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デスターン  作者: 春川立木
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70話 凡人は天才に勝てない。でも凡人じゃないと天才には勝てない

世の中には娯楽が多すぎます。

多すぎるが故、暇に感じてしまう。

おもろいゲームないかな……

「私のナイトがやってきます──」

「!?」


ルトは気づく。

この闘技台にいる最強に……。


木刀がエミリーに届く距離、振り切る速度よりも速く、そいつは来た。


「俺らの核は崩させない……!」


2人の間にそびえ立つそれは余りにもでかい壁。

そう錯覚させられるように、振り上げられた木刀が太陽に照らされ息を呑む。


この瞬間、ルトは本能的に脚がすくむ。


あぁ──ダメだこれ……

狩られる立場──


きっと強者に食われる魔獣たちはこの感情を最後に死ぬのだろう。


ただ茫然と木刀が振り落とされるのを待っている。


ちきしょう──

もっと早くから剣を振っていれば少しは戦えたんだろうか……


「まだぁ!!」


アルゴの腕が振り切るよりもさらに速いスピードで、それはやってくる。


木刀が弾き合う音と共に現れたセリーヌは、ルトの目の前で不気味にも笑っていた。


「私だけに集中して下さい!!」


目を開いたのはルトだけではない。

その場にいたアルゴもエミリーもアックスもなんなら観客席にいる全てのプロたちもが立ち上がる。


余りにも速い移動と、完璧なポジション、完璧なパリィ、その瞬間だけセリーヌはアルゴを大いに追い越した。





「ハマったな……」


観客の1人、腕に覚えがある冒険者がそう呟く。


「ハマった?」


隣にいた魔術師が質問する形で繰り返す。


「あぁ、今のは完全にハマった。気持ちがいいだろうなあの子は」

「?」

「後衛のお前にはあまり馴染みがないだろうが、前衛のほとんどは体感する事象だ」


疑問の顔をした魔術師に分かりやすいよう説明を始める。


「前衛の仕事は単に後衛がやられないことと、後衛が作ったチャンスを得ることだ」

「そりゃそうだろ」

「だがな、俺らは人間だ。どれだけ鍛えても動体視力も瞬発力も体力も限界がくる。相手の動きを見てから動くとそれが強く感じ取れるんだ」


名のある冒険者も、大国一の剣士も、誰もが痛感する「あと一歩」。

それをリカバリーするためにほとんどの前衛が挑戦する。


「博打だ。ただの博打。次の攻撃をある程度予測するのは難しくない。だけども脳を回転させる時間すらも勿体無い。考えるだけで『あと一歩』が足りなくなる」

「勘ってやつか?」


闘技台で笑っているセリーヌを見つめながら笑う。


「勘でもない。ただの運。あの子はただまぐれであそこに走った。直感とも違う、本当にただのギャンブルでそこに走り、偶然にも相手の攻撃が来たそれだけだ」


その言葉に未だピンと来ていない魔術師は再び質問をする。


「それのどこがハマったんだよ」

「ハマるってのは夢中になることと、ドンピシャで合うこと、そして今まで足りなかった何かが溢れ出すことの話だ。それを含めてハマるが一番ピンとくる」

「? はぁ、」

「つまり脳汁だ。多幸感に包まれ、興奮を覚え、没頭しだす。深い集中力が生まれ……あー、つまりは軽い覚醒だ」





「ははっ! 何今の……?!」


今、自分でやって驚いてる。

この瞬間、相手よりも速い動き、考えるよりも先に体が動いた感覚、そして目の前の最強を負かした興奮。


「気持ちいい……」


今まで足りなかった何かがガッチリとハマる音がする。


それよりも……周りの動きが手に取るようにわかる。

脳がしっかりと動いているのか、それともニーナのバフが効いてるのか……。


違う……どれも違う……。

まるで神に愛されているかの如く。

相手の次の動きは、私が次出す動きに合わせられている。


この闘技台で行われている行為は全てにおいて私が作り出している。


『圧倒的強者感』







セリーヌ自身、この行為は初めアルゴが出していたことを知らない。


味方のはずなのに恐ろしく見える。

あいつが次何をするかで、次の動きが決まる気がする。


この盤面の所有権は今この瞬間にアルゴからセリーヌに譲渡された。


『勝てる』


ルトは確信する。

木刀の刃はエミリーに向いたまま。

だが、感じる違和感。


アルゴの攻撃は弾いた、目の前にいるエミリーは無防備。

でも何かを忘れている気がする。


『デジャブ』


ルトはウォームアップエリアで似た光景を見ている。


『人が一番油断する場面とは勝ちを確信した時だ』


ちらつく親父の言葉、反射的にセリーヌを見る。


「!!」


空いた左手で遠くを指している。


あの状況下で、アルゴの猛攻を防ぎ、周りを見て最善の行動……。


こいつはどこまで見えてるんだよ……。


驚きや尊敬よりも悔しさが勝つ。

人差し指の先にはニーナがバフを唱え続けている。

そのさらに向こうにはアックスの矢がそれを狙う。


あの弓者もなぜあれほど冷静で的確に的を選べる?

