67話 中盤戦へ
集中力はどうしたら出るのでしょうか。
頭の中ぐちゃぐちゃになってもうしちゃかちゃ。
木刀が折れた。
急いで交換すれば応戦できるが、それを待つよりかは誰かと交代した方が得策だ。
フォルトとセリーヌ……、正直セリーヌはまだ出したくない。
最終兵器としての役割がある。
なら──。
「……フォルト! 交代するぞ!」
「う、うん!」
闘技台に駆け込むフォルトとハイタッチをしてウォームアップエリアへ。
「やんじゃん」
「え?」
戻ってきて一番最初に称賛したのは意外にもニーナだった。
「お前が褒めるなんて、意外だな」
「はぁ? 褒めてあげたのに、生意気」
前の試合から一体何があったんだ?
持ってる武器も違うし、支援魔術も気合が入っていた。
「……なぁ、一回戦目の後、どこ行ってたんだ?」
「ん? なんで?」
いつもより表情も良く見える。
「なんて言うか……ニーナって、めんどくさがりだろ?」
「あー、今までしょうもない事で悩んでたから?」
答えになってないような気もするが、詮索する必要も今はない。
それよりも、次のアクションをどうするか……。
「ニーナ、豊作戦のルールは頭に叩き込んでるか?」
「あたぼう!」
親指を立てた返事に俺は続ける。
「ウォームアップエリアから闘技台への攻撃、回復、バフデバフは禁止されてるだろ?」
「うん」
「だが、ウォームアップエリア内から内への行動は制限されてない」
これだけ言えばニーナは気づく。
「あー、バフ死ぬほど掛けとくって話しね」
「あぁ、俺の先にセリーヌにかけまくってくれ」
ニーナは二つ返事で、詠唱を始める。
「え? 私が先に出るの?」
最終兵器としての自覚が出てきているセリーヌが驚いた様子で質問をする。
「あぁ、相手は俺とセリーヌ、そしてニーナのラストローテを警戒してるはず。だから、俺が出たら真っ直ぐ狙ってくる」
少しでもラストローテを剣士2、聖職者1にできる可能性を上げておく。
「きっと、向こうはアルゴを最後に出してくる。ならうちの最終兵器を投下して、さっさとラストローテにした方が勝てる確率が増える」
「私がやられるかもしれないよ?」
うちの兵器は今更何を言っている?
俺からすればセリーヌが負ける想像がつかない。
「確かに、アルゴと一対一だったらどうなるかわからないが、俺は信じる。セリーヌなら剣士か弓者のどちらかを速攻でねじ伏せる事を」
「……荷が重い」
荷が重いのは俺の方だ。
セリーヌという番狂せを上手く使いこなさなければ、チーム内が狂う。
「ロズかフォルト、どちらかがやられたらすぐに交代してくれよ」
「分かった」
◇
闘技台では剣士のロバートと射手のロズがいがみ合っている。
ロバートが近づこうとすれば、ロズが矢を放ち牽制。
闇雲に特攻できないロバートは内心腹が立っている。
その証拠に、矢を弾くたびに舌打ちが増えていく。
「そんなにバカスカ放ちやがって! 時間稼ぎかよ!!」
「…………」
「どうせ魔術師待ちだろ? だが、その前に矢がなくなんだろ!」
ロズの背中に背負っている矢筒には2本の矢しか残っていない。
「ほら、打てよ。後2本、弾いてやるからよぉ!」
「クソっ」
一本の矢を掴み、弓にかけ放つ。
「後一本!」
弾く音と共に嬉しそうな笑みを浮かべるロバートに、最後の矢が放たれる。
「ゼロ本!! 無くなったなぁ! 矢がよぉ!」
「……そうね」
意外にもあっけなく、ロズは諦め立ち尽くす。
「じゃぁ、俺にやられとけよぉ!」
走り出すロバートに、ロズは笑みをこぼす。
「──『矢が』無くなったより、『矢は』無くなったがあってるけどね」
その言葉にロバートは気づく。
「固定概念って怖いと思わない? 射手は遠距離で、弓に矢をセットして放つ。矢がなくなれば攻撃のしようがないなんて……」
ロズは弓を右手に持ち替えて、大きく振りかぶる。
「──こいつ! 弓自体を投擲武器に!」
弓は回転と共にロバートの元へ投げ込まれる。
「……って、弓単体だと囮にしか使えねーよ!!」
木刀で弾かれた弓は木っ端微塵に変貌し、ロバートは足を止めずに立ち向かう。
「そう。ただの囮、これが主役だから」
「!!」
ロズの右腰から抜かれるのはナイフ型の木剣。
ロズは今までずっとナイフの存在に気づかれないように、攻撃をしていた。
矢を射る時の姿勢、右腰が死界になるように、常に左側を前に出して、走りながら矢を射っていた。
「はっ! だからなんだよ!! リーチはこっちが有利なんだよ!!」
余裕たっぷりのロバートは年下の女の子にも容赦はなく、頭蓋骨を割るつもりで木刀を振り上げ、渾身の一撃を──
