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デスターン  作者: 春川立木
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63話 最高のミス

今年の夏も何もなかった。

唯一の夏らしい事は、寝てる時に打ち上げ花火の音で飛び起きたこと。

「あの子達ですか?」


関係者席にて、ファセスが席を立ち闘技台を見る。


「あの緑髪の子が先生の?」

「はい。まぁ、必修の魔術も教えているので全員です」

「えー、羨ましいこと限りないですね」


ファセスは席に戻り、足を組む。


「そんなに魔術好きでした?」

「いえ、1時間も多くアリア先生を見れることに羨ましくなってしまっただけです」


選手はそれぞれのポジションに着き、4名の生徒だけが闘技台に残る。


「あれ? 珍しっ、ファーストローテ魔術師と弓術者なんだ」

「本当ですね」


闘技台にはフォルトとロズが体を慣らしながらスタートの合図を待っている。


「ふふふ。意外でしょう」


後方からの言葉に振り返る。


「基本のファーストローテは剣士と魔術師ですが、そんなのは邪道です。昨日まで何を学んできたかって話ですよ」


メガネを光らせて腕を組んだクエンが、不気味にも微笑んでそう答えた。


「セリーヌの出番はあるんだろうな」


先ほどまで席を外していたマザードがクエンの横に座ってスムージーを飲んでいる。


「どこに行ったと思ったら、買いすぎですよ」


アリアの言葉通り、右手にはドリンク左手にはターキーレッグを頬張っている。

さらには手に持ちきれないほどの料理をベンチの横にこれでもかと置いている。


「試合を見るのにはつまみがいるだろう? 常識だ」

「……つまみの次元を超えていると思うんですが──」


ファセスは少し引き気味な様子で紙袋を見つめている。


「よく分かってますね、流石マザード先生」


隣のクエンもどこから出したのか、大量の菓子を取り出した。


「……一応聞きますが、このイベントで何が異常が発生した時、対応するのは私たちですよ」

「分かっている。でもまずは腹ごしらえだろ? お前も食うか? ヒョロっちい見た目だが、ちゃんと食った方が良いぞ」


マザードは袋から唐揚げを取り出して差し出す。


「……い、いただきます」


困りながらも渋々ファセスは受け取り食べる。


「あら? 美味しそうな匂いですね」


食欲をそそる香りに釣られて聖職者の指導者であるテレスがやってくる。


「もう始まってるじゃないですか。ゲン先生、あなたが道端で寝ているから遅れたじゃありませんか」


その後ろから今にも倒れそうなフラフラと歩く弓術の指導者、ゲンがあくびをし、目を擦って席に着く。


「……すみません──、寝不足で……zzz」

「寝た……」


曲者揃いな二年生の担任達に不安を隠せないファセスがアリアを見つめて口を開く。


「た、大変そうですね。少し同情します」

「……全くです」







ついに始まった。

この1ヶ月、私は何をしてきたか……


審判のホイッスルが鳴り、観客の歓声が再び聞こえる。


相手は剣士と魔術師の編成。

ありきたりだが、完成されている組み合わせ。


それに比べて、こちらはフォルトと私、魔術師と弓術者、異色の組み合わせ。


合図とともにファーストローテのルール、聖職者が両方共にバフをかける。


ここから1分、ニーナは速やかにウォームアップエリアへ戻らなければならない。

だが、それは今関係ない。


バフを受けた相手の剣士がこちらに突っ込む。


ルトの想像通り、私だってそうする。


両方遠距離だが、魔術師は近距離の対応が出来ない訳じゃない。


広範囲から単独まで変幻自在の魔術、詠唱さえどうにかすれば近距離とも戦える。

それなら私の方を先に叩く方が得策。


対処のしょうがない私なんて相手から見ればただの的。


でも、私はこの1ヶ月。

この1ヶ月、弓を射ることをやめ別のことだけをやってきた。


剣士の攻撃、カウンターもブラフもないただの横振りをしゃがんで容易く躱す。


「意外と……?」


上から斜め下への袈裟斬りにも対応し、相手の背中へと回り込む。


「動ける」


振り向き様の再度横振りも反応は遅れず回避出来る。


今日まで避けることに専念し、セリーヌの協力もあって、相手の太刀筋を理解出来るようになった。

と言うか、正直セリーヌよりもキレがないと言うか……リズムが単調と言うか……。


少し焦り気味の剣士が真上からの真っ向斬りで攻撃してくる。


「簡単だね」


その場から後ろへステップを踏み避け、距離を取る。


フォルトの方は大丈夫かな?