アルゴだってそうだ、弾かれたことに対して驚きもしていない。

エミリーだって平然とアルゴが来ると信じていた。

俺だけテンパってるみたいで恥ずかしいじゃねーか。


セリーヌもおかしいだろ、俺にあの矢をどうにかできると信じている。

遠い、間に合わない、先にそんな思考がやってくる。


邪魔な思考は消したはずなのにな……。







「ルトさん。魔術の種類には得意不得意があります。現に水魔術が不得意でしょう?」

「はい」


夏休み期間、補講でアリアからそう指摘される。


「かなづちですよね」

「……はい」


ルト自身分かっている。

足がつく池でも溺れた記憶がある。

そこから水が怖くなった。


「得意な魔術は基本的に幼少期よく触れてきたものが多いです。なので一般的に水や土といった比較的安全で触れやすいものが流通しています」


魔術は詠唱で発動出来るが、想像力があれば比較的楽で明確に発動出来る。


「まぁ、中には全てなんなく使える天才もいます」

「ニーナみたいなやつですか?」

「……ルトさんは天才とは何だと思いますか?」


唐突な質問にルトは困惑しながら答える。


「天賦の才ってやつですよね、努力無しに何でも出来るやつ。俺が一生追いつかない存在」

「……そうですね、追いつけない存在はしっくりきます」


何で今この話をするのかはしっくりこないが、ルトは天才ではないことだけ理解できる。


「では天才を上回る方法知ってますか?」

「? そんなの無理ですね、俺がどれだけ努力しようが、天才だって努力をする。かけ離れた場所からスタートして同じ分だけしか進めない時点で追いつけない、セリーヌがそうですし」


その言葉にアリアは頷く


「私の知り合いに脳筋のやつがいます。彼女は誰がどう見ても天才で、さらに努力を惜しまない人です。その子が私にいった言葉があります。『天才に勝つには天才だからこそ考えない、思いつかない行動をすれば勝てる』と」

「……思い付かない行動?」

「天才は秀才と違って感覚派なんですよ、秀才は凡人じゃなければ成れない。何度目の挫折を何回もの苦悩を乗り越えるためにやり直してやっと秀才になれる。だから天才はその気持ちが理解できない」





天才はあくまで天才なだけ。

出来ないやつの苦悩を知らない。

だからこそ、そいつの思考は読みずらい。


「ごもっとも……」


魔術は幼少期触れていたものが得意になりやすい。


使う予定はないと思っていたけれど、持っていて損はなかったため刺しっぱだった。


いつも父の背中を見ながら馬に乗って野原を走っていた。

その時感じる向かい風は心地が良く、ワクワクさせてくれる。


腰に刺していた杖を取り出す。


それが好きで五歳の頃には馬に1人で乗れるようになり、よく走っていた。


爪音と共に加速する景色、風の中をかき分けながら揺れる体。

その全てがたまらなく好きだ。


やる価値はある。

習ってはいない。

ただフォルトに教えてもらいながら試した魔術。


矢が放たれる前に、詠唱をする。

暗記はしてきた、だけども実践になると焦って噛むかもしれない。


2年の唯一1人だけ魔術の補講を受けた俺だからできる賭け。

ここにいる奴らは俺が落ちぶれていると思い込んでいる。


きっと誰も魔術を使えると思っていない。


「かける大地、巌窟の肥溜め、絶える息を嚥む旋風、呼吸と共に猛踊る『デゥームストーン』」


詠唱完了と共に放たれる矢。

それに向けた杖の先端に集まる風は渦を巻いて圧縮される。


ニーナに向かう矢に対して、風の塊が向かう。


矢は風を切り裂き進むのに対して、真横からの風には弱い。

緩やかな風なら問題ないと前にロズは言っていたが、こっちは風の塊だ。


想像通り、矢は風に直撃し方向を見失う







「は?! 習ってない魔術使えるようになったの?!」


ウォームアップエリアにて、ロズは驚いて声を上げる。


「どういうこと!? フォルト!」

「あ、うん、教えてたんだよ……」


その言葉にロズは二度見をするように魔術を放ったルトを見つめる。


「教えたって……ろくに魔術使えなかったよね」

「そうなんだけど……ほら、ルトっていつも凡人だって塞ぎ込むでしょ……」


魔術専攻の補講でもできない自分に落ち込んでいたことを思い出いだす。


「……そうかな? どっちかって言うと、俺は天才だー!! タイプじゃない?」

「あー……得意分野だとそうなんだよ、でも僕からすればルトは天才だと思うん……だ。確かに周りにニーナやロズ、セリーヌの天才がいる……」


その言葉にフォルトもねとロズが追加するが、首を振られ否定される。


「僕が思うに、ルトは運が悪い人間だと思うんだ……よ」

「? 運が悪い?」

「う、うん。だから……人よりでかい壁が邪魔してくる回数が多い。けど、その壁を何度も這い上がって今あそこにいるんだよ」







できた……フォルトに教えてもらった魔術……!