この一瞬を逃すなと、思考を、脳をフル回転させるロズがカウンターを狙う所に──
「ロックマグナム!!」
後方からの魔術の援護がやってくる。
真っ向切りに対しての邪魔はロバートからすれば苛立ちの種。
いや、今までも種は植えられていたし、育ってきていた。
弾かれる攻撃を、腕の反発を、小賢しく杖を向けてくる魔術師を、その全てがロバート自身を震わせる。
「……潰す!!」
歯軋りを鳴らし、頭に血の登ったロバートは血管を浮き出させながら、剣を振るう。
それは怒りのあまりか、幼稚で容易い剣捌き。
「潰すぅーー!!!」
近接はほぼ素人のロズですら簡単に受け流し、躱せるほどに。
フォルトの支援もありながら、攻撃を弾き、避け、弾かれ、避けられを繰り返す。
「お前も舐めプしてんのかぁ!? ふざけるなぁ!!」
ロバートの癇癪は続く。
「周りから天才って言われてんだろ!? なのになんで、避けんだよぉ!!」
「……当たると痛いから?」
その解に舌打ちをして真下からの大ぶり。
「こっちはなぁ! お前らより2年も多く剣振ってんだよぉ!!」
単調な真上からの袈裟斬りを回避して、フォルトの魔術がロバートへ向かう。
「攻撃が幼稚になってますよ」
「クソっ! 俺が万年二位だからか!? お前もアルゴみたいな奴が近くにいたら、冷静さなんてなくなる!!」
ロズの言葉は地雷だったようで、ロバートの怒りが増す。
だが、ロズにとってそれは好都合。
「先輩は知ってると思いますが、私達2年生から導入された授業ってなんだと思います?」
「あぁ!? しらねぇーよ!! 俺はずっと剣を振ってきた!! アルゴに勝てるまで!! 一生なぁ!!」
ロズは攻撃を避け切り、ナイフの先端をロバートに向ける。
「どうしたぁ? 急に黙って、万策尽きたってか?」
ロズが回避をやめても、後ろのフォルトの攻撃がロバートの邪魔をする。
「なんか言ってみろよ!! そんな小声じゃ聞こえねーよ!!」
小石を弾き、吠えるロバートを他所にロズは詠唱を終えていた。
「二番煎じ先輩、冒険者の死亡率で一番多いものってなんですか?」
「あぁ? 知らねーつってんだろ!!」
ロズはニヤリと笑い、最後の術式名を叫ぶ。
「『ロックマグナム』!!」
ナイフの先端から生成される石は迷いなく、ロバートの脳天に一直線で向かう。
「!!? 魔術!?」
ただの矢ではない。
ナイフから放たれた魔術の矢。
避けられない。避けられるはずがない。
近接戦闘を仕掛けてきたことで、彼の思考回路は『剣vs短剣+魔術師』に完全に切り替わっていた。
遠距離の弓による攻撃は「矢は尽きた」というロズの言葉で封印された思い込み。
そして、ロズがナイフを抜いたのは、まさにこの魔術を近距離で放つため。
ロズの言葉は、ロバートの剣士としてのプライドを刺激し、冷静さを奪うための芝居であり、その幼稚な剣捌きこそが、ロバートがロズの警戒を解くための完璧な「罠」だった。
ロバートの頭によぎったのは、今年から2年は必須魔術を習うと耳にした記憶のみ。完全に油断。
今までのセリフと行動全てがこの一撃のための台本である。
眉間へ一直線に向かう魔術の石弾。ロバートは呆然と立ち尽くす。
その時、ロバートの頬を掠めた物体が石弾と正反対に向かう。
キンッ! という音と共に、魔術で放たれた石弾は弾かれ、それと同時に彼の頬を掠った物体も地面へ落ちる。
「──!! 矢?!」
そう声を上げたのはロズだった。
完全に思考から排除されていた、この一撃に賭けていた集中力のせいで、忘れていたこと。
ロズも弓使いだから分かる。狩人は1度目で相手を驚かせて、2度目の矢で仕留めると言うことを……
「フォル──!!」
咄嗟に出た言葉で、後ろにいた魔術師に視線が持ってかれるその刹那、2発目は彼女の眉間に優しく当たる。
「あ…… 私──?!」
審判の合図で、致命ポイントが相手に送られて、強制退場を指示される。
「あぶないじゃん。油断が一番の死因だよ」
「助かった……遅かったなアックス」
「ごめんね、ちょっとクリークの搬送に手間取ってたみたい。相手の剣士の子の靴が取れないとかなんかで」
アックスは親指で後ろを指差し、その方向にはクリークが回復魔術を受けている所だった。
「にしてもすごい子達だね。特に彼女、同じアーチャーだからだろうけど、2発目の狙いは遠距離の魔術師だって瞬時に理解してた」
「でもお前あいつに打ってたじゃねーか」
「うん! だって僕、性格悪いから」
嬉しそうに笑みを浮かべながらそう答える。