チラッと様子を見ると、私同様魔術師からの攻撃をギリギリで避けて逃げ惑っている。


「ハァハァハァ……! あぶっ──! ハァハァ……また!?」


息切れをすでに始めているが、なんとかと言う感じだ。


魔術で壁を作り出して、やりずらい環境を作っている。


一緒にやってきて思っていたけど、フォルトは空間を上手く使うのが上手い。

この調子なら勝手に相手のリズムを崩せる。


「いける」


相手の突進を避けきり出来るだけ体力を使わないようにその場に残る。








「ほう。素晴らしい回避能力だな」

「でしょう? あの2人は目がいいので、向いてると思ったんですよ」


マザードとクエンはそれぞれ口に食べ物を含ませながらモゴモゴと喋る。


「アリア先生……あの子もしかして」

「……はい。ワザと壁を作ってますね」


フォルトの壁は変則的に見えて、確実に味方を狙わせないように常に1対1、死角を作り出している。


「それをロズさんも分かってあまり動かないようにしてます」

「……うわぁ、相手の魔術師やりづらそー。俺だったらブチギレてますよ。てか、あんなこと普通出来ます? 今の俺は出来ますけど……当時だったら間違いなく出来ないですよ」

「フォルトさんは言葉でコミュニケーションを取ることが苦手なんですよ」


出来る出来ないの答えのはずが、苦手なことを伝えるアリアにファセスは困惑する。


「だからこそ、あの子は言葉以外のその全てを使って邪魔をしないように行動できるんです」

「……それだけであそこまで出来ます?」

「普通は無理でしょう。でも、フォルトさんは普通じゃない」


アリアは嬉しそうに微笑んで試合を見つめる。


『これはやりずらい!! 完全の攻防戦だが、一向に攻撃が当たらない!! 体力勝負に持って行く気か?! 二年生!!』


実況をしていた男の興奮がこちらにも伝わる。


「クエン先生。体力勝負の作戦なんですよね?」


アリアは振り返り、質問を投げる。


「はい。もちろんそういう作戦ですが……それだけじゃないです」

「?」

「今、リズムを無理やり作り出してあげてるフェーズです」


その言葉に理解ができなかったファセスが質問。


「リズムってなんです?」

「リズムは単純に攻撃側の速度だ」


この答えにマザードが答え、続ける。


「特に剣士や体術士などの戦闘の中心にいる者が勝手に感じる速度、まぁ、特有の流れなどをリズムと言う」

「通常、魔術師や弓術者、聖職者などのサポートはそれに合わせて支援します。特に攻守戦になると攻める側がそのリズムを作り、守る側は壊そうとします」


付け加えるようにクエンが応える。


「ならもし、どちらも攻めになるとどうなるんですか?」

「あぁ、両者のリズムのぶつけ合いなら確実に安定するパーティに持ってかれる。焦れば焦るほどな」


なるほどとファセスは顎に手を置いて考える。


「じゃぁ、同じリズムでどちらも攻めの場合は?」

「その場合ならリズムを無理やり変える、簡単なのは一歩の踏み込みを半歩に変える動きでリズムは簡単にズレる」


この回答にファセスはひらめく。


「と言うことは、交代で誰かがリズムを変更させる作戦ってことですね!」

「正解です」


クエンが菓子を飲み込み、ジュースを口につける。


「今はバフが効いている。ニーナさんも良い仕事します」

「そうですかねぇ、たかが数%筋力と体力、スピードが上がるだけですけど……」


豊作戦のルール上、試合開始には特別に聖職者も出すことができ、最大3名闘技台に出場できる。


しかし、攻撃は出来ず、味方へのバフのみ使用可能。


「今回の作戦はあの2人の回避。ニーナさんはそのために肉体、体力の底上げとスピードの上昇の三重掛け。あの歳でそれだけ出来れば天才です」

「……まぁ、そうですよね」


テレサはもっと期待していたのだろう。

ニーナは今まで見てきた生徒の中で頭ひとつ飛び抜けた才能を持っている。

期待しない方がおかしい。








だんだんと相手の息切れが速くなる。

