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デスターン  作者: 春川立木
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68話 折れない剣

やっぱり健康が一番だと思った今日この頃。

当たり前に走り回ってふざけ合える体調に感謝をしましょう。

「あのナイフって、杖だったんですね。」


関係者席で試合を眺めていたファセスがそう呟く。


「今年からの導入らしいですよ、なんせ今年の2年生から魔術が必修になってますから」

「やっぱりずるいです。アリア先生を拝めるだけでなく、隠し球を幾つも所持してるなんて」


その言葉に呆れたアリアがため息混じりにそうですねと答える。


「まぁ、実戦には向かない攻撃パターンだし、魅せプにしかならない祭り用って感じだから許す」

「そうなんですか?」


ファセスの言葉に疑問を浮かべたアリアは試合から目を離さないまま質問する。


「えぇ、今の技術力では真剣に魔導石を入れることが出来ないんですよ。魔剛製との拒否反応だったかな……」

「へー、詳しいですね」

「そりゃこの時のためなので」


ファセスの言葉に再び疑問を浮かべたが、アリア自身、ファセスのことを変人と思っているので、答えは聞かないことにした。






ルトの読みでは魔術師無視の剣士狙いって言っていた。


現に相手の剣士は私に向かって来ているし、弓使いはエイムをこちらに向けている。


矢は正直弾けば簡単だ。

しかし、一番面倒くさいのは矢に意識を持ってかれて、剣士の攻撃を防ぎきれないこと。


「フォルト! アーチャー無視で支援して!!」

「う、うん」


相手の弓使いはレベルが高い。

フォルトの「ロックマグナム」を弾けるほどの実力者だ。


対してこちらの魔術師は失礼にはなるが、矢を弾けるほどの実力はない。

それなら剣士の攻撃を邪魔してくれた方が楽に戦える。


敵2人の総攻撃、剣士のロバートが前衛。

弓使いのアックスが後衛の立ち位置よりもさらに後ろにいるが、あの腕だったら長距離での支援も的確に出来る。

ありきたりのポジショニングだが、完璧で効率のいい動き。



ロバートの剣筋を読み弾き返すが、すぐに次の攻撃を繰り出してくる、それを防いでもさらに3回目の攻撃。


挙げ句の果てには矢が飛んでくる。


まるで、二刀流の剣士と戦っているかのように錯覚する。

それぐらいに後方のアックスのサポートが的確。


アップは十分にした。

出番になるまで木刀を握って、体に馴染ませてきた。


だが、それでも感じる違和感。


剣の重み、長さ、グリップの違い。

その全てが私自身の全力を制限させる。


「防ぐだけかぁ!? 噂とはちげーなぁ!」


ロバートの猛攻にフォルトの魔術で弾かれる。


「噂……? 私悪口でも言われてるんですか?」


2発目の矢を折り、喉元へ突き。


「はっ! 謙虚かぁ? 逆だわアホ!」


突きの攻撃をロバートがパリィし、カウンターを狙う。


「2年に転入してきたバカ強ぇ奴って言われてんだよ!」


首への大ぶりをしゃがんで避ける。


「嬉しい言葉ですね、期待には応えなきゃ!」


低い体勢のままロバートの足をかけ、姿勢を崩す。


「──くっ!」


ロバートと私の身長差は歴然。

2年も違う年齢で、性別すら違う。


身長が高い相手とは散々やった。

どうすれば相手の意表をつけるかもわかる。


この半年は無駄じゃなかったと、ここで示せ。

ニーナがバフをモリモリ入れてくれてんだ、ここでやれなきゃ意味がない。


都合よく弓矢のサポが来ていない。

ならこのチャンスを逃さない。


木刀を握りしめ、ロバートの首筋へ──


違和感がある。


自分の武器が違うからとか、バフをかけてもらったとかそんな話のものじゃない。


この違和感は試合に出てた時から始まっていたもの。


Q.なぜ弓使いのアックスは後衛に回った?

A.それは遠距離だから。


そんなことは分かってる。

馬鹿でもわかる話だろ。


Q.なぜあんなに後ろに立っている?

