窓から星空を眺めていたら天使が落ちて来た
掲載日:2022年 06月 13日
小説情報 N9760HQ
たこす様主催の企画
『第二回この作品の作者はだーれだ企画』
に参加させて頂いた際の作品です。
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まだ、世の中は薪や石炭が主流だった時代。
澄んだ夜空には無数の星が輝いていて。
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「アレは一体何だ?」
窓から星空を眺めていると、小さな点が視界に入った。
目を凝らし様子を見ていると高速で落ちてくる訳でもなく、パラシュートかバルーンでも墜落してきているのだと思った。
「火薬とかは無しで願いたいものだが…」
そして、落下物は風に流されているのか次第に我が館の方へと近付いてきた。
正直、得体の知れない落下物が近付いてきているのだから、今すぐ窓から離れて床へ伏せた方が良かったのかも知れないと思ったが、接近するにつれ落下物に危険性のない事が見て分かった。
※
今となっては、それを落下物と呼んだのは申し訳ない。
7年前、空から落ちて来たのは天使だった。
「今でも覚えているよ」
「あなたさえ居なければ…」
「酷い言い方をするね?」
あの日、いつものように大気と宇宙の境を飛んでいると、それよりも少し高い位置から強い光が見えた瞬間、衝撃や痛みを感じるよりも早く何かが彼女の左羽根をつらぬき後方へと消えていったらしい。
「それにしても、すごい確率だな」
「私が一体何をしたって言うのかしら?」
「まぁ、空を飛んでいただけだな」
「そうよ! 普通に飛んでいただけなのに羽根を折られるなんてっ!」
地上で見る流れ星も、遙か上空では小さくても弾丸に匹敵するのだろう。
翼を折られ飛べなくなった彼女がヒラヒラと天空から地上へと降りた場所は街からも離れた森に建つ館の庭だった。
「誰も見ていなくて良かったな」
「あなたが見ていたわよ…」
「他の人間という意味だよ」
幸いにもあの日は、星だけで月明かりの無い夜中だった事。
降りた場所が人気の多い街の中心地などではなかった事。
そして、目撃者が洋館唯一の住人で主の私だった事。
「私が最初に掛けた言葉を覚えているかい?」
「もちろんよ」
「君は天使かい?って」
「もしかして、あなたは普段から天使とか信じているタイプだったのかしら?」
生憎、私は悪魔を信じても天使は信じていないタイプだ。
それでも、背中に白い翼を付けた女性が空から落ちて来たら天使以外の例えが見付からない。
「天使なのかと聞いたら」
「あの時は、それどころじゃなかったのよっ!」
「違います って答えたね」
本人は、月明かりもない夜中だったので誰にも見られて居ないと思っていたのだろうが、2階の窓から急に話しかけられ動揺したといっても、あの状況であの否定はどう考えても無理があると思うが……
天使かと尋ねた所、違うと答えたのだから。
※
その場で待つように窓から伝え、空からヒラヒラと訪ねてきた客人を出迎えるためランプを持ち、足早に庭へ向かうと大人しく地面に座り込む姿が見えた。
「翼を、怪我しているのかい?」
「いえ、ちょっと転んで膝を…」
「こんな夜中に庭で膝を擦りむくかい?」
「じゃぁ、肘を…」
本人には悪いが、かなり苦しい言い訳をする天使だと思った。
せめて、背中の大きな翼を隠してから言い訳をして貰いたいものだ…
「膝でも肘でも何処でも良いから安心してくれ」
「………」
「この館には、他に誰も居ないのだから」
「……?」
別に、誰かが悪いわけではない。
世界が悪いわけでもない。
偶々、私が沢山のモノを失ってしまい… こんな森の中に佇む館に今は1人で住んでいる。それだけの事だ。
「痛みとかは大丈夫なのかい?」
「そういうのは問題無いので大丈夫よ」
人間と違い、傷みの感じ方や怪我をしたとしても出血する事などは無いが、どんな怪我をしても全て元通りに治る訳でもないと彼女は言った。
「どちらにしても、今すぐには飛び立てないだろう?」
「……」
改めて近くで見る翼はどんな鳥よりも真っ白な羽根でいて、今はとても痛々しい状態になっていた。
「とりあえず、今日の所は一旦休んだら良い」
「……」
「館の当主が君を正式に客人として招くよ」
「…」
「無理には奨めないが… 嫌だろうか?」
「えぇ、嫌よ」
天使というのは、とても素直な存在なのだろう。
即答で拒否されてしまった。
なんだか、広い館に1人で住み続ける事より辛い… つらい… 泣きそうだ。
「で、では… 呉々(くれぐれ)も夜の森には気を付けてくれ…」
「気を付けるって何にかしら?」
街から離れた夜の森ともなれば木々で覆われた夜道は足元が見えにくいばかりか、夜行性の大型動物とも遭遇する危険があるだろう。
「毒を持った虫や、凶暴な熊や、幽霊や魔女にだよ」
「お、おっ、お化けっ!?」
「えっ?」
「えっ!」
今、虫や熊にではなく幽霊という単語に反応したような…
「まぁ、幽霊や魔女と言うのは冗談だが」
「こ、殺しますよっ!」
素直な存在である天使の口から、ド直球でその単語を耳にするとは思わなかった。
それ以上この話を広げる必要性はあまりないのだが、その言葉が幽霊に対する言葉なのか私に対する言葉なのか死活問題として気になる所ではある。
「どうしても急ぐのなら明日の早朝に発てば良い」
「…そ、そうさせてもらうわ」
「なら、改めて我が館へ案内するよ」
「お願いするわ」
彼女が立ち上がると地面に着いていた翼は形を保てないほどに傷ついている事が余計に分かったのだが、それでも手を貸すのを躊躇うほどの美しい翼であった為、私は彼女に歩幅を合わせてゆっくりと部屋へ案内する事しかできなかった。
※
一夜明け、窓から差し込む朝日で目を覚ました私は身支度を済ませ彼女の居るであろう部屋へと向かった。
「もしかすると、既に出発しているのだろうか?」
部屋の前に着き、扉をノックしようとしたところ室内から微かな声が聞こえてきた。
「ね、寝過ごしたわ…」
どうやら、早朝に出発はしなかったらしい。
正確には、予定はしていたのだろうが寝過ごしたらしい…
「朝食は出るのかしら?」
そして、朝ご飯についての心配があるらしい。
だが、天使は一体何を食べるのだろうか?