相手の攻撃のリズムが上がる。


「だいぶ疲れてきてますね」

「くそっ! 余裕ぶっこきやがって」


苛立ちも増している。

良い頃合いだろうか。


私達のいや、私の役目はこうして相手のリズムを作ってあげること、そして体力を使わせること……。


別に無理をして攻撃することはない。

避け続けてるのが最善の行動。


でも、正直悔しいと思ってしまう。


弓は遠距離が基本。

近距離だと左手で弓を持ち、右手で矢を取って、弓をつがえる。

そして弦を張り、体勢を整えて矢を放つタイミングを見極めながら、相手を狙って矢を放つ。

この動作が隙につながり私はやられる。


今までやってきたことが出来ないこの感情に悔しさが迫る。


この作戦はクエン先生とルトが考えたこと、それに対して文句は一切ない。

むしろ大賛成だ。


私は攻撃をしない。

その代わりにひたすら回避に徹するのみ。


しかしその思考とは反対に私は相手と距離を取り、瞬時に弓をつがえた。


最善は相手の誘導……でも最も最高なのは──


弦を張りながら的を絞り、流れのまま放つ。


殺傷能力を無くすため、布で覆われた矢尻は相手の頬を擦り、摩擦で皮膚が捲れる。


──つまり、余裕を見せつけること。







『おっーと!! ここで攻撃!! しかし外れるが、頬を掠った!!』


「嘘!! 今、わざと外した?!」


席から立ち上がって、ファセスが叫ぶ。


「威嚇ですねぇ」

「度胸があるな」

「こちらにはいつでも攻撃が出来る余裕すらあると、相手に訴えかけて、さらにリズムを加速させる。相手も年下にこんなことされてムカつくに決まってますからね」


クエンは笑ってそう言うが、ファセスは理解ができない。


「弓ってあんなにすぐ放てるものなんですか?!」


今まで見てきた弓術者たちは基本、的を絞るとき数秒の集中力を要するはず。

なのにロズはそれすらなかった。


「ロズくんは弓矢をセットする前から狙ってます。多分距離をとった時……いえ、離れる前から狙いを定めていたんです。弓をつがえるから弦を張るまでにはすでに的を見つけていれば、止まることなく射ることができる」

「起きたんですか」


先ほどまで地面に突っ伏したゲンが起き上がって返答する。


「さらに言えば、あの早撃ちの難しさは精度にあります。それをわざわざギリギリで掠らせる。言わば意図的な最高のミス。あの早撃ち勝負なら私でも負けますね」

「先生すらも……」


ファセスは席につき、目線を戻す。


「そもそも彼女はフレス家の次女です。私が勝てる相手じゃない」

「フレス家……? どっかで聞いたことあるような……」

「勇者パーティの1人ですよ」


ファセスが首を捻っていると、すぐにゲンが思い出させる。


「あぁ! そうだ、親父が前に会ったと言ってた」

「ノアリアに来たんですか?」

「えぇ、俺は会ってないですが」


アリアが目線を試合に向けたまま、口だけを開く。


「そうですか……、勇者パーティーに姉が居たんですね……。ロズさんには申し訳ないです」

「?」








今のは技ありではない。

ただミスだと思われている。

でも良い、私がやりたかったことができた。

それに……きっと少数の経験者は今のミスはわざとだと気づいているだろうし。


「ロズ!!」


後ろからルトの声が聞こえる。

交代の合図だ。


『ここで交代!! 弓術者と剣士入れ替わりだ!!』


交代の際、ウォームアップエリアから闘技台に入ると、攻撃は出来ないが、相手からの攻撃は可能になる。


だからこその先ほどの最高のミスだ。

相手は嫌でも怯む。


その隙に攻撃が出来る権限を、ハイタッチで入れ替える。


「面白くなってきてたのに……もう終わりか」

「あぁ、完璧だった。あとはやれるだけやってやる」

「任せた」


手のひら同士をぶつけて乾いた音が歓声共にこだまする。


「しゃぁ! ぶっ壊す!!」

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