66話 天才ほどバカは治らない
人間って生物は一度ついた性格はそうそう消えないらしく、どれだけ意識していても、ふとした時に出てしまうらしい。
怖いね。
豊作戦は順調に進み、5年Bチームと、5年Cチームが勝ち上がった。
シード枠である5年Aチームも、一試合目で勝った4年Cチームに勝ち、準決勝へ上がった。
「ニーナ、お前どこ行ってたんだよ」
「ん? ごめんごめん。ちょっとテレス先生んとこ行ってた」
集合時間になっても戻ってこないニーナを皆んな心配していたが、出場前ギリギリに逃げず戻ってきてくれた。
「あれ? ニーナの錫杖変わった?」
闘技台に整列をする際、ニーナの持っている武器をロズが指さす。
「あ、うん。テレス先生に無理言って借りてる」
前の試合で使っていた錫杖とはまた別の見た目。
どちらかと言うと、メイスに似ていてリーチも杖と違い短い。
「お前まさか、打撃を使うつもりか?」
「え……、あのニーナが?」
「大丈夫? 熱でも出た?」
ニーナらしくないその見た目に、私たちは驚いて心配する。
「何? おかしい? うちもみんなの為に頑張ろうって思ったことが変?」
「……い、いや、変じゃねーよ」
変だよ。
努力という言葉自体が嫌いと言っていたあのニーナが、ここまで変わるのは変だよ。
「ルール上、聖職者は武器の使用ありだからいいんじゃない」
「でしょ。今回の相手はさっきみたいには出来ないし、たまには本気出さないと」
やっぱり変だ。
前みたいに人任せで、面倒臭がりで、やる気のないニーナがいない。
顔つきも少し柔らかくなっている。
「ほら、相手整列終わってるって」
ニーナに催促されて、急いで並ぶ。
あの試合の後、何があったのだろうか。
助言をもらおうと、クエン先生の元に行ったけどいなかったし、関係者席に座っているテレス先生の顔が微笑んでる。
「セリー! 勝つよ」
「う、うん。当たり前」
考えてもしょうがない。
今は目の前のことに集中しないと。
頬を両手で叩き、気合を入れて整列をする。
相手は前回準優勝チームの4年生Aチーム。
ベルセン設立以来の最高傑作と呼ばれるアルゴ先輩がいるチーム。
闘技台の向こう側に、一際大きな生徒が立っている。
「デカすぎんだろ」
ルトがボソッと言葉をこぼす。
確かに身長は飛び抜けて高い。
筋肉もついていて、全体的に大きい。
そしてただならぬオーラを感じる。
「絶対年齢詐称してるよね」
「ハハっ、確かに」
言われても仕方がない。
それぐらいに11歳には見えない。
でも事実、11歳なのだろう。
この学校は年齢詐称は通用できないように書類審査がしっかりしている。
留年制度もない。
審判に挨拶を促されて、礼をし、リーダーが前に出る。
「ファーストローテは?」
「剣士、魔術師」
「剣士、弓使い」
アルゴと、ロズがそれぞれ出場するメンバーを伝え、握手。
「お、お願いします……」
「あぁ、頼む」
気迫に少し恐れながらこちらに戻ってくる。
「無理無理無理。怖すぎる! 手がでかい! 私初っ端いける?!」
「珍しいな、ロズがビビってんの」
「あんたはビビんないの?」
ルトも初っ端出場。
闘技台に残ったニーナがメイスを軽く振りながらそう聞く。
「めちゃくちゃビビってる。ビビりすぎて逆に冷静」
「あーね。バフ重ねとく」
審判が試合開始の笛を鳴らす。
「よっしゃぁ! 来い!!」
「ふー、剣士がアルゴさんじゃないだけマシ!」
それぞれ武器を構えて奮い立たせる。
ニーナがバフの詠唱を始めて違和感を覚える。
前回の試合、ニーナは詠唱をせずバフをかけ、すぐに戻ってきた。
だが、今回は長いし、詠唱を挟んでいる。
「ねぇ、フォルト」
「?」
「ニーナのバフいつも通りじゃない?」
ウォームアップエリアで観戦をしているフォルトは本当だと言って、何かを思い出したかのように解説する。
「あ、バフって確か相手の強さに依存して調整するって、聞いたことあるかも……」
「調整?」
