第111話 若女将誕生?
チェックイン15時過ぎになったがここの民宿に来る人はギリギリまで観光を楽しむ人が多い為、しばらくはそんなに忙しくは無かった。大広間にお膳や座布団、大きな炊飯器の用意などをこなしていると女将さんの呼ぶ声が聞こえた。
「二人共、ちょっとロビーまで来て~」と呼ばれたので行ってみると、女将さんと葵が色違いの着物でお出迎えの準備をしていた。
「どう二人共。私昔から、若女将と一緒にお迎えするのがやってみたかったのよね。」とかなり意気込む女将さんに葵は気迫で押されていた。
「良く似合っているじゃないか、葵ちゃん。なぁ、そう思うだろ総一郎君も。」と真一さんの言葉に
「・・・そうですね、本当にきれいですね」と本音がポロリと出てしまった。
「////ありがとう////」と葵が返した所でハッと我に返った。
「///いや、あの、その・・・はい・・・良く似合っております。」と述べた所で大将達の存在を思い出し二人で赤面していると玄関が開き
「すいません、今日予約入れている矢沢と言いますけど。」との言葉で女将さんが
「あ、すいません、お待ちしておりました。・・・じゃ、皆仕事に取り掛かりましょうか。」と言ってこの微妙な空気は一旦解消される形になった。
(マジで似合っていて心臓が持たないよ。)と考えながらも葵が女将さんと一緒にいるという事は・・・
自分一人で八部屋二十三人分の配膳をする事に・・・その結果
「総一郎君、次の品行くよ。」
「了解です。」と調理場は修羅場になっていた。
「すまないね、総一郎君・・・女将のわがままで苦労させて。」
「いいですよ、こんな機会は中々無いでしょうから、葵にもいい経験になると思いますし。」
「ところで、葵ちゃんとの関係はどうなのかな?」と真一さんが聞いてきたので
「・・・仕事と直接関係無い質問はお答えを差し控えます。」
「なるほど、気になる意中の人・・・と言うところかな?どうだろう。」と図星を突かれた。
「・・・・」と黙秘していると大将は
「青春だね。あ、次の料理仕上がるよ。よろしく。」と雑談をしながらも次々と料理を仕上げていった。
配膳も一段落した頃、葵が女将さんと調理場に入って来た。
「ごめんね、総ちゃん一人で大変だったでしょ?」と謝ってきたので
「大丈夫、大丈夫それよりどうだった・・・その・・・いい体験が出来たと思うんだけど・・・」
「そうだね、とっても貴重な体験だった。凄く良かった。」と笑顔で答える葵を見ながら
(ああ、この笑顔が見られただけで疲れも吹っ飛ぶな。)と思っていると女将さんが
「ごめんね総一郎君。大変だったでしょう。でもそろそろ夕食の開始だから、もう少しよろしくね。私は明日以降の予約状況の確認と書類の整理があるから、後は二人でお願いね。何かあったら大将に言えばいいから。」
「はい、分かりました。女将さん。」
「葵ちゃんもそのままの格好ででいいからこの後もよろしくね。」
「はい、頑張ります。」と葵も気合十分だった。
そうこうしている内に夕食の時間になって、お客さんが続々と大広間に入っていった。