Do I deserve this?
ベルッタが机に置く紙には等間隔の枠の中に時間や行事や担当者の名前がある。ロヴィーサの予定表だ。時間割に従って、ロヴィーサに必要なものの手配を指示したり、自分で取りに行ったりする。
暫定王太子妃、ロヴィーサの私室にお茶を運び込むと、ベルッタはティーカップを配置して部屋の主人を待った。
椅子に座り、じっとするも帰ってくる気配がない。
到着が前後することはままあるだろう。けれど、こんなに長い時間連絡もなしに遅れるだろうか。
外が気になり扉を開けると、イッカが廊下を早歩きしていた。
「お嬢! こんなところにいたんですか!」
剣幕に、目を瞬いた。
「ずっとここにいたわよ。ロヴィーサを待っているの」
「そのロヴィーサさまが心配なさるので、総出でお嬢を探してたんですよ! 来てください」
「どういうこと。……とにかく行くわ」
イッカの案内についていけば、中庭でお茶会が開かれていた。
カイヤがティーポットを傾け、ベルッタを見て片眉を上げた。が、なにも言わない。イローナも何食わぬ顔で減った菓子やミルクなどを補充している。
ロヴィーサだけが微笑んだ。
「ベルッタ。行方不明になったのではなくてよかったわ」
「申し訳ございません。状況を把握いたしかねます」
「殿下がいらっしゃるからわたくしの部屋ではなく、中庭へお茶会の用意をしてほしいと知らせを回したと思うのだけれど」
「……お伺いしてません」
ロヴィーサの部屋へ持っていったぶんは無駄になってしまった。
「伝達が間に合わなかったのね」
果たしてそんな単純なものだろうか。辺りを見渡しても、何人かは含み笑いにしか見えなかった。ベルッタの心象のせいか、実際馬鹿にされたのかこの場では確かめられない。
ベルッタはそっと前掛けの裾を握り込んだ。
「ご迷惑をおかけいたしました」
「配置をしたばかりで混乱があるのは理解している。これを機に部下たちとも連携を上手くとるように」
ウルヤスの温かくも冷たくもない声音。ベルッタを非難しているわけではないけれども、行き場のない怒りを抱えるのはベルッタばかり。
「恐れ入ります」
ベルッタへの伝達ミスは、伝言に複数人を介したことから起こったことらしかった。
その日の業務を終え、体への重責から夕飯も食べる気になれなかったため、まっすぐ自分の部屋へ帰る。
白い毛並みをした狼がわふ、と控えめに吠えた。
ベルッタがしゃがんで腕を広げると、狼が飛び込んできた。勢いのまま倒れ、毛の柔らかさを堪能する。
ブレイズは裏庭で待っていたり、今日のようにベルッタの自室に入り込んでいるときもあった。
「ブレイズ、高貴な人間なんてろくなもんじゃないわね」
自身こそ由緒ある家の娘なのだが、多少立ち居振る舞いを習っただけの田舎でのびのび育った町娘だ。
まるで敵地に来た気分になる。故郷で甘やかされていたことをひしひしと痛み知る。
気に入らない者は疎外して蹴落とす都会の獣たち。意見があれば真っ向から勝負を挑むやり方に慣れていたベルッタは乾びるように明るい感情を無くしていた。
「わたし、こんなに弱かったかしら」
じわりと滲んだ涙がつうと頬を滑り滴となった。
Do I deserve this?
(私が何をしたっていうの?)