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デスターン  作者: 春川立木
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64話 まずは一勝

東京は人が多すぎて参る。

都会に住んでる人たちはすごいと思う、あの人混みにいるだけで悟り開けるだろ。

『ここで剣士との交代!! 一体どんな作戦なんだ!!』


「お疲れロズ、良かったよ」

「うん。でもやり足りない」


ウォームアップエリアに戻ってきたロズに拳を見せ、グータッチ。


「これ勝てばまた次があるから大丈夫」

「ウチの出番はなくてもよくてよ」

「はいはい」







「しゃぁ!! リズム奪うぜぇ!」


簡単で、単純な作戦。

ロズのフォルトの動きで相手のリズムを強制的に生み出し、俺がそれを壊す。


「まずは魔術師!!」


剣士は先ほどの威圧で怯んでいる、なら迷わずに瞬時のフォルトとのツーアタック!


「フォルトっ!」

「うん!」


フォルトの詠唱。

その間に俺は先程までの戦いで残った土壁を死角に魔術師の後ろへ回り込む。


「アーピアラ!!」


無駄に壁を作り出した訳じゃない。

分断と死角を作る以外の意図もある。


フォルトの生み出した炎は壁にぶつかり、まるで鏡に反射する太陽のように連鎖し続け、俺とフォルト自身に当たらないよう、闘技台全てを包み込む。


「ハッハー! 最高だ!」


初級魔術なだけあって威力はないし、範囲もない。

ただの一直線に飛ぶ火球。

だからそこの連鎖で包む。

そして目眩し程度には使えるし、生物なら炎を嫌うのは必然!


だが、相手も馬鹿じゃない。

咄嗟に自身の周りに土壁を作り出し、回避をする。


「急なリズム変更はきついだろう?」


咄嗟の土壁だ。

たかが一枚程度、それぐらいなら俺の力でもぶっ壊せる!


「こんにちはー!! 木刀のお届けでーす!!」


後ろから回り込んだ俺は壁を破壊し、驚いた様子の魔術師の頭部をぶん殴る。


『これは痛い!! 魔術師、ノックアウトだ!!』


仲間の戦闘不能時、医療班が場外へ運ぶ。

それと同時、または30秒以内に交代しなければペナルティとなる。


また、同時の戦闘不能も同じである。


つまりこれは大チャンス。

2対1を無理やり作り出すことができる。


フォルトの魔術で剣士は怯んでる。


迷いなく速攻で、俺は標的を変える。


「ちょっ! タンマ……!」


辺りに置かれた無造作の壁から急に現れた俺に、驚いた様子の剣士が必死にガード。


「顎がガラ空きだぜぇ!」


木刀の剣先が剣士の下顎を捉える。


「──っ!」


全力の真下からの攻撃、無様にも舌を出していた剣士は自身の歯で噛み、血が飛び出す。


「うぶっ……!」


『おっと!! これは痛い……、2年生チームに技ありポイントだぁ!!』


審判のジェスチャーで実況が叫ぶ。








「…………ルトってあんなに動けたの?」


ウォームアップエリアにて、ニーナが呟く。


「意外でしょ」

「うん……」


私の言葉にニーナは少し驚いたように、ほんの少しの劣等感を感じているように頷いた。


「あそこまで動けるのは私も知らなかったけど……初めて手合わせした時、途中から私の攻撃を見切ってきてたんだ」


カウンターを出すまでの技術はなかったにしろ、剣を持ってほんの数日で、あそこまで動けていたんだ。


きっと、私と同様に幼い頃から剣を持っていたら負けていたのかもしれない。

それぐらいルトには才能があると思う。


その証拠に、今回の作戦のほとんどはルトが決めた。

クエン先生の助言があったにしろ、知らない戦い方を知っている。


「この1ヶ月間、マザード先生と放課後特訓してたみたいだし、何かを掴んでいてもおかしくないよ」


隣にいたロズが初耳情報を付け足す。


「え!? だからマザードさん私との手合わせ断ってたのか……」








間髪は入れない……。

余裕は作らせない……。

この1ヶ月、俺は俺の得意なものが分かってきた。


カウンターを狙う攻めよりも、常に攻め続ける姿勢。


セリーヌに比べて技術はない。

マザード先生とは比べ物にならないほどの知識の無さ。


なら俺には何がある?


