61話 模擬戦
部活をしていたあの頃は運動神経無さすぎて、自分の才能が無さすぎて漫画とアニメばっか見て逃げてました。
努力家は本当に尊敬します。
長かったはずの夏休みももう終盤。
早朝からクエン先生の号令がかかり、学校に赴く。
「おはよー」
「ういー」
教室には私とニーナが先についていたが、後からルトとフォルトがやってくる。
「何の集まりだ?」
「さぁ?」
ルトがあくびをしながらニーナに聞く。
「豊作戦メンバーの顔合わせとかじゃない?」
答えたのはちょうどやってきたロズ。
「あ、ロズも呼ばれたんだ」
「うん。朝練してたらゲン先生に呼び出された」
「…………」
「ニーナ?」
どこか一点を見つめて放心していたニーナに肩を叩いて意識を呼び戻す。
「ん? なに?」
「いや……ボーッとしてたから」
「寝ぼけてんのか?」
寝癖のひどいルトが笑いながら煽る。
「あんたと一緒にしないでよ」
「は? 寝過ぎて脳が動いてない奴とは違ぇーよ! 俺は夜遅かったから寝不足なだけだわ!」
「余計に同類して欲しくない。夜更かししてる奴に」
「……ルトは昨日の夜中まで魔術の復習してたんだよ……僕と一緒に……」
「バカっ! 言うなよ」
フォルト口を押さえ込み、顔を赤く染めて焦っている。
「へー、珍しい。雨でも降るんじゃない?」
「はっ! 今日は快晴だわ」
今はルトと言い合いをしていつも通りだけど、ニーナのさっきの表情……。
ただ単に上の空って訳では無さそうだったけど、どうしたんだろ。
「無理してる?」
ニーナの側に寄り、小声で心配をするが、大丈夫と一言返されて杞憂に終わる。
「おはよございます。すみません待たせてしまって」
クエン先生が遅れて教室に入ってくる。
「今日集まってもらったのは8月に行われる収穫祭、その中のイベントである豊作戦に君たち5名を二年生選抜メンバーとして出場して頂きたく──」
「出まーす!!」
クエン先生の話が終わる前にルトが手を挙げる。
「……僕もでます」
「私も大丈夫です」
続けてフォルト、ロズも手を挙げる。
「私も是非お願いします」
「……ウチも出来るだけ善処はします」
今だに決断出来ていないニーナは下を向いてか細く答える。
「ありがとう。僕も経験が乏しいけど、精一杯頑張るからよろしく」
爽やかスマイルでそれぞれ握手をして回る。
「よろしくセリーヌさん」
「……あ、はい」
前世のせいか、握る手に抵抗がある。
「? 無理に手は握らなくてもいいか」
少し震えている私の右手を見て、何かを察してくれたのか、クエン先生は右手を引き握り拳を見せつける。
グータッチぐらいだったら……。
私も拳を握り合わせる。
「よろしくお願いします」
「さて、今日集まってもらったのには顔合わせだけじゃない。5人で一つのパーティーを作るにあたってそれぞれの特技や苦手なものを教えて欲しいんだ」
挨拶を終え、本題に入る。
「? 特技と苦手?」
「うん。チームワークに必要な要素だから」
「それなら……俺は元気だな」
腕を組み自信満々にルトが答えると横槍が入る。
「それは特技じゃないでしょ」
「まぁ、そうだね」
「どっちかと言うとデメリット」
「ハハ、言えてる」
ロズとニーナが茶化すが、クエン先生はしっかりとメモを取る。
「他にはあるかな?」
「うーん」
答えを出せと言われて気づく。
「そう言えばパーティー組んだ事ないから難しいね」
「ああ、特技も苦手な所もすぐには出ねぇ」
「……僕は喋るのが苦手ぐらいだし」
私たちの様子を見て、クエンは少し考え一つの結論に辿り着く。
「みんなは明日予定ある?」
「? 無いですけど」
「うん。あるとすれば自主練ぐらい?」
「……まぁ、そうだね」
それを聞いてクエン先生が続ける。
「なら明日の昼練習場に来て欲しい」
「いいですけど……なにを?」
「それは明日のお楽しみということで、お開きにしよう」
◇
次の日の昼、言われた通り練習場に着くと先にクエン先生が待っていた。
「皆お疲れ様。時間ぴったしだ」
練習場の外にある時計台を見て笑う。
「あのー、隣の人たちは?」
5人全員が思っていたことをロズが代表して訴える。
クエン先生の隣には3人の屈強な男が並びこちらを見ている。
見た目的に冒険者だろうか?