さぁ、度肝を抜かれろ四年生。

答えたぞ、セリーヌ!!


一瞬、セリーヌの様子を見て気づく。


いや……まだ答えていないよな。

あの期待、信頼はこんなもんじゃないんだろ?


杖をしまう時間が惜しい。


俺はそれを地面に捨て、剣を握る。


「そうだろ? 天才どもが……」


一歩を速く、思考を進めろ、あと何回度肝を抜けるか。


セリーヌはアルゴ1人に手一杯。ニーナはバフの詠唱に集中するのに必死。

必然的に俺が残り2人を相手しなければならない。


いいねぇ。このヒリツキ!


たかが一本矢を防いだだけ、次が来る。

『満足するなよ凡人!!』


気づけば俺はアックスへ走っていた。

無理やり近接に持ち込む。

邪魔をしろ。相手の嫌がるところへ懐へ。


「は?」


その時、勝手に木刀がぶれる気がした。

まるで、後ろを向かせるような、挙動。


セリーヌと違い、ルトは真剣を持っていない。

授業も自主練も木刀で行う。

そのお陰か、彼自身がイメージする剣の重さ長さ握りやすさ、その全ては木刀基準になっている。


『剣聖は剣に宿る』

その言葉をルトは知らない。

だが、毎日のように使っている木刀は答える。


唐突に振り返るルトに放たれた光の槍。

2度目の攻撃、エミリーは1度目と違い完全に刺し切る勢いで放った。


それを簡単に気づかれたように、振り返った剣士は全てを弾き、睨まれる目つきに驚いた。


「まじかよ……何だ今の……」


剣が教えてくれた……?!

いや、違うはずだ。

バフのお陰……でもないよな。


見たことも聞いたこともない未体験の出来事が次から次へと浮き上がるみたいに、俺の背中を押してくれる。


「はっ! まじかよ!! もっと、もっと、教えてくれよ!! 俺の知らねー未知をよぉ!!」


興奮、高揚、激昂そして絶頂。

──体が欲する。







──ゾクゾクっ


闘技台にいるアルゴ、エミリー、アックスは感じる。

この場でもっとも厄介な奴はセリーヌではない。

天才であるニーナでもなかった。


初手で、ファーストローテでいの一番に潰しておかなければならなかった。


「そうか、お前だったか……」

「あなたでしたか……」

「君なんだね……意外だ」


パーティにおいて、最も重要な役は心臓。

それはただの強さや、頭の良さだけでは成れない役。


司令塔はパーティにおける脳であり、作戦の計画を作る奴である。

戦士はパーティにおける肉体であり、ただ強さがあればいい。

サポートはパーティにおける酸素だ。きつくならないように立ち回る。

そしてパーティにおける心臓は闘士である。


どれだけ肉体が頑丈だろうと、どれだけ脳が立派であろうと、どれだけ酸素が綺麗であろうと、心臓『パーティを動かす熱とそれらを繋ぎ止める柱』がなければどこがで必ず崩れてしまう。


「あいつがいるから戦士の限界が潰れないのか」

「彼がいるからニーナさんが本気を出してるんですね」

「君がいるから作戦が回るんだ」


「「「いいパーティだ」」」


周りの天才から見れば、確かにルトは普通よりに見えてしまう。

だが、そのせいでルトが乗り越える壁は周りにとって鼓動の躍動に変わる。






「何となくわかった。ルトの凄さ」


ルトは凡人に比べれば天才だが、それ以上の天才に埋もれてしまう運の悪さ、だがそれを運が悪いと決めつけず、自身の弱さと決めつける。


「昔、姉が言っていた言葉が今になってわかる気がする」

「?」

「凡人は天才に勝てない。でも凡人じゃないと天才には勝てないって言葉」


まぁ、ルトは凡人じゃないんだけど……。






詠唱開始から4分半経過──。


遂にニーナの聖女の祈りが完遂される。


「ハハっ、やんじゃんルト」


目視にてルトの状況を理解し、笑う。


「ならうちも全力っしょ!!」


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