フォルトと比べて才能はないし、ニーナのような器用さもロズみたいな判断力もない。


俺にはある。

唯一のものが、相手の嫌いなリズムを生み出す突拍子もない攻撃が。


「ルト……お前は意外性がある。私も驚かされるその動きが」


1ヶ月の最終日。

マザード先生から言われた一言。


予測不能な攻撃。

変則的なリズム。

不変的な動き。


これが俺の武器。


相手の剣士が空を見上げているその刹那──俺は木刀を再び構えて、首をカッ斬る。


「ぶっ飛べぇ場外へ!!」


木刀だから首は切れない。

脊髄は折れるだろうが、治癒で治る。


だから俺は全力で振る。


『場外だぁーー!! 技ありからの場外! さらに1ポイント追加だぁ!!』


実況の言葉で観客が盛り上がる。


『連続での2ポイント合計3ポイント! 3年生チームは後がない。残り2ポイントを防げるか!?』







「マジかよ……あっという間に3点……」

「年下だろ!? 何してんだよ3年は!」

「あの魔術師すごくねぇーか?」

「いやいや、剣士の方がすごいだろ! あいつが3点取ってんだよ!」

「てか、まだ2年は誰もやられてないぞ!」


観客席では例年以上の盛り上がりを見せている。


「こんなこと今まであったか!?」

「いや、ねーよ。去年の3年も強かったけど、少なくとも2点は取られてた」

「あるぞストレート」


『3年生チーム、ここで一気に3人投入だぁ!!』


闘技台には残りの剣士、弓使い、聖職者が入る。


「それは無理だね。ストレートは難しい」

「え?」


観客の1人が言った一言が、周りの観客の目を引く。


「基本、2対2のこの戦い。特別ルールで、聖職者を含む残り3人になると、同時に闘技台に出れる。つまり3対2になる」

「あ、そうか」

「ほとんどのチームはこの最終ラウンドで点数が傾きだす。なんなら2年は弓使いを一度出してるが、向こうは誰も出てない状態だ。何が起こるかわからない」








「来た……ラストローテ」


闘技台に3人、合計5人の出場者がいる。


「フォルト! 準備!」

「うん!」


先ほどの攻撃フェーズは開始時のリズムのおかげで勝てた。

無理やり2対1を作り出して、勝てる確率を上げていただけ。


でも、こうなるとその作戦は無意味で、使えない。


どちらかが2人を相手しなければならなくなり、正直厳しい状況になる。


だからこそのこの壁達だ。


今まで逃げるために使っていた壁。

死角にするための壁。

そして今、この壁はびっくり箱に変わる。


『魔術師が動き出した!!』


フォルトが闘技台いっぱいに走り始める。


観客席から、審判から見ればただ壁の後ろから次の壁の後ろへ走り回る頭のおかしい魔術師に見えるだろう。


だが、相手から見ればどこの壁から現れて、どこの壁に隠れているかが分かりづらい状態になる。


ランダムに現れる魔術師に気を取られるぐらいなら、立ち止まってる俺を狙う方が得策だと勘違いしてくれる。


「キタキタキタ!」


それぞれ相手3人は一斉にこちらに走り出す。


「俺も逃げまーす!!」


フォルトと同様に、壁の後ろへ逃げる。


「逃さねーよ!!」


剣士が俺が隠れた壁に回り込む。


「……ハズレです!」


そこには居るはずの俺ではなく、走り回っていたフォルトだった。


「怯んだ隙をドーン!!」


魔術の攻撃を予測して攻めから守りに変わる剣の動きを察知して、俺が剣士の後ろから攻撃。


「だと思ったよ!!」

「はぁ?!」


その間にいつの間にか入り込んだ聖職者が木刀を弾く。


「弾いた所をお返しのドーン!」


俺のさらに後ろには弓使いが後頭部を狙っている。


「ロックフェンブ!」


フォルトの機転により、壁を作り出し攻撃を防ぐ。


「逃げろ!!」


流石に厳しいか……。

この作戦。


元々この作戦は、最初の強制1対2がダメだった時の対策で出した動き。


相手が3人になるとここまで動きにくいとは。


「フォルト! 作戦変更!! 開けてびっくりマーク2!!」

「了解!!」


再び走り出す2人に、痺れを切らしている3年生はまたも追いかける。


この作戦の面白いところは、目線が違うだけで全く別のものになる所。


