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We’ll be besties!

 東の国境であるソンダーブロ州から首都まで列車に連日篭りきりで四日かかった。

 首都の駅でイッカはおかしいな、と呟いた。王城からの案内役が来ているはずだが見当たらない。


「お嬢、ここらへんで待っててくださいね」


 駅の構内の柱の前で人待ち風の少女を見かけた。一際明るい銀の髪に穏やかな青の瞳。旅行者のいでたちで、これからデートというわけではなさそうだ。ベルッタと同じくらいの年のようだが、なんだか目が離せない。通り過ぎる男たちが彼女を眺めるために戻ってきたり、声をかけて撃沈したりしている。


「誰かを待ってるの? さっきから絡まれてるけど大丈夫?」


「ええ、迎えが来ているはずなのだけれど、遅れているようですわ。従者も迎えの方を探しに行ってしまいましたの」


 声をかけたこちらも女性だったからか、答えがあった。


「わたしも同じ。あなた、お姫様みたいね。一人でいては変な男が寄ってきて危ないわよ。わたしと一緒にいましょ?」


「え?」


「一人より二人がいいわ。おしゃべりしていたら気も紛れるし、わたし強いもの。任せて」


「まぁ、ありがとうございます。あなたはどちらに行かれるのですか?」


「わたしは王城へ行くの」


 王城の外観を楽しむ観光ツアーなどもあるから、その部類だと思われたかもしれない。けれどベルッタは嫌々ながら、といった態度を露わにしていたので彼女は驚いている。


「あの、もしかして……王子妃候補の?」


 後半は視線をさまよわせて声をひそめた。今度はベルッタがびっくりする番だった。


「まさか、あなたも?」


 なんたる偶然か、ベルッタ以外の候補三人のうちの一人に当たったようだ。この子とならば、お互い争い合うことはなさそう。

 にっこりと笑顔を向けられて、ベルッタの心はあたたまった。


「ロヴィーサ様! お待たせして申し訳ございません」


 息を切らしながらひょろっこい男が駆けてくる。その後ろに、イッカも見えた。


「お嬢、迎えの車は外です。行きましょう」


「わかったわ。でもこの人たちも一緒よ。ね?」


 荷物を両手に持ち上げながら、イッカは「はい?」と訊いた。同じ場所にいた少女は肯定する。


「わたし、ベルッタ・アーティサーリ。よろしく」


「ロヴィーサ・ヨウセンと申します。仲良くしてくださいませ」


 握手してから手を繋ぎなおして、少女たちは歩き出した。お互い気を許した親友同士のしるし。



「いやぁ、渋滞に捕まってしまって到着が遅れまして。申し訳ございません」


 運転手はハンドルを切りながら謝った。イッカは「責任感がない」とご立腹である。

 それを尻目に、ロヴィーサはベルッタに話しかけた。


「ベルッタは、ソンダーブロ州の出身でしょう? アーティサーリ家といえば将家、戦闘能力に優れてますわよね。護衛のあの男性も軍人でいらっしゃるの?」


 見た目からして筋肉のついた体躯だし、身のこなしもキビキビしていて無駄がない。


「確かにイッカは軍人だけど、わたしの親類じゃないわよ」


 それは見比べればわかる、とロヴィーサはころころと笑った。髪質ひとつをとってもイッカの刈り上げた直毛は整髪剤なしで立つほどに固いが、ロヴィーサは癖のあるあたたかいキャラメル・ブロンドをしている。


「リレボルグ州といえば工芸品ね。うちにもいくつかイイロ・ハカラの器があるわ」


 お茶を淹れる道具や、その茶道具を保管する箱、筒、袋にいたるまでそれぞれ名工を抱えている。またそれらの原材料を生産する場にも決まりがある。


「まぁ。リレボルグ州についてもご存知なのですね」


「うちの州のことを知っていた子に言われても」


「あら。わたくしは、ほんとうに有名だから知っていたのですわ。我が国の平和が保たれているのはソンダーブロ州があるからと習いましたもの」


 国同士の力の均衡が崩れれば弱みに付け込まれて侵攻される。それがないのは国境が守られているから。隣国イブリーカ帝国と友好関係が築かれているのも、ソンダーブロが軍事力を有しているからこそ。


「どうも。それなら、他のお妃候補たちのこともわかる?」


「予想はしておりますわ。パルサーレ州とサスタラバ州から二家が目立ちますでしょう」


「ハンニネン家とレパネン家のこと?」


「ええ、もちろん」


 アーティサーリ家とヨウセン家と同様、高名な一族。国政にて発言力のある双家からも娘たちは呼ばれている。


「誰が選ばれるにしても、わたしは関わらないようにするわ。ソンダーブロに早いところ帰りたいの」


 始まる前からの戦線離脱宣言にロヴィーサは目を丸くした。


「どなたか心に決めた方がいらっしゃるの?」


「まさか。相手もいないし、まだ結婚なんて考えてないわ。王都にいるなんて、肩が凝りそうなのよ」


「わたくしは、ベルッタと過ごせる王都の日々は楽しいと思いますけれど」


 ベルッタは嬉しそうに笑った。


「そうね。ロヴィーサと一緒にいられるのはいいわね」


We’ll be besties!

(親友ね!)

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