At a glance after the Betrothal Ceremony.
婚約式の準備が整ったのは、ウルヤスとロヴィーサが顔合わせをしてから実に一年弱。
教会で王族の神前宣誓婚約式が行われる。
若い二人が右手同士を重ねた。それぞれが誓いの言葉を読み上げ、司祭が肩布を二人の手に覆い被せて祝福の言葉を授ける。
さらには贈られた婚約指輪に聖水をかけて儀式は完了した。
微笑み合う男女は、この婚約は自分たちが心から望んだものだと如実に物語っていた。
教会の庭では立食パーティが催されている。
外の自然光でロヴィーサの着けた指輪がきらめいて、多くの男女の羨ましげなため息がどこそこで連鎖している。
ベルッタはロヴィーサの近くに控えていたし、クーロもウルヤスを挟んで向こう側にいたが、勤務中なので話しかけられない。元気そうなのでそれを確認できただけでもよかった、ことにしよう。
「どうぞ」
見知らぬ給仕の男が飲み物とナプキンを差し出してきた。
仕事中にベルッタが主人を差し置いて物を口にすることはありえないし、王子と王子妃の口にするものは必ず事前に決めた側仕えが運ぶよう指示をしていたので、この時点で怪しかった。
「下がりなさい!」
畳まれたナプキンのヨレが不自然だ、と違和感を持ち、男の持ち方が握り込む形に変わった瞬間に手の甲で強く男の手首を弾いていた。飲み物のグラスは床で割れ、ナプキンの間から刃物の光がこぼれる。
「ロヴィーサ、殿下と離れて!」
いち早く行動したのはクーロで、何人もの近衛兵とともに二人の周囲を固めて隠す。黒い目にベルッタに向けた惑いを見つけてーーそれで心が満たされた。
まずは護衛対象の隔離避難が最優先。横目で確認したベルッタは落ちた武器を拾われないよう蹴り飛ばした。
男はベルッタを人質にでもとろうとしたのか。伸びてきた手を避け、逆に掴んだ。ベルッタがくるりと軽やかに身を踊らせれば、その動きに似つかわしくないゴキリという音が聞こえた。男の腕の骨と骨が離れた音。
片腕は不能にした。続いて肘で側頭部を殴りつけ、脳震盪を起こしている男の足を払い、地面にうつ伏せに抑える。自重では心許ない。バルテリ、と呼ぼうとして彼は両陛下の護衛に駆り出されていたのだったか、と口を閉じる。ここからは遠いし、さっさと避難誘導しているだろう。
すぐに捕縛道具を持ってきた警備兵にその場を託した。凝視してくる大群はひとかたまりで、ひとつの心を持っているかのよう。
「うへぇ、あれで女かよ……」
近衛の面目など丸潰れだ、と遠くにいたひとりが呟く。それに釣られて次々と口を開く。
「えっ、女?」
「女装してる護衛とかじゃ……」
方向転換すれば人の波が開け道ができる。
ベルッタは口を引き締めて教会を後にした。
「お嬢、こっちだ」
バルテリを見れば安堵できた。彼が回してきた車に乗り込む。
「いまさっきクーロが両殿下を隠れ家へ送っていった。オレも陛下たちを護衛車に乗せるどさくさにまぎれて抜けてきた」
「そう。みんな無事でよかった」
他の脅威はなかったらしい。
「悪かった。オレがあの場にいるべきだったのに」
「人員配置の権限はバルテリにはないじゃない。それにわたしが犯人を伸したのよ? 怪我一つないわ。なんでわたしが負けたみたいに言うのよ」
「だってよぉ……オレはお嬢を守るためにいるんだ。なのになんかことあるごとに引き離されるし」
「王家にいいように使われてるんでしょ。いいのよ、わたし自分の身は自分で守れるから」
たまに、ほんのごくたまにその強さが嫌になるけれど。
でもロヴィーサを守れたのは誇らしい。
婚約の式自体が終わって、空気が緩んだときを狙われた。幸いなことに被害はゼロだ。
王城へ戻ってしばらくして、王子妃からの呼び出しがあった。完全に危険がないことを確認して、王城へ戻って来れたらしい。
「ロヴィーサ、恐ろしい場面を見せてしまってごめんなさい」
軽装に着替えたロヴィーサはベルッタを抱きしめた。
「わたくしは守られた側です、謝らないで。ありがとうベルッタ、おかげで殿下もご無事です」
「ベルッタ嬢、私からも礼を言う。あなたがいてくれて本当によかった」
「もったいないお言葉です」
ロヴィーサがベルッタの腕を抱いて、ソファに誘導する。