「あぁ、紹介するよ。僕の知り合いの冒険者。右からアスファー、ローリン、ジョンフ。今日一日だけ、君たちのことを見てくれる」
「よろしくな」
リーダーと思わしきアスファーが片手をあげて挨拶をする。
「よろしくお願いします……」
ロズも釣られて挨拶をする。
「急だけど、この三人と戦って欲しいんだ」
ピクリ。
「本当に急ですね。こどもの私たちが敵う相手では無いと思いますけど……」
「まぁ、そうなるよね……。でも勝って欲しい訳じゃ無いんだ。単に君たちの特徴を知りたくて……」
ピクリ。
「なるほど。分かりました」
「えっ!? やるの?!」
ロズが弓を調整して準備を始めると、ニーナが驚いた様子で慌てている。
「そりゃぁ、せっかくの機会だし、元々練習場集合って言われてたから装備は持ってきてるし」
「はぁー、そうだよね……。セリーは大丈夫なの?」
「…………」
「セリ……いや、何でも無い」
「? セリーヌの様子変じゃね?」
パーティーメンバーが私の顔を見つめ出し、気がつく。
「え?! なに?!」
「いや、すげーニヤニヤしてたから」
「え? うそっ! 恥ずかし……」
自分でも気づかないほどワクワクしてたみたいで、力強く握っていた拳が今更痛む。
「流石戦闘狂セリーちゃん」
「ダサい名前やめて」
「僕の合図で始めるから皆それぞれ位置に着いて」
談笑を止めるため、クエン先生は手を叩いて急かす。
◇
「おはよう」
「おはようございます」
職員室に入るといつものようにアリアが先にいる。
「早いな」
「そうですか? 普通では?」
会話はしてくれるが、仕事をする手は止めない。
昔からアリアは頑張りすぎる傾向があるため、少し不安がある。
何かに没頭すると食事すら忘れるため、よく栄養失調で倒れていたからこそ余計にだ。
「飯は食べてるか?」
「なんですか? 母親ですか?」
「? 母親の話では無い」
なぜここでアリアの母親の話になるのか分からない。
アリアの母親は専業主婦で、昔会ったことがあるが、人当たりが良く優しい方だったな。
「ん? クエン先生は居ないのか?」
「クエン先生なら練習場の鍵を持って出て行きました」
「練習場? 体でも動かしたくなったか?」
クエンは座学専門だからな、座りっぱなしが多い教師という職業ならたまに体を動かすことは大事だ。
いっそのこと私が剣術を教えるのもありだな。
「豊作戦に出るメンバーと練習でもしてるんでしょう。暇なら行くといいですよ」
「……あぁ、なるほど確かにな」
給仕室に向かいお湯を沸かす。
「アリア、何か飲むか?」
「……コーヒーで」
「分かった」
アリアはコーヒーが飲めるようになったんだな。
昔はミルクをたくさん入れても吐いてたのが懐かしい。
「そう言えば昔一緒に出たな豊作戦」
「そうですね。あまりいい記憶では無いのですが」
「そうなのか? 私は楽しかったけどな」
私が先陣を切って特攻、後ろからアリアの支援。
急なスイッチも柔軟に答えてアリアの攻撃。
私たちの鉄板だった戦略の一つ。
「まぁ、優勝は出来なかったがいい思い出だった」
「マザードは決勝で負けたとき私が言ったこと覚えてますか?」
湯が沸きカップに注ぐ。
「? 何か言ってたのか?」
「そうですか。覚えていないのなら大丈夫です」
「気になるだろう。何を話したか教えてくれ」
「特に大事な話ではなかったと思います。証拠にマザードは忘れていますから」
「確かにそうか……」
出来立てのコーヒーをアリアの机に置く。
◇
「準備は出来ました? 剣士のアスファーは木刀、魔術師のローリンは攻撃魔術は初級のみ、ジョンフは打撃無しだから」
それぞれの位置で手を振り合図を出す。
「では、始め!!」
この練習場はフラットでは無い。
大きな岩がちらほら設置されており、死角が多い。
挨拶の時、冒険者3人の武器を見た。
