第138話 警告・・・
「右舷に命中、右舷魚雷発射管損傷!! 機関室浸水 ダメージコントロール班急げ。各所で火災発生 機関低下 更に命中弾・・・確認!! 砲塔 大破 操舵不能 通信不能 艦橋応答無し。」
と戦闘指揮所にいた砲雷長はいきなりの攻撃に困惑していた。
「どこからの攻撃だ?」
「本艦の右舷 0-9-0にいた貨物船より砲撃をされました。現在 艦の傾斜が5度を超えました。」
「艦橋と連絡は」
「応答無し。伝令行きます。」
「ダメージコントロール急げ。行足を止めるな。」と砲雷長は指示を出していたが状況は芳しくなかった。
「兵装システム停止。排水システム停止・・・現在 艦傾斜 10度を超えました。」と更に緊迫の度合いは増していった。
その頃の艦橋では、航海長以下多数の乗組員達が亡くなってしまったが、艦長は重傷であったが生きてはいた。
「・・・だれ・・・か・・・いない・・か・・・」と艦長の弱々しい声にただ一人だけ答えた人物がいた。
「艦長、御無事ですか?」と内藤少尉が艦長のそばに駆け付けたが、艦長の怪我の度合いを見て絶句した・・・・
「おお、内藤少尉ですか・・・すいません・・・真っ暗で何も見えないのですが・・・・」
「・・・艦長 何者かの攻撃で艦橋に居た者がほぼ・・・死亡しました。・・・艦長のお怪我も非常に深刻です・・・・残念ですが・・・・」と内藤少尉は残酷な現実を突き付けた。
「・・・・そうですか・・・・」と艦長は察して少しの間考えていたが、艦橋に
「艦長。ご無事・・・で・・・」と艦長に来た伝令役はその場で固まってしまった。その雰囲気で艦長は決断した。
「君、確か・・・森伍長だね・・・砲雷長に・・・命令を・・・つたえ・・て・・くれ・・・指揮権を・・・・移譲・・・す・・・る・・・・・・・・」と最後の命令を伝えると艦長は深い 深い 眠りについた・・・・・・・・
内藤少尉は何も出来なったもどかしさも感じる間もなく
「・・・君・・・砲雷長に伝えてくれ。・・・」と
「は、・・・失礼します。」とビッシっと敬礼して艦橋を後にした。
内藤少尉は突然の事態になったが冷静に考えを巡らせていた。
(・・・もうこの艦はもたない・・・艦長・・・安らかに・・・)と思いつつ艦橋を後にした
その頃戦闘指揮所の砲雷長は艦長からの最後の命令に従い、指揮権を継承したタイミングで
「総員退艦・・急げ・・・」と砲雷長の命令で退艦が始まっていった。
「負傷者を優先。機密文書破棄。救命艇を降ろせ。迅速に冷静に行動せよ。」
「・・・了、・・・」と乗組員達は、一応は冷静さを保っていたが、死亡者の出ている状況に悲しみが無い訳が無かった。しかし、自分達まで後追いは出来ない。自分達にも大切な、守りたい人達がいるから
そう心の中に思いつつ、艦はゆっくり沈んでいった。
一方その光景を見ていたフェリーの乗組員達は動揺していた。
「・・・・夕立が・・・・」と夕立から乗り込んでいた士官は呆然としていたがフェリーの艦長は冷静に
「・・・操舵手・・・取り舵一杯・・・全速前進・・・・」と号令を発した。
その号令に士官は
「船長なぜ救助を行わないんですか!!!あなたはそれでも船乗りですか!!!!」と詰め寄ったが
「確かに本来ならそうする・・・しかし、今本船は後ろからの所属不明艦の脅威にさらされている・・乗客の命を優先させる・・・。」と船長の目からは汗が止まらなかった。
その船長の姿を見た士官はそれ以上詰め寄る事は出来なかった。その時通信室から緊迫を告げる内容の無線が飛び込んできた
「船長!後方の船から交信。」
「なんと言ってきた!」
「停船せよ。以上です。」と船長は
「通信士、遭難信号を送れ。」と指示したが
「了解しました・・・・・・・・駄目です。電波妨害か何かで通信不能です。」
「・・・そんな・・・」と船長達が絶望していると、
「後方より発砲確認!!」
「総員、何かに捕まれ。」と同時に砲撃は右舷の海面に着弾した。暫く皆が沈黙していると通信士から再び
「・・・船長・・・後方の船より停船せよ。次は命中させる・・・・と来ています・・・」
既に船長達には打つ手は残っていなかった。