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デスターン  作者: 春川立木
60/72

56話 試験結果

レシピを見ずにパンを作って6回目、我慢の限界でカンニングをしたらそもそも強力粉を使うらしい。

ずっと薄力粉で作ってた。

「えー、ようやく雪解けになり、暖かい季節になりましたけど……試験があります。頑張ってね」

「学校長ありがとうございました」


月一の全体朝礼、いつも通り軽く、早い校長の話が終わり、生徒はそれぞれ教室に向かう。


「うえー、試験やだー」

「意外だね、ニーナ」


一限の魔術授業のため、教室に戻っていると、隣に居たニーナがため息を吐く。


「なんで?」

「ニーナは意外と優秀だし、地頭? 良いんじゃないの?」

「意外って……傷つくわー。うちこう見えてめちゃくちゃ努力してるの」


腕を組んで自信満々に答えるが、私がみている限り予習や、復習等の自習をしているのを見たことない。


「まぁ、セリー基準で見られるとやってないみたいに見られるけどね」

「私は別に普通だと思うけど……」

「セリー。自覚がない努力家は嫌われるよ」

「えぇ……」







リューベルセントラル養成学校に入学して、もうすぐ半年。

思っている以上に早くて焦る自分がいる。


朝早く起きて素振りをして、授業はしっかり聞く。

剣術専攻では私だけ早くマザードさんと打ち合いをさせてもらって、昼休みも軽く素振りをする。

午後の授業もノートが2ページ埋まるぐらいに内容を理解している。

放課後から夜ご飯までの間、アリア先生とフォルトと合同で魔術の実技。

夜ご飯を食べて入浴時間ギリギリまで素振りをして、寝る前に今日の復習に明日の予習。


これを5ヶ月やっても自分が強くなっている自信がつかない。

今だにマザードさんに一本取れていないのと、フォルトの方が魔術の威力が強いせいもあるかもしれない。


でも、そんなことは言い訳だ。

私は世界を救わなくちゃいけない勇者。

誰よりも努力しないといけない運命で、強くなれていないのは、努力が足りないから。


「今日はテストです。5ヶ月間、皆さんがどれだけ魔力のコントロールが上がっているか見させて頂きます」


一限の授業。

アリアは教卓の前で試験の準備を始める。


「テストの内容は前に言った通り、このコップギリギリまで初級の水魔術を使って注いでもらいます。それとは別に先に筆記の試験も行います」

「やば……結局昨日寝ちゃって勉強出来てない……」


隣に座るニーナは頭を抱えて、自身の行動を後悔している。


「ダハハっ、お前勉強してねーの?」


後ろにいるルトが煽りのようにニーナに突っかかる。


「あんたは自信あんの?」

「ハッ、バカ言うな。俺はもう覚悟したんだよ」


ルトは腰に手を当てて胸を張る。


クエン先生の授業ではよく挙手をして、積極的かつ高確率で正解を叩き出していた。

もしかして案外勉強熱心なのだろうか。


「良かったね。うちより自信があって」

「あぁ、追試を俺は受ける覚悟がある」


前言撤回。

こいつはバカ寄りだった。


「もう、神だよりだ」


ルトは手を組んで祈る。


「こ、神々しい……」


ルトの隣にいるフォルトが眩しさに目を薄めて驚いている。


5ヶ月も経てばいろんな人と仲良くなれる。


私はニーナとよく一緒に居るし、フォルトとも魔術を通して仲良くなった。

ルトとフォルトもなんやかんや一年の頃から仲が良いらしく、ニーナとも連んでいる為良く話すようになった。


「あんたたち、ほんと馬鹿ね」


通路を挟んだルトの席の隣、最近仲良くなった弓専攻のロズ。

ニーナより真面目でルトよりまとも、フォルトと比べるまでもなく積極的で決断も早い。

同い年だけれども頼れるお姉さんみたいな人だ。


「ろ、ロズは自信あるの……?」

「そりゃぁ、今までずっと先生達が試験範囲も日付も教えてくれてたし、当たり前じゃん」

「う……」

「やめろ。今、そんな正論パンチを聞きたくない」


聞かなかったとしても結果は変わらないのに。


「魔術は捨てだ。俺は剣術と魔物雑学で巻き返す」