「教会ではわたくしたち何も口にできなかったわ。軽食があるの、一緒にいただきましょう」
「え、殿下は?」
「ウルヤス様はまだ報告を受けることがあるから、後でいいのですって」
「……わかったわ。実は少しお腹空いてたの。ありがとう」
にこっとするロヴィーサの姿を見て気が抜けたのか、やっと空腹を感じつつあった。
ロヴィーサとベルッタから離れたところで、クーロは王子に耳打ちしていた。
「あれはロヴィーサ様を、というよりそもそもベルッタを狙っていたように見えました」
「同感だ」
「それではーー」
「ああ、更に調査しよう」
これを機に、ベルッタへの数々の嫌がらせは完全に止んだ。いつまで潜んでいられるかはわからないが。どうやら主謀者はベルッタの武の力を知り炙り出されることに怯えたのだろう。
これまではロヴィーサやウルヤスの介入を拒否していたのだけれど、公然で事件を起こされたいま、そうも言ってられなくなった。
本格的に法的機関に協力を求め、解決に乗り出すとロヴィーサが意気込んでいる。
近寄る人間もごっそり減った。みな腫れ物に触るようにベルッタを恐れる。バルテリの影に隠れていたのが、ベルッタ自身も相当の武闘派なのだと知れたから。
王女に護身術を教えているのも、噂だろう、戯れだろうと多くには受け取られていたのが一変した。
ベルッタは被害者だし、むやみやたらに暴力を振るった覚えはないのだけれど。
そのうち故郷にもニュースが渡ったのか、母から電話で話したいと連絡を受け取った。
下のほうにちょっとヒロインと母親の小話があります。
At a glance after the Betrothal Ceremony.
(婚約式の後の一目で。)
補足。
【ストラ/stole】
司祭が肩にかけている帯状の布。めっちゃ長い。
【ビースト/beast/護衛車】
要人警護に使われる防弾ガラスなどなど装甲を固めた車。動作が重い。
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On The Phone.
(電話で。)
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電話での母は平常通り明るかった。
『活躍を聞いたわよ! よく頑張ったわね。怪我はない?』
「してないわ。相手がわたしを下に見てたからできたことよ」
『父様も気にしてたの。ベルッタが英雄扱いされて今まで以上にモテモテになったら困る、って』
「男相手に大立ち回りしちゃってみんな遠巻きにしてくれてるわよ……」
『まぁっそうなの? ベルッタかっこいいのにね』
「ソンダーブロの人たちが血気盛んすぎるの。普通のお嬢様だったらその場で震えて何もできないでしょう」
『強くて優しいわたくしたちの自慢の娘よ。そしてとびっきりかわいい、ね』
「そう言うのは父様と母様だけなんだから」
『王城に居づらくなったなら、イブリーカ帝国に行かない?』
「どうやって? 私、人質なのよ」
『お嫁に行くのよ。それなら王家からも許可を取りやすいわ。ウルヤス王子殿下のお相手はもう決まったのだし、他国に嫁ぐのでもいいでしょ』
「え? イブリーカの、どの家に」
『ふふ。実はね、ジャス君にきいてみたのよ』
いかにも近所の男の子のように話しているが、帝国の王子のうちのひとりである。王子妃候補に選ばれる前に滞在していた一国。あのときも挨拶を交わしたが友人としか思えない男性だ。
「王子がうちからの縁談を受けるわけないじゃない! 気の知れた相手だとしても! 年上でも、これはナイわよ」
後日イブリーカ帝国からの消印の手紙が届いたのはベルッタの予想の範疇を超えていた。
『メルハ叔母様から持ちかけられた件だけど。ベルッタを嫁として側に置くのは、どうにもカレヴィ殿を連想してしまって困惑する。ごめんね、きみの良縁を願っているよ。旅行に来るなら大歓迎だから、いつでもおいで。』
とくに好きでもない相手から 振 ら れ た !!
理由が父関連なのがまたやるせない。
これくらい率直にお断りを入れてくれるほどには、親しくしてくれていることを喜んでおこう。とりあえず国家間の問題は避けられたのだ。悪くはない、はず。
(ベルッタ、従兄弟から振られる)(告白もしてない)(好きでもない)




