The blind dates.
グルーウィス国の東と南からやってきたロヴィーサとベルッタは道中鉢合わせして共立ってきた。同じくして北と西からやってきた娘たちと王城にて顔を合わせた。
国の有力者の娘四人が一堂に会して、彼女らは表面上はにこやかにしている。もとよりこの場にいることに興味のないベルッタは自然体だし、ロヴィーサは誰にでも愛想がよい。
「カイヤ・ハンニネンですわ」
挑戦的な態度を隠そうともせず、意志の強そうな眉毛をしている。
「イローナ・レパネンでございます。よろしくお願いします」
間延びした話し方で警戒心を解かせるが、雰囲気には気品がある。首元のネックレスに手を当てているところから、緊張しているのだろう。不安な気持ちは髪に触れたり、身につけたアクセサリーに触れたりすることで現れるものだ。
「イローナ、『よろしく』なんてしてられなくってよ。私たちは一つの席を争わねばらないのだから」
「あの、でも、それだってお話して決めればよいかと。殿下のお気持ちもございますし」
ベルッタとロヴィーサが道中に仲良くなったように、カイヤとイローナも先に知り合っていたようで親しげに話す。
「国の決め事ですのよ。個人の気持ちなど通用しないわ」
気は重いが、ベルッタは「そのことだけれど」と切り出した。
「わたしはここに留まるつもりはないの。婚約者だとか王子妃だとかはやりたい方がお好きにどうぞ。応援するわ」
「ふざけてるの? ベルッタ・アーティサーリ。いままでどんな教育を受けてきたのかしら」
未来の王子妃の候補として選ばれただけで光栄であり、家へ名誉をもたらしうんぬんかんぬん。カイヤの演説を右から左へ流しながら、ロヴィーサに半目を向けると彼女は肩をすくめた。この場ではカイヤの言うことがもっともなのだ。
結局はベルッタが参戦しようがしまいが彼女は気に入らない。
殿下のお成りです、との一言でカイヤの演説が中断され、みなが居住まいを正した。
「楽にしていいよ。第一王子のウルヤスだ」
王子は優しげな声をしていた。許しを得て顔を上げてやっと視界に入ったその見た目も、ベルッタには物足りなく映った。年の頃は十六だと聞いている。ロヴィーサと同じでベルッタの二つ下。身長も平均といったところか、まだ伸び代はあるかもしれない。健康そうではあるが、屈強な筋肉に囲まれて育ったベルッタからするとまだ頼りなさそうで不安を煽る。すぐ後ろに立つ近衛兵と比べてしまったのがいけなかったのかもしれない。彼らはさすが、よく鍛えられている。
「みな遠いところより来てくれて感謝する」
端正な顔と社交辞令。王子に令嬢たちがひとりずつ紹介される。
「パルサーレ州よりカイヤ・ハンニネン嬢」
王子とともに入室してきた側近の声を合図に、勝ち気な娘が一歩前に出た。
「この度は面目を施していただきありがとう存じます」
「サスタラバ州よりイローナ・レパネン嬢」
「殿下にはご機嫌うるわしく……」
彼女は膝を曲げすぎて座り込みそうだった。
「ああ、久しぶりだねイローナ嬢」
ふわりと笑った。父が政に関わり、王子と幼馴染関係にあるイローナは一番の有力候補だった。
「ソンダーブロ州よりベルッタ・アーティサーリ嬢」
ベルッタは声も出さず軽く礼をしてすぐ目を逸らした。これで関心もないのが伝わっただろう。あちらもそれで不機嫌になることはないところを見ると、興味を引かれなかったらしい。
「リレボルグ州よりロヴィーサ・ヨウセン嬢」
王子の顔から貴公子の仮面が剥がれた。頬をほんのり色づかせ、口が開いたままになっているただの青年。銀髪の可憐な少女に釘付けで、ベルッタは早くも王子争奪戦の勝敗が決したのを確信した。
「ロヴィーサでございます。どうぞよしなに」
ウルヤスは少女の愛らしさにあてられて、熱に浮かされたようにしている。カイヤは目を吊り上げていた。イローナはたまらず目を伏せる。
The blind dates.
(お見合い。)