1人が剣士、1人が魔術師、そして最後が聖職者。
前の授業でクエン先生が言っていた。
パーティーで最も効率がいい職業の組み合わせは前衛後衛回復の1:1:1。
回復が1人なら攻撃2人の1:2のテンプレメンバー。
多分前衛が突っ込んで後衛が支援するタイプ。
そして今、合図の際に相手の剣士の位置が見えた。
ズルかもしれないが、見えてしまったのなら仕方ない。
どうせ相手にもバレてるし。
岩場に身を潜めて先ほど手を挙げていた剣士のいる方向を警戒する。
「ニーナ。私は剣士をマークしてるから何処かにいる魔術師を警戒してて」
「……うん。でもどこに居るか分かんない」
同じく私の隣で身を潜めているニーナは辺りを見渡している。
「剣士との距離は遠くはない。目を離せばすぐに近づいて来れる距離だから……多分その後ろ? にいると思う」
「なるほど。じゃあとりあえずバフかけとく」
「?」
ニーナが詠唱を始めるとまるで体が軽くなったような気がする。
「なにこれ?」
「身体能力底上げの魔術」
「そんなのあるんだ」
自身の体を見ても特に変わりはない。
これが支援魔術と言うものなのか。
「セリー! 目離しちゃ──」
「──っ!!」
ほんの一瞬。
目線を自分の体に向けただけ。
目の前に現れたのは剣士ではなく魔術師だった。
「まずい───」
近距離での魔術の詠唱。
何が来る……水、火、風──いや違う、土!!
詠唱文のラスト主体名で理解した。
『ロックマグナム』
初中級魔術の土魔術。
前世で言うのなら拳銃。
小さな岩を高速回転し、押し出す魔術だが、初級だと威力は無く、骨折ぐらいで済む遠距離攻撃魔術。
頭の中で授業で聞いたアリア先生の解説が流れ込んでくる。
杖の先端で回る石。
動け動け動け、反応しろ。
急いで剣の柄を握る。
「──来る」
放たれる魔術を弾き返すため、剣を抜き受け止める。
「あぶっ」
「まじかよ」
魔術師は想定外だったらしく、目を見開いて笑う。
「ニーナ! 後ろもやばいかも!!」
「──っ」
目線を魔術師に向けたまま叫ぶと、それを理解したニーナが真横に走る。
「ルト!! カバー!!」
「! お、おう」
遅れた反応でルトが走る。
「ロズ! 援護!」
「もう見てる」
すでに3本もの矢が私の後ろを通り抜ける。
「嘘でしょ……全部弾く普通っ!」
すでに後ろには剣士が私の首を狙っている。
狙いが分かっているのなら避けるのは容易い。
すぐにしゃがみ込み、魔術師の足を掛け、バランスを崩してその場から離れる。
「フォルト! 壁!!」
その声に呼応して即席の土壁が私と敵の間に生まれる。
「次は俺だ!!」
遅れてやって来たルトが剣を抜いて剣士の後ろを取る。
「ルト! 剣を抜いてから走れ! あと声出すな!!」
バレバレの奇襲に剣士が回し蹴りを繰り出してルトが吹っ飛ぶ。
「ロズ!?」
矢の援護がなくなり、ふと高台を見ると残りの1人、聖職者がロズを拘束していた。
「フォルト! シフト!!」
「え? あ! うん」
ロズの代わりで遠距離を任せ、私はニーナの元へ走る。
「さっきは驚いたけど……次は無い」
再び立ち塞がる魔術師が小岩を5つ展開させている。
まずい……今魔術師が私と一対一ならば、ニーナが剣士にやられる動きだ……。
「フォルト!!」
「植物は枯れ、生物は腐り、元の貌へと変わる。
波及を凌ぎ、堅牢は壊落を散ずる。『ロックフェンブ』
赤く燃える紅蓮、熱く焼ける陽炎。ヴァレイの炎は絶えず燃える。『アーピアラ』!!」
二連続の走りながらの同時詠唱。
ニーナを遮るように壁を作り出し、全体を炎で焼き尽くす。
その壁のおかげでニーナは火傷せず逃げ延びれる。
「うまいな……」
咄嗟に魔術師が水を生み出して火を防ぐ。
「おい! ローリン、俺の分も防げよ!」
「お前は大丈夫だろ?」
チャンス!