観客と審判は俺らよりも高い目線で注視している。

そのお陰で俺らが何処に隠れているかも丸わかりだ。


逆に俺らと同じ目線に立っている人達は壁という死角のせいで、視野が狭くなる。


「居た!! 魔術師!!」


壁からひょっこりと顔を出すフォルトが目に入ると、3人同時に同じ方向へ走り出す。


この豊作戦のルールには欠点がある。


交代の際、審判の目に入るところでハイタッチをしなければいけないと言うこと。

つまり、相手に見られていない所で交代しても、審判にだけ見られていれば大丈夫。


「この壁の後ろ!!」

「同時に攻めろ!!」


剣士が剣を構えて回り込む。


「あ、ミステリーボックスの中身は私でーす」


まるで入れ替わり、魔術師だと思い込んでいる相手にはそう見える。


『いつの間に!! 魔術師が交代して剣士がそこには居る!!』


魔術の警戒、それだけを意識した攻撃だ。

セリーヌは最も容易く回避をし、カウンター。


腹部への打撃に追加で頭への回し蹴りのコンボ。


剣士は魔術で作られた壁に激突。


弓使いの攻撃も簡単に弾く。


「この近距離で?!」


焦った相手は連射の攻撃。


しかしセリーヌは淡々と矢を弾きながら前に出る。


「やばっ!」


そう口にする間もなく、脳天に木刀が振り下ろされる。


「──あがっ!」


弓使いはたまらず気絶、審判の笛が鳴る。


試合終了の合図。


剣士への技ありポイントと、弓使いの戦闘不能合計2ポイント。


あっという間の出来事に、観客席も関係者席も俺らすらも息を呑むだけ。

声が出ない。


セリーヌは強い。

そんなこと俺が一番知っている事。


それでもここまでの強さだったのかと、脳を直接叩きつけられるかのような出来事。


『交代して入ったこの剣士は一体何者!? 気づけば試合が終わっている!!』


実況の言葉でようやく皆が理解する。

それと同時に歓声が上がる。


「勝った……」

「ルト! ナイス判断!」


セリーヌは親指を立てて笑う。


「いや……今までの作戦がいらないような勝ち方で──」

「何言ってんの、ルトの作戦のお陰で私がここまで簡単に動けたんだから」

「……そうか? そうだな、そうだよな。俺の作戦勝ちだな!」


言い聞かせるように、俺が叫ぶ。


「よしゃぁ! 勝ったー!!」


両拳を天に掲げて笑顔でもう一度叫ぶ。


「セリーヌもやれよ」

「え?」

「勝ったら両拳を挙げて元気よく笑顔で叫ぶんだよ」


俺に習って、ぎこちないながらも同じく声を上げる。


「勝ったー」








「何が起きた?!」


ファセスは口を開けたままそう呟いた。


「ふん。当たり前だ」

「まずは一勝。次が本番ですね」


マザードとクエンの言葉に理解が追いつかないファセスが再び聞く。


「いや、なんですか今の!? あの金髪の動き! こちらからは交代のタイミングは分かっていましたけど……それにしても動きがおかしいんじゃないですか!?」

「セリーヌさんですから」

「まぁ、セリーヌだしな」

「はい。セリーヌさんはあれぐらいしますよ」


2人に続いてアリアも同じ回答をする。


「今までの子達は2年生にしては強い子達です。ですが、セリーヌさんは2年生なんて肩書が通用しないほどの努力と技術と才能を持ってます。入学前からマザード先生と鍛錬してきてますし、何よりいつ見ても剣を振ってる」


クエンの言葉にアリアも口を開く。


「天才が努力をすればこうなります。と言うか、今年の2年生は怖いくらいにセンスの塊です」

「……マジかよ」

「まぁ、今回はセリーヌさんよりも、ルト君の功績が大き過ぎますけどね」


間違いなく、この試合でのMVPは誰がどう見ても『セリーヌだ』、と言うだろう。


だが、マザードやアリアにクエンといった豊作戦を知っている者たちは言わずもがなルトと、口を揃えるだろう。


「さて、では少し席をはずします」

「? どこへ?」


クエンが立ち上がり、闘技場の出入り口に向かう。


「んー、探せてない見つからない忘れ物を伝えに……ですかね」

「?」


その場にいたすべての先生方は首を傾げる。


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