってるの俺、意味わかんないし。)と一人焦っていると
「・・・今日は、曇りだから月がキレイかはわかんないけど・・・・」
「・・・あ、そうか・・・・」と再びの沈黙タイムが始まってしまった。
(ちがう、そうじゃない、えっと、えっと・・・・)今日の出来事を必死に思い出して
「そういえば、昼は大変だったな。魔法省のお偉いさん相手に、ちょっとカッコよかったよ。そういえば葵の事を助けてくれた人は誰だったんだ?」と聞くと
「船の中でケガ人を治療したんだけど、その人のお父さんでで、貴族院の国防委員会の理事の方で・・・」と言うと
「凄いじゃん、葵そんなコネクション、マジで大事にしないとね。」
「そんな・・・総ちゃん達が皆の事を助けてくれたから私も、皆もここに居られるんだから、だから本当にありがとう。」と葵の久々の笑顔に少し安心した。
しかし同時にもうこの関係も終わりかと思うと・・・・・
「総ちゃん、何で泣いてるの?」と葵が驚きながら聞いてきた。
自分でも知らない間に涙がこぼれ落ちていた。
「あれ、なんでだろ、・・ちょっとゴメン・・・」と涙を止めようと、思ったがその前に
「大丈夫、ここには私しかいないから、泣いてもいいんだよ。」と自分を抱きしめながら優しく語りかけてくれた。そのまま、ほんの少しだけ泣いてしまった。
その後、我に返り
「・・・その、ゴメン、情けない姿を見せて・・・」と顔を真っ赤にしながら言うと
「大丈夫だよ、昔から、総ちゃんは泣かない子って、朱鷺子さん言ってたけど、少し涙腺が弱い事は知っているから。」と葵に言われ少し複雑な気持ちになっていると
「じゃあ、明日も早いし今日はもう寝よっか。今日は色々あって疲れたし。いきなり婚約者?登場でビックリしたよ。もう何年も会ってないのにね。というか、私は全く覚えていなかったし、多分お母様も知らないしほっとけばいいかな?」との葵の発言に
「へ?なんだって・・・」
「え、もう今日は疲れたし寝ようと・・・」
「いや、その後!」
「その後・・・ああ、婚約の事?昔の事だからあれだけど、私は全く覚えていなかったし、興味もないしね・・・それに・・」とそのタイミングで自分は葵を強く抱きしめた。
「え、え、あの、総ちゃんその、あの、、」
「良かった。よかった。・・本当に・・・」と再び目頭が熱くなるのを感じていると
「総ちゃん、痛いよ、」
「ゴメン、葵、その・・・」と葵との顔の距離は今まで過ごしたなかで再接近していた。
「・・・・・・」
「・・・・・・」と再びの沈黙が続いた
(・・・・どうしよう・・・・)と考えが堂々巡りをしている頃、
「ちょ、痛い澪姉。」
「バカ、司、今いい所なの。踏まれた位で我慢しなさい。」
「でも、澪姉少し太った?」
「このバカ!!」
「ちょ、二人共気付かれちゃ・・・あ、・・・」と野次馬根性丸出しの四人組を存在を感知した自分と葵は、直ぐに離れて、またなんともいえない空気感になってしまった。
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「・・・じゃ、おやすみ・・葵・・・・」
「・・・うん、おやすみなさい。総ちゃん、」と言ってそれぞれの部屋に戻る事にして
「・・・・そこにいる四人も早く部屋に戻れよ・・・明日、少しお話があるけどな(怒)」と部屋に戻る事にした。
それぞれが部屋に戻り葵も自分に割り振られた部屋に戻ってきた。同室の皆は既に眠りについていたので起こさない様に静かに布団に入った。
(・・・やっと、総ちゃんにお礼を言えた・・・良かった・・・)と思って寝ようとした時ふと総一郎に言われたフレーズが頭を過ぎった・
(・・・総ちゃんのバカ・・・月がキレイだね・・・て、意味わかっているのかな・・・・)と葵は考えつつ眠りにつくのは遅くなった。
その頃自分も
(婚約は無かった・・・・そうか・・・ないのか・・・・)と考えに耽り、中々眠りにはつけなかった。