2人の痴話喧嘩で意識を悟られないようにその場から一度離れて剣士の裏をつく。
「取れる!」
剣士は先ほどの炎で咳き込んでいる。
狙いやすい背中、気づかれてない。
しかも魔術師が出した水のおかげで、蒸発の際生まれた大量の水蒸気で目眩し状態だ。
「なんちゃって、作戦成功」
「は?!」
まるで私がいるのが分かっていたように振り向いて剣を弾き返され、剣を手放す。
カウンター、弾き返した剣を再び構えて私の懐を狙う。
無理やり体を捻り、身長差を味方に相手の足股を潜り抜け、落ちてくる剣を運良く掴む。
「すばしっこ!」
剣士は振り向き様に剣を振る。
「──?!」
しかしそこには私は居ない。
「何処──」
「ここ!!」
振り抜いた木刀は振る直前よりも握力が弱まっている。
すでに上空へ移動していた私は木刀めがけて剣を振り下げる。
「やべっ──」
「お返し!」
先ほどやられた剣の弾きをお見舞いし、木刀を放させる。
間髪入れず右手に持っていた剣を空高く投げ上げ、宙を舞う木刀を奪い、剣士の横顔をぶっ叩く。
戦闘開始直前にクエン先生と冒険者に許可を取っていて正解だった。
「アスファー!!」
「うわっ痛そー」
◇
「クエン先生たち、一ついいですか?」
「なんでしょう?」
「?」
メンバーがそれぞれどこに隠れるか考えている中、私は冒険者の人とクエン先生に質問をしていた。
「聖職者のえっと……」
「ジョンフです」
「すみません。ジョンフさんは骨折を治す事できますか?」
「? もちろん。腕が無くなったり、神経が切れたり持病でない限り治せはします」
「複雑骨折も?」
「えぇ、大丈夫ですよ。アスファーの顔ぐしゃぐしゃにしても完治できます」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
私はお辞儀をしてニーナの元へ走る。
「おい。俺のことなんだと思ってんだよ」
「へ? なんのことでしょう」
「あの子が優秀なのは聞いたが、俺だって元はここの出身で、準主席卒業だぜ」
「セリーヌさんの師匠は聞きました?」
ジョンフの言葉に両手をあげて首を傾げる。
「アスファーが一度も勝てなかった主席のマザード」
「マジかよ……」
◇
「1人目!!」
木刀が砕け散り、剣士が白目を剥いたまま倒れ込む。
「アスファー……お前、舐めすぎたな」
倒れ込む剣士を横目で見ながら魔術師が目の前にいるニーナの背中を追う。
「逃げてばかりじゃめんどくさいなぁ」
ローリンは杖を持ち替え魔術を唱える。
ロックフェンブは岩の壁を作り出す魔術。
用途は主に広範囲の魔術を防ぐ。
だがそれは一枚目だけの場合のみ。
この魔術は特殊で重ねがけが出来る。
2枚目以降になれば強度も上がり、3枚目になれば鉄すらも超える強度になる。
しかし、ただ防ぐだけに使う術者は三流だ。
応用にも使いやすいこの魔術は敵との分断にも使えるし、強制的に袋の鼠にできる。
「えっ! 壁!?」
走っていたニーナの目の前に壁が生み出されて仕方なく迂回を選ばざるおえない。
しかし迂回先も壁が作られて気づけば閉じ込められてしまう。
「やび……」
「よう。こっからどうする?」
上から飛び降りてきたローリンの問いに戸惑いながらニーナ錫杖を構える。
◇
「1人は倒したけど……ニーナが閉じ込められてフォルトは聖職者と対峙してる」
どっちを優先するべきか……。
一番最悪なのは遠距離がゼロになること……。
迷いなく私はフォルトの元へ走る。