A.巻き添いを喰らいたくないor魔術師警戒?


──違う!!


アックスの位置はすぐに交代が出来る相手のウォームアップエリア寄り!!


弓の支援が途中からなかった意味は……


「気づいてももう遅い」


低い声。

ロバートでもアックスでもフォルトでもないその主。


咄嗟に目線をロバートの後ろへ向ける。


「!? アルゴ……!!」


いつの間にか現れたその巨体に私は息を呑む。


向けられる殺意、振り上げられる木刀、迫り来る刃の風音、脈拍の焦りに呼吸が荒れる。


まるで死神……、

圧倒的な自信と、圧倒的な経験。


私がいつ盲目になるかを計算しての交代に視界に映らないように満を持した攻撃。


ここで私は初めてこの人が歴代最高傑作と呼ばれる由縁を知る。


「終わりだ」


本能的に察する強制感。

抗えようがない──絶望。


「────」


頭の中すら体と同じで主に従順で動かない、動けない。


「セ──ヌ」


どれだけ頑張っても、時間には敵わない。

私がどれだけ焦ろうが、相手だって止まってくれない。

努力なんてそんなもの。


「セリーヌ!!!」


思考の中に声が聞こえる。


毎日聞いているこの甲高い声。

どんな騒音の中でもはっきりと聞こえる大きく元気な声。


努力が嫌いで、それを見せられるのも嫌う人。

それなのに才能があって、私よりも悩んでた人。


人が嫌いで、変わり者、そのくせ意外と寂しがりやで、繊細な人。

そして魔力の減り無視で大量のバフをかけてくれた、今回の豊作戦で最も変わった人。


ニーナ!!


「全力には全力だろ?」


ルトのこの言葉が結構好きになった。


みんな本気で全力でやってるんだ。

努力が馬鹿らしいとは思わない。


止まっていた思考が回り出す。


目の前に迫り来る刃──


抗え! 抗え! 抗え!


私の言葉に呼応してくれるように、剣聖が顔を見せる。


時が止まる。

脳が、映像を鮮明に見せてくれる。


束の間の不安と焦りはもうなくなった。


『剣聖は剣に宿る』


この言葉はきっと私がいつも腰に巻いているものではない。


私自信のもの。

折れなければ宿り続けるもの。


強さとは自信だ。

折れない削れない萎れない自信。


アルゴ自身もそれを知ってるからこその行動。


「さて、どうする? セリーヌ・スメール」


自分の木刀はロバートに向かってる。

体勢も屈んでいるから咄嗟には動けない。

目の前に迫った木刀も無視できない。


動かせるのは左手のみ……前みたいに左手の甲で攻撃を反らせるか?


いや、審判から見てアウトになる可能性が高い。


これは殺し合いじゃない、ただの試合だ。


ルールに則った反撃じゃなきゃ負け。


右足は膝をついている。左足はロバートの足を蹴ってる。

右手はロバートの首筋、左手は地面を触ってる。


うん。やっぱり左手でなんとか──いや……待てよ……。


ルール上相手の武器を奪う攻撃はできないが、相手の武器を手放させることは可能。


現状、私含め木刀は3本。

正面に向けられたアルゴの木刀と私の攻撃をなんとか防ごうと倒れ込むロバートの木刀。


いける──!!