「う、うん。……特にベテランの聖職者とかは無駄に魔力を使わないように、弱い敵にはバフすらしないらしい」
「じゃぁ、今回はより強いバフをかけてるってこと?」
退場1分のギリギリまで、バフをかけるつもりなのか。
「……多分バフ以外もかけてるね。デバフの効果を消すのとか、僕に使ったみたいな……やつ? とか」
「あぁ、そっか。相手の聖職者は他の聖職者とは強さも違うし、もし交代で入ってきたら何されるか分かったもんじゃないもんね」
「うん」
残り10秒。
警告の笛が鳴る。
しかしニーナは無視をして、バフをかけ続ける。
体内時計で残り3秒、ようやくニーナは闘技台を勢いよく降り、走ってこちらに向かう。
「危なかったー、ギリギリセーフ」
なんとかペナルティにはならずに済んだ。
「これで勝てれば良いんだけど……流石エミリー先輩。常人以上のバフの量」
「わかるの?」
「まぁね。最後の方はどっちがバフを重ねられるかの競り合いしてた。2個差で勝ったけど」
私たちの知らないところで、楽しそうな事をしてたのか。
◇
「テレス先生、何が良い事ありました?」
2年生対4年生Aチームの試合が始まる前、テレスがニーナへ指導をしている所を皆んな見ていた。
その後からテレス先生の表情がいつも以上に緩んでいる。
「フフ。分かります?」
アリアの問いに、再び笑って目を細める。
「やっと、何かを掴んだみたいで……やっぱり子供っていいですね」
「成長が早いのは子供ってだけじゃないですよ」
テレスの言葉に先ほどまで席を外していたクエンが付け足す。
「ニーナさんは元々天才です。もっとも天才という肩書きが悪い方向へから回っていただけです」
◇
どれだけの量、バフをかけられた?
余りにも体が軽い。
不安も緊張も全く感じない。
感じるのはこの有り余る自信のみ。
「これならなんでも出来そうだ」
俺は剣を構えて、笑みを溢す。
「すごい自信だ。初戦であれだけ完璧に作戦が成功しちゃえば嫌でも感じちゃうよね」
「……見ててくれたんですか。嬉しいなぁ」
正面にいる魔術師、クリークは試合開始にも関わらず、微動だにしない。
「見てたよ。すごく面白かった。特に魔術師の子がね」
「もしかして戦いたかったですか?」
クリークは待機しているフォルトを横目に首を振る。
「いや、どうせ結果は決まってる。それに君を倒せば出てくるんでしょ?」
「? それはどうでしょう、クリーク先輩は俺に倒されるって事を踏まえてなければワンチャンありますよっ!」
事前情報では、クリーク先輩の特徴は中近戦の切り替えの速さ。
魔術師としての中距離に付属して、武術を齧っているゴリゴリの武闘魔術師。
一歩でも引けば魔術、一歩でも近づけば拳。
出来るだけリーチを切り替えさせない戦い方で、拳が当たらない距離と魔術の詠唱をさせない距離の中間。
俺は剣を持っている。
その分のリーチだけを考えればなんとか戦えるはず……
クリーク先輩の正面に近づくまで、そう思っていた。
魔術師は距離をとりたがる。
その固定概念が俺の頭に存在していた。
「君が近づくなら、僕も近づく。武道の基本だよ」
クリーク先輩は持っていた杖を地面に突き刺して、重心をこちらに持ってくる。
「近っ!」
剣のリーチよりもさらに懐へ。
振りづらく、攻撃しやすいその位置へ。
右拳は顎下へ伸びる。
「ブッ!」
『これは速い!! 剣士のリーチのさらに先! 魔術師ならぬその攻撃!!』
「ありゃ? ギリギリ防がれたか……」
「……っ!」
危ねぇ!
ニーナがバフをかけまくったお陰でなんとか動けた……。
「手ェ痺れる……」
ジンジンと手のひらが鳴く。
自身の右手へ視線を向けている間、たかが一瞬の時間。
「! まずいっ!!」
脳がすぐに切り替わる。
相手は魔術師、目線を戻せば杖を抜き、詠唱を終えたクリーク先輩。
「ウォーターロウ」
初級水魔術が俺の顔面にかかる。
「ぶっ!」
バケツ一杯分の水。
威力なんてものは皆無。
だが、視界を塞ぐには簡単な行動。
すぐに動け!
とにかく距離を──っ!
