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A squeaky toy

「ずいぶんとかわいがってもらったじゃないか」


 ツヤツヤさらさらの白い毛皮でクーロの自宅に現れたブレイズは鼻高々としていた。買ってもらったばかりの櫛でさんざん梳かされたのだろう。


『男前が上がったと思わんか』


 ふさふさの胸毛がふんわりと空気をはらんで大きく見える。そうして尻尾を一振り。

 この美狼(びろう)がブラッシングの間だらしなくも女の前で腹を出してにへらにへらしている姿を想像して笑みを抑えきれず口元を歪める。

 

 雑貨店での顛末を伝えると、ブレイズにはつまらなかったのか、くわ、とあくびをした。

 娘大事とはいえ、王族並みの護衛対応をさせる親。


「父親として守るにしても度を越している」


『そうか? 母親があれだからではあるまいか』


「ベルッタ・アーティサーリの母親がなにか? 生家は爵位持ちとはいえ」


『なんだ、上辺の資料しか読んでおらんのか。イブリーカ帝国のかつての王女ぞ。婚姻前に王族籍を返上して伯爵家の養子となった。まぁお主は幼少期に習った各国の家系図や相関図なんぞすっぽ抜けておるか。脳筋め』


 ブレイズが以前に言っていた、ベルッタから漂うイブリーカの匂い、とはそこからだったか。


 妃候補を出す際に情報を集めたのは娘たちが生まれてからこれまで。王子の嫁候補とあって王子の覚えめでたい近衛のクーロも情報を与えられた。対象の年長者は十八のベルッタだが、事件や問題があったのならまだしも、家系を二十年以上も前まで遡ってはおらず、父母においては旧姓の補足がついているのみだった。


「……王女がアーティサーリ家へ輿入れしていたのか」


 元とはいえ王女の娘だから、ベルッタへの姫という呼称は全くの間違いではない。父親が娘の扱いに神経質になるのもただ愛娘がかわいいからだけではなかった。もし、イブリーカ帝国になにかあれば玉座に据えられる可能性だって孕んでいる。あちらの国は男女どちらとも王位に就く。


 ーーとくに知らずとも問題はない。


「俺からもプレゼントだ」


 音の出るぬいぐるみ(スクイーキィ・トイ)をぽいと投げる。


『馬鹿にしとるのか』


 ぐるる、と牙を剥く。ぬいぐるみを咥えて投げ返した。ぴぅ、と気の抜ける音を鳴らして受け止められる。


「その顔が見たかった」


 犬用のかわいいおもちゃを購入しているクーロを、ベルッタはなんとも言えない顔をして見ていた。口端を上げてみせたときに、こちらの意図に気づき仕方ないとでもいうふうに小さく笑うのが、なんだか、……。


 体が怠くなり椅子の背もたれに倒れた。

 頭痛、ではないのだがゆるく締め付けられる感じがする。


『調子が悪そうだな』


「朝は普通だったんだが」


 酸素が足りないような、脳が正常に働いてないような。熱があるかもしれない。幸い仕事中は支障が出なかったが。


『ああ、魔法がやぶれかかっておるぞ。それで混乱しておるのだろ』


「……そうか? やぶれる? 薄れる、ではなくて」


 失敗していたのか。すぐに魔法をかけ直した。幼い頃からかけ続けて慣れているのに。

 正常を取り戻し、不調も消えた。


「ああ、楽になった」


『不調の原因は別にあるんじゃないか』


「なぜそう思う」


『ジジイの勘だの』


 そうは言いつつ何歳だとちっとも教えてくれないのがこのジジイだった。少なくともクーロが覚えている限り、昔からこの口調だし毛艶だ。


A squeaky toy.

(音の出るぬいぐるみ/おもちゃ。)

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