ゆっくりと動く視界と同じく、ゆっくりと左腕を曲げてさらに体勢を低くする。


足蹴りしている左足は弧を描いている途中だ。


そのまま勢いを殺さずに左肩から地面へローリング。

ついでに、膝をついていた右足の踵でロバート右腕をできる限りアルゴの攻撃を邪魔する形で蹴り上げる。


ロバートの木刀と、アルゴの木刀が擦れ合う音と共に世界が動く。


「ハァハァ……できた……」


私の木刀でロバートは致命ポイント。

アルゴはもう誰もいない地面を叩きつける。


「…………やはりな、」


アルゴはそう小さな声で呟くと、剣を持ち上げて肩に置く。


「その年で剣聖の域か」

「……えぇ、まぁ。必死でしたけどね」


満足そうな面持ちに疑問が浮かぶ。


「アルゴ先輩嬉しそうですね」

「? ああ、まぁな」


隣にいる何が起きているのか分かっていないロバートは審判から指摘され、理解できないまま立ち上がる。


「おい! なんでお前が出てくんだよ!! お前はラストローテつったよな!!」

「すまん。試したかったんだ」


ロバートは立ち上がり、近くに来たアルゴを指差し怒鳴る。


「試したいじゃねーんだよ! 本番中だったろうが!!」

「しかし……俺が来なくてもやられていただろう」

「はぁ!? お前が来たから狂ったんだろうがよ!!」

「すまん」


審判からの警告で、ようやくロバートは舌打ちをした後踵を返す。


「さて、これでこちらがラストローテだ。次の狙いはわかるか?」


律儀にも他のメンバーを待ち、私に答えさせる。


「……私のままですか?」

「いや、違う。エミリーが言うには、お前らのラストローテで一番厄介なのは2前衛、1支援らしいからな」

「……? だからこその私では?」


よくわからない。

わからないが、ルトの予測は合っていたみたいだ。


「俺は一番最高のコンディションでお前らを潰すだけだ」


なるほど、狙いは私からフォルトへ変わるってわけか。


「お前はどうする?」

「どうとは、それはフォルトを庇いながら戦うかって質問ですか?」


アルゴは首を振って言い換える。


「お前は俺と同じく、強い相手と戦いたいのかって話だ」

「? 弱いのと強いのだったらそりゃ……強い方?」


多分聞きたい答えと違ったのだろう。

アルゴの顔が曇る。


「……間違えましたね、アルゴの質問に」


曇った顔のアルゴの後ろからひっこりと現れたエミリーが微笑む。


「間違えるも何も質問的に私の考えが答えじゃ……」


あなたの名前はなんですかって質問に、セリーヌ・スメールって答えたら『間違いだ!』って言われているようなもの。


「フフ、こう見えてアルゴ君は口下手なんですよ」


そりゃ、見たらわかりますよ。


「アルゴ君の質問の意味は、こちらは最高のコンディションだから、アルゴ君同様に本気で潰しに来てくれるかって話です」


……は?

質問の意味が全く違うじゃないですか。


「エミリー、狙いは魔術師で変わりない?」

「はい。お願いしますアックス」

「了解でーす」


矢を携え、勢いよく放つ。


「うわっ!」


急な攻撃に驚くフォルトをよそに、エミリーとアルゴは話し合いをしている。


「相手の聖職者はどんな奴だ?」

「ニーナさんは正直に言いますと、図れません。いえ、侮れないと言った方が正解でしょうか」


エミリーは顎に手を置いて、続ける。


「素質で言えば私以上。才媛とでも言いましょうか、下手したら2年生で習う範囲以外の攻撃パターンがある可能性が」

「なるほど……。今年の2年は豊作だな」

「えぇ、本当に。しかしアルゴ君程の方々はいないでしょうね」


今ここで奇襲をかけてもいいんじゃない?

私が横にいるのに見向きもしないし、アルゴの強さ的にバレる可能性はあるけど……エミリーに関してはそこまでの経験があるとは思えない。


「セリーヌさん。奇襲を掛けたいんだったらその殺気を抑えてからがいいですよ」

「!」


錫杖を私に向けるが、目線は向けられていない。


「あまり私を侮らない方がいいです。私だって四年生の中ではトップなんですから」

「…………」


構えていた剣をゆっくりと下ろして後ろに下がる。


「いい判断です」

「にしても長いな」


アルゴは避け続けるフォルトを見て、ため息をつく。


「少し外す」

「はい」


アルゴは剣を構えて体勢を取る。


「グレイライト流……『一玥華』(せんげっか)』」


まるで稲妻の如く、フォルトへと一直線に向かう攻撃。

まばたき一回で、フォルトの首筋へ木刀が入る。


「……はや」


見たこともないその攻撃に驚きで掴んでいた木刀が床へ落ちる。


「あっという間にラストローテですね、セリーヌさん」


満面の笑みでエミリーが答える。


「……で、ですね」


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