クリーク先輩は再び距離を詰めて、俺の顔面へ──。
「ストレートだと思った?」
「は?」
片手で拭い、前方を見る。
拳は来ない。
それどころかクリーク先輩は遠くに距離を置いて手を振っている。
「何が……」
「動いてみて?」
クリーク先輩が指先を俺の足に向けて微笑む。
「……!」
目線を指先に合わせて気づく。
「氷……!?」
足と地面にガッチリとくっついた氷。
「動けないでしょ? 君たちは多分僕らの攻撃パターンを炙り出して、そこの金髪剣士に交代するって作戦だよね」
なんとか体を足を動かしてみるが、足周りにもしっかりとくっついていて動かない。
「でもね、僕らも作戦がある。隣にいる剣士、ロバートはうるさくて、アルゴと何かと競い合ってる」
親指でロバート対ロズの試合を見せる。
ロズがギリギリで避け、弓で距離を稼ぐ。
ロバートが矢を振り落とし、距離を詰める。
繰り返されるその攻守。
「今日の試合、決勝含めて3試合。その中で何ポイント取れるかを争ってるらしいんだ」
「……その話になんの意味が?」
「僕はアルゴよりロバートと仲がいいからさ、ポイントを稼いでもらおうかなって」
クリーク先輩はそう言って地面に座り込む。
「……つまり今、あっちの戦いが終わったら今度は俺がやられるってわけか」
「そゆこと。だから黙って見てて」
なるほどな。
本気でやるまでもない。
他のやつに獲物を譲る余裕まで存在するのか。
「きめーな」
「え?」
「聞こえなかったか? きめーって言ってんだ」
わざわざ他のやつにやられるのを待ってる獲物が存在すんのか?
「前回準優勝って聞いて楽しみにしてたのに……ガッカリだわ。仲の良さだけで、味方に優劣をつけて、ダセェ」
「何度でもいいなよ。僕はこれが一番好きな勝ち方だから」
「……どいつもこいつも才能があるやつは──」
ニーナもフォルトもロズもセリーヌもこいつも俺から見れば才能モリモリで羨ましい。
なのにやりたくないと我儘言ったり、自分なんてとネガティブに塞ぎ込んでたり、他のやつに譲るほどの傲慢だったり──。
「面倒くせーなぁ!!」
凍って動かない足へ力を込め、クリーク先輩目掛けて飛び込む。
「才能がない奴はそう思っちゃうよ──!!?」
動けないはずの獲物が一瞬にして距離を詰めてくる。
完全に驕って座っていたクリーク先輩は準備不足で、杖すらも手放している。
「こいつ──靴をっ!!」
「裸足でも戦えるんだぜぇ?!」
咄嗟に杖を構える。
「もう遅ぇ」
「──なっ!」
思いっきし振りかぶった木刀が、クリーク先輩の顔面を砕く。
『入ったぁー!! 靴を脱いで、完全に油断していた魔術師の顔面にクリティカルヒットだぁー!!』
「あが──っ」
攻撃の衝撃によって木刀が砕け、クリーク先輩が地面へ倒れる。
「木刀が折れやすくて良かったな。顔面の変形は防げたぜ」
◇
「やっぱり治ってないなー」
「彼の唯一の弱点ですよね」
クリークが担架で運ばれているのを眺めているファセスはフェンスに肘をつきながら呟く。
「あいつ、せっかく魔術の才能も、武道の才能もあるのに……あそこで油断しなければ勝てるのに、なんでかなぁ」
「前回はファセスさんが殴り飛ばして負けてましたよね」
去年の決勝。
クリークは近接もできる自信からか、余裕ぶっこいていた。
それを見越してファセスはクリークの得意分野の近距離へ自ら近づき、攻撃を待っていた。
「はい。武道を齧ってるのはお前だけじゃないって教えてあげたんですけど……それでも驕るかー」
ファセスも近接を得意としていたため、呆気なくクリークは倒れていたのをアリアも覚えている。
「馬鹿は治んないって昔アリア先生言ってたのを今になって理解しましたよ」
「そんな事教えましたっけ?」
「昔から知り合いの剣士がそれだって」
その言葉を聞いた途端、アリアは思い出す。
「あー、その話は今やめましょう。本人の前なので」
補足、技ありポイントと、戦闘不能は別物らしく、前者は再戦可能で後者は再戦不可能。
戦闘不能と、致命ポイントは同等に再戦不可能だそうです。
クエン先生が言ってました。