若葉に付いた朝露や花々の蜜くらいしか思いつかないが…
「(トントン!) 入っても良いかい?」
「えぇ、大丈夫よ」
部屋に入ると、彼女はベッドに腰掛け折れた翼を擦っていた。
「翼の具合はどうかな?」
「……」
昨日の今日であの怪我が治るとは思っていないが療養を取れば治るのだろうか?
「今後の事は何か考えてみたかい?」
「あ、あなたを…」
「うん? 私を?」
「唯一の目撃者を消せば問題がひとつ解決しそうな気がするわ」
その言葉を聞いて、白い翼の悪魔も居るのだなと思った。黒い翼の悪魔も見た事ないが…
どちらにしても話題を変えなくては…
「なら、朝食を作るくらいの時間は残されているだろうか?」
「朝食っ!?」
私の言葉に彼女は驚いたのか喜んだのか分からないが、大きく反応を示した。
具体的には、怪我をして居ない方の翼がバサッ!っと広がり彼女の目がキラキラと輝いていた。 多分、喜んでいる?
※
結局、私が口封じとして消される事もなければ彼女の翼が治る事もなく、行き場のなくなった天使はこの洋館で使用人として働く事になり広すぎる建物と敷地の清掃や手入れを続け、気が付けば何の案も見つからないまま7年が過ぎていた。
「そう言えば、今夜は珍しい流星群が見られるそうだよ」
「珍しい?」
流星群なんて毎年何度か見られるものなので特別に気にする事ではないのだが、今回のは少々珍しい流星群のようだ。
「7年に一度しか見られない流星群らしい」
「ふーん 7年に一度…」
「そして今回のは、輝いている時間がとても長いそうだよ」
「流れ星の?」
何やら今回の流星群は普段の数倍も流れ星の数が多く、光り輝く時間がとても長いそうだ。
「それだけ長いのなら願い事が叶うかもしれないな?」
「なぜ願い事が?」
今まで気にした事がなかったが、流れ星を見つけたら光が消える前に願い事を3回言うと、その願いが叶うと信じられているのは人間だけにしか分からない言い伝えのようだ。
「そう言えば7年ぶりって事は…」
「私がココに来た時期ね?」
その言葉で思い出した…
あの夜も、私は流星群を見る為に窓から空を眺めていて、その流れ星の1つに羽根をつらぬかれて地上へ落ちて来たのが彼女だった。
翼を奪った相手に翼が欲しいと願わすなんて、どんな悪い冗談だろうか。
配慮が足りなかった…
「す、すまない…」
「別に気にする事ないわ」
※
その事もあり、今夜の流星群を見るのは辞めようと私が言ったのだが、彼女がどうしても見たいと言うので夕食後、2人で庭へ出て空を見上げると7年前のような月明かりのない吸い込まれそうな星空が広がっていた。
「本当に願い事が言えたら叶うかしら?」
やはり、翼を奪った相手にだろうが願いが叶う機会があるのなら試してみる価値はあるのかも知れない。
「ならば、私も一緒に願うよ」
「じゃぁ、お願いするわ」
それから、お互いブツブツと願い事を3回言う練習を沢山しながら特大の長い流れ星が来るのを待ち続け、集中力も切れそうになった頃に気のせいなのだろうか? 一瞬世界が無音になったような感じがした直後、音が聞こえてきそうなくらい明るく大きな流星が天空に現れっ!
『彼女の翼が治りますように、彼女の翼が治りますように、彼女の翼が… えっ!?』
『結婚できますように、結婚できますように、結婚できますようにっ! 言えたわっ!』
「って、えぇーーーーーーっ!?」
「な、何か問題でもあるのかしら?」
彼女は、頬を赤らめ潤んだ瞳でこちらを見ている。
「今、なんてっ!?」
「願い事… ちゃんと3回言ったわよ?」
「そ、それって!?」
「私の願い事は… あ、あなたが叶えてくれるんでしょ?」
そう言うと、彼女は更に照れたのか翼を広げ自身を覆い隠してしまったのだが、その姿はまるでウエディングドレスを着ているように見えた。
最後までお読み頂き有り難うございます。
今回で2回目の開催となる『たこす様』主催
『第二回この作品の作者はだーれだ企画』
に参加させて頂いた際の作品でした。
何だか、いつもと書き方が違うな?
と、お気づきになった方は
『たこす様のページ』
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または
『第二回この作品の作者はだーれだ企画』
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ではではっ♪
最後までお付き合い有り難うございました。