「フォルト! スイッチ!!」
「っ! う、うん」
壁を生み出し続けて攻撃から逃げ続けるフォルトに代わり私が前衛に出る。
「ジョンフさん。打撃攻撃の縛りはキツイですか?」
「んー、そんな事ないよ。聖職者にも攻撃魔術は存在するし、そもそも遠距離派だからね」
そう言って放ってくる魔術は光の矢。
3本一気にこちらに向かって飛んでくる。
「光星の如く、焦燥の撃を『雷光槍』」
短文の詠唱の雷光槍。
聖なる光はアンデット特攻だが、その他生物にも殺傷能力はある。
「唯一のデメリットは急なカーブが出来ず、狙いがバレやすい!」
ジョンフに突っ込みながら3本の槍を順番に弾き飛ばしフォルトに合図を送る。
「援護!!」
「! う、うん!」
少し遅れ気味だが、的確な位置の壁をジョンフの後ろに作り出し、逃げ道を塞ぐ。
完全に捉えた距離と位置どり。
持ってる剣で首を切断する勢いで、横に振るう。
「──っ! 殺す気!?」
切断された腕や足は元に戻せないと初めに教わった。
首なんてもっての外。
だからこの動きはブラフ。
持っていた剣を首ギリギリ届かない範囲にて、手放し右拳を構える。
予測通りジョンフの目線は剣に持って行かれている。
チャンス!! 決まる!!
「……チャンスとでも思っていそうな顔だね」
「!!」
鳩尾に拳がぶつかる瞬間に見えたジョンフの顔は不安がよぎる程に笑っていた。
拳に当たった感触は肉体とは別の硬い鉄板。
骨を伝って全身にその痛みが伝わる。
「──っい」
「聖職者が魔術を使ってはいけないルールなんて存在しないんだ」
目の前に現れた魔術の壁。
三層にも重なったその土壁はすでに岩すらも超えた強度に変わっている。
「さぁ、これはどう塞ぐ?」
その言葉の後、壁を解除して現れたのはメイス型の杖を構えるジョンフ。
痛みで怯んだ一瞬の隙、その杖の先端から放たれる赤白い光。
「眩っ!」
攻撃魔術だと騙されて手放した武器をすぐさま掴み構える。
「ただの目眩しだけどね!」
目を瞑るのが遅れた。
真っ白な視界で前が見えない。
今私は何処に立って、誰を見ている……。
「無闇に剣を振らない所は評価するよ。でももう遅い」
声の方向へ剣を振るが、何かに当たり弾かれ、手から外れる。
「こ、降参」
悔しいながらも両手をあげて白旗を振る。
「そっちの魔術師はどうする?」
「あ、えっと……」
「向こうのお仲間も終わったみたいだし、君1人だけだよ」
「……負けました」
フォルトは杖を地面に置き、両手を上げて宣言。
遠くのニーナは魔術で作られた土の山に埋まって身動きが出来ずに敗北していた。
◇
「お疲れ様です。どうでしたか?」
ジョンフさんがそれぞれに回復魔術を施している中、ニーナの元に集まった私たちはクエン先生とフィードバックを受けていた。
「むずい。一対一ならなんとか出来てたけど……他の人たちを考えながら動く時点で頭が混乱します」
「遠距離で攻撃しても弾かれて、気づけば捕まった」
「俺なんか何も出来ず吹っ飛んだからな」
「ぼ、僕も反応遅れてた」
「…………」
それぞれ反省点を挙げる中、ニーナだけが黙って私たちを見ている。
「まず、みんなに点数を上げるならゼロ点だね」
「ぜ、ゼロ……」
「セリーヌさんは動きは良かった。でもそれは個人の話。そもそもなぜスタート地点でみんなバラバラに位置についてた? チーム戦なら前衛後衛を決めるべきだったよね」
初めの方私はニーナとに2人だった。
確かに今思えばなぜ2人だけだったのだろうか?