「あ、そんなことよりエミリーからの言葉聞く?」
「……聞きたくはないな」
後ろのウォームアップエリアにいるエミリーがものすごい形相でこちらを睨んでいるのが遠くからでも感じる。
「まぁまぁ、まず一個目が油断すんなってことと、もう一つが次は剣士を狙えって」
「? なぜ?」
「ラストローテであの剣士2人と聖職者を一緒にしたくないらしいんだよ。特に聖職者は何しでかすかわからんって」
正面に見える相手のウォームアップエリアでアップをしているオレンジ髪の聖職者、ロバート自身特に気になるところは無い。
「エミリーがそこまで言うってことは相当な奴なんだな」
「そうだね。あの金髪の子も1試合目やばかったし、どっちかというとクリークをやった剣士に来てもらった方がやりやすいな」
◇
「何をあの人達は長話をしてるんですか! さっさと技ありでポイント稼げるんじゃないですか!」
4年のウォームアップエリアではエミリーがカリカリしている。
「……エミリー、相手のチームのラストローテだが──」
「はい、なんでしょうかアルゴ君」
「どの組み合わせが一番強い?」
あからさまに強者感が漂う腕組み仁王立ちのアルゴの質問に、エミリーは正直に答える。
「剣士2と聖職者の組み合わせですよ」
「そうか、なら次は魔術師を倒させろ」
「……え? でも厄介に──あっ! ごめんなさい、私なんかがアルゴ君に否定してしまって」
他のメンバーとはまるで違う、神を扱うようなその対応差にアルゴは少し困った様子で理由を述べる。
「俺は強い奴とやりたいだけだ。エミリーの作戦はすごい。それは知っている、それよりも俺の腕が今震えている、あの剣士とやりたいと」
アルゴの視線はセリーヌにあるようで、エミリーは少しばかり嫉妬心をだす。
「わかりました、アルゴ君のためです。作戦変更しましょう」
◇
「ルト! ごめん!」
「いや、よくやった。相手がもう油断してくれないだけでもこっちには有利になる」
戻ってきたロズが両手を合わせて頭を下げる。
「よし! 次はうちね!」
「お前はラストローテだろ! 焦んなよ!」
ニーナはいつにも増してやる気になってるのは良いことだ。
「なんでラストなの! うちはいつでも行けんだから!!」
「いや、聖職者が中盤で前線いってどうすんだよ! って言うか、次はセリーヌって決めただろ!」
良いことなんだけど、ちょっと面倒くなってるのがデメリット……。
「え!? セリーヌがでるの!? 最後の手段じゃ……」
「そりゃぁ、ガチにはガチだろ? 油断しねぇーんだ相手はもう。なら大将しか居ねーだろ」
ルトと目が合い、頭を下げられる。
「えっ、ちょっ、大将!? 私!?」
「はい、大将いっちょおなしゃす」
「本当に出て良いの!? 私最後って聞いたけど……」
ルトは申し訳なさそうに頭を掻きながら話す。
「だって、相手が本気だし、俺が出たところでラストローテに剣士2人警戒中だもん。出場2秒でボコボコの未来しかないもん」
珍しく駄々をこねてるルトにロズが質問をする。
「え? なんで相手ラストローテ剣士2人警戒してんの?」
「そりゃ1試合目みられてるだろ? まずセリーヌ警戒は当たり前、フォルトと俺どちらかが入るかを考えたら、完全無口の支援or作戦の司令塔。消去法で俺が消される」
確かに。
近中遠で綺麗に分けられるより、近遠+ちょこまか司令塔がいる方が厄介になるのか。
「と、言うわけで助けて下さい。我々を」
「それなら納得。お願いするねセリーヌ」
「うちとしても、ラストローテで暴れたい」
「OK、やってみる」
「やるなら剣士な」
ルトの言葉に頷いて、闘技台に向かう。
◇
闘技台に向かっていると、相手側も2人で話し込んでいた。
「フォルト、黙って見てちゃダメでしょう」
「あ、ご、ごめん。なんか向こうが喋り始めたから分からなくて……」
まぁ、変身中に攻撃する敵は居ないって言うし、作戦会議中に攻撃するのも暗黙ルールか。
「よし! 作戦、剣士を狙う以上!」
「う、うん」
これを倒せばラストローテでアルゴ先輩が出てくるのか。
遠くで見える姿は強者さながらのオーラを見せている。
剣を引き抜き、構える。
ちょうど話が終わったのか、向こうも戦闘体勢に。
「マジかよ……運ねーな俺ら」
「ははは、金髪の方が出てきたよ」
ムムッ。
腫れ物扱いですか?
ひどい人達だ。
「全力で行こうか!」
「あぁ!」
アックスが弓を構えて私を狙う正面で、ロバートは剣を構えて走り出す。
「フォルト! アーチャー無視でいい!!」
「う、うん!」




