第123話 葵の決意・・・
雪代からメモを受け取り、葵は直ぐに自室に戻りメモに書いてある電話番号に電話を掛けた。
「プルルルル、プルルルル、はいこちら・・・・・」
「葵と言います。・・・・に繋いで下さい。」
「畏まりました、少々お待ちください。」と言って保留音になった。・・・・
しばらくして保留音は解除されたが電話の声の主は葵の期待した人物ではなかった。
「申し訳ごぜいません、私、主治医の藤田と申します。只今・・・様はお眠りになっておりまして・・」
葵は少し考えつつ
「そうですか・・・・容態の方はどうですか?」との問いに
「・・・正直に言って大変厳しい状況です。・・・」との返答に
「そうですか・・・・分かりました。 引き続きよろしくお願いいたします。」と言って電話を切った。
(もう、時間が無い・・・・私の我が儘でこれ以上負担を掛ける事は出来ない・・・)と頭の中では分かっているのだがもう少しだけ、一緒に居たい・・・なのに・・・と考えながら気づいたら涙が出ていた。
(・・・私って、駄目だな・・・・)と考えに浸っていると
「葵ちゃん、お茶を持って来たんだけど?」と朱鷺子の声が聞こえた・・。
葵は涙を拭きとり扉を開け
「ありがとうございます、ここで貰っちゃいますね。」と言って、いつも通りに受け取ったつもりであった。しかし、朱鷺子は
「・・・葵ちゃん。何かあったの?」と言ってきた。その瞬間に涙が再びあふれ出した。
「大丈夫、葵ちゃんどうしたの?」との朱鷺子の質問に葵は答える事が出来なかったが朱鷺子は何も言わずに葵を優しく抱きしめて優しい口調で
「いいのよ、我慢しないで泣いてもいいのよ、ここに居てあげるから。」と葵はしばらく朱鷺子の胸の中で泣いていた。
時間にして5分位経って葵は少し落ち着いたので
「・・・すいません、朱鷺子さん・・・もう大丈夫ですので・・・」と感謝をしたが
「何言ってるの。何か悩み?聞くわよ。」との今の葵にとってありがたい事だったが
「いえ、自分で決めないといけないので・・・気持ちだけ受け取っておきます。」と答えたので、朱鷺子はそれ以上は無粋と思い
「・・・そう、分かったわ。・・・葵ちゃんの気持ちを尊重するわ・・・じゃ、おばさん仕事に戻るわ。」と言って朱鷺子は仕事に戻って行った。
その姿を見送りつつ葵は
(私の答えは・・・・)と必死に答えを出そうとする葵の頑張りを誰も見る事は無かった。
夕飯の支度も終わり自宅に帰ろうとした朱鷺子が雪代に呼び止められた。
「朱鷺子さん少々よろしいですか?」と言って執務室でテーブルを挟んで対面に座って述べ始めた
「明日から、私と葵様は所用で東京に参ります。なので、掃除以外の業務はお休みで大丈夫です。勿論お給金は同額のままです。これは、この屋敷の鍵になりますのでよろしくお願いいたします。」と言われたが朱鷺子はそこまで驚きはしなかった。
「・・・そうですか、分かりました。・・・・また、葵ちゃんと会えますかね?」と朱鷺子は雪代に聞いてきたが答えは
「・・・それは、葵様の答え次第です。・・・総一郎君達には黙っておいて下さい。」と雪代は頭を下げた。
「そんな・・・頭を上げて下さい。・・・・・・分かりました。総一郎達には黙っておきます。」と朱鷺子は雪代のお願いに同意した。
「・・・申し訳ないですね。後、葵様が部屋まで来て欲しいとの事ですのでよろしくお願いいたします。」と言って執務室での話が終わり朱鷺子は葵の部屋に向かった。