初めからルトとフォルトは集めてていい。
ロズは弓専門だから仕方ないにしろカバー出来る位置に居なくちゃいけなかった。
「そしてルトくん。声でバレてたね」
「……はい。しかもセリーヌのツッコミで剣を抜いてた。それにカウンター警戒ぜず攻撃しようとした」
あの時は驚いた。
ただ両手を全力で振ってルトが猛ダッシュしてきたあの瞬間。
頭突きでもするのかとヒヤヒヤした。
「で、ロズさんは周りを警戒してなかったね。相手は3人って分かってたよね?」
「すみませんでした。確かにあの時、2人は視界に収まってたんですけど……自分の援護が無能すぎて、何とかして当てないとって頭の中それでいっぱいでした」
クエンはうんうんと頷いてフォルトを見る。
「フォルト君は指示に対して動揺しすぎです」
「……は、はい。そのせいで相手の方が先に対応してやりづらかったです」
思い返してみればルトの攻撃も援護も相手が驚いている様子は無かった……。
でも私からすれば意外と良かったと思うけど……。
「で、最後にニーナさん。何か言うことは?」
「……ここから出たい」
まるでディグダのように顔だけ出したニーナが不満そうに声を上げる。
「ニーナさん。最後戦いませんでしたよね?」
「は? ニーナお前誰よりも先に降参したのか?」
クエンの言葉にルトが驚く。
「うるさい。聖職者が魔術師に勝てるビジョンが見える!? あんたなんて降参する前にやられてたじゃん」
「俺は負けを認めてねーからお前よりかは遥かにマシだろ」
「ニーナ……。私が前衛としての役目を果たせなかったから」
前衛は後衛を守らなくてはいけない。
そして後衛は前衛が戦いやすいように援護をする。
それがパーティとしての基本。
その基本を私が初めから知っていれば分断されることもなかった。
「やめてセリー。謝られるとうちが困る」
「ニーナ……でも、すぐに諦めたんだよね」
「……いや、待ってよ。よく考えて、相手バリバリの攻撃派でしょ!?」
両手を出せない代わりに首を回して抵抗をする。
「壁に囲われて、魔術師が入ってきて、攻撃出来ないにしろ抵抗はできたのよね……」
「う……」
「あぁ、この子あれだぜ俺と2人っきりになった途端武器構えたと思ったら、すぐに地面に置いて泣いて懇願してきたぞ。痛いの無理だから負けでいいですって」
魔術師のローリンがニーナを指差して全てを話す。
「あ! ちょっと!! チクるな!!」
「はぁ、ニーナなら少しの間耐えてくれるって信じてフォルトの方に行ったのに」
「お前最低だな……流石に引くわ」
「うん。今回ばかりはニーナが悪い」
「分かってるし! うちが一番なんもしてない事ぐらい!!」
ローリンがニーナを埋めている土に手を置き、形を変形させて解放させる。
「セリーヌ。この後時間ある?」
「? あるけど」
珍しくロズが誘ってくれる。
遊びの予定なのだろうか?
「私、弓しか脳がないから……教えて欲しいことがあって」
「……? 私でいいなら全然」
「あ、俺も俺も!」
「ぼ、僕も少しみんなの得意な技確認しときたい……かも」
「ニーナは?」
泥を叩き落としているニーナに声をかける。
「あー、泥がすごいから風呂入りたいかも……」
「そっか、じゃぁまた」
「うん」
そう言ってその場から先に立ち去るニーナの横顔は泥まみれで分かりずらいが少し曇って見えた。
「ニーナ!」
「?」
「明日もよろしく!!」
一度振り向いたが、すぐに踵を返し、手を振りながら練習場を出る。