「セリー、ルトって剣術できんの?」

「出来てると思うよ。昨日やっと素振り合格してたし」

「セリーは?」

「私はまぁ、2日目で」

「うぐっ」


ルトは刺されたかの様に机に突っ伏す。


「ご、ごめん。悪気は無かった」

「セリーは意識のない嫌味が得意だからたちが悪い」


えぇ……。


「問題用紙は全員行き届きましたか?」

「「はい」」

「時間は30分です。それでは始め!」







「終了です。ペンを置いてください」

「終わったー」

「むずくね」

「意外と出来た」


それぞれの出来栄えで後悔する者、満足する者がペンを置いて背伸びをする。


わたしは意外と解けた気がする。

他のみんなはどうだろう。


「案外簡単じゃんか」


ニーナも追試は逃れられた様子で、胸を撫で下ろしている。


「ペンを置いてください!」


アリア先生が1人の生徒に叫ぶ。


「ペンを置いてと言っていますよね! ルトさん!!」

「うぐっ……、クソっ。まだ埋まってねーのに」


怒られたルトはペンを置き、机を叩き嘆く。


「終わった……。俺の夏休み……終了……」


力尽きたルトは頭から音がするほどの勢いで突っ伏す。


「は、ハハハ。まぁ、仕方ない……よ」

「お前は出来たのかよ」

「う、うん。一応全部分かった……かな」

「天才め」


心なしか涙目を浮かべて見える顔をしたルトが歯を食いしばる。


そこまで悔しいなら勉強すれば良いのに。


「では後ろから集めてきてください。戻る際にここのコップを人数分持って行ってください」


休憩なしで、すぐに実技の試験。

ルトからコップを受け取り、杖を用意する。


「では、前の席から1人づつ行いますので、お静かに待っていてください」








「今日は試験らしいな」


魔術の試験が終わり、専攻授業の剣術の先生であるマザードが腕を組んで練習場の中央に立っていた。


「この前の授業で、ランニングが合格していない者は挙手しろ」

「……は、はい」


全体の半分の生徒が恐る恐る手を挙げる。


「そうか……では走れ」

「は、はい」


怯えながら生徒がランニングに向かう中、残された生徒をマザードは睨む。


「お前らは合格者ではある。が、素振りの合格者は?」

「はい」


私とルトが手を挙げる。


「そうか、他の者は素振りをしろ」

「は、はい」

「残りのセリーヌと、お前は打ち合いだ」

「ルトです」


今日はマザードさんとじゃないんだ……。


「そうか、ではセリーヌとミトで打ち合いだ」

「…………」

「はい」







「よろしく」

「負けねーからな」


マザードさん相手の時は真剣だったが、マザードさんが木刀でやるように言われたけど……、初めて持つんだよね。


「いやー、剣術は筆記がねーから助かったわ」

「他の専攻授業はあるんだもんね」


ニーナたちが言っていたことを思い出す。


昔から剣術だけは筆記が無い代わりに一生走り回されて脳筋馬鹿製造機と言われているらしい。

昔は魔術授業が必修じゃなかったし。


「てか、俺まだ名前覚えられてねーのな」

「確かにね」

「二文字だぜ? 俺の名前。しかも俺から言ったのに、間違えられるってどんだけ硬いんだよ」

「それ、マザード先生に伝えとくね」

「まずい……やめて」








「負けたー! 2時間やって1発も良い当たりがなかったー!」

「ルトは突っ込みすぎだからね」


初めての木刀で感覚が違ったが、ルトがただの体力馬鹿で良かった。


力オンリーで振り込むから簡単に体勢を崩せる。


「ルトって剣術習って無いんだよね」

「ん? まぁ、周りにいなかったらからな」


それにしては意外と筋は良かった気がする。

私のカウンター、最後の方だけ対応されそうになった。


「明日は負けねー。帰ったら素振りだー!!」

「私も負けないから」

「いや、お前には負けてんだよ」







「さて、今日は試験の日だけど皆出来栄えはある?」


最後の授業、座学のクエン先生が爽やかな笑みで問いかける。


「ハハ、皆んなの顔を見る限り厳しそうだね」


クエン先生の言葉通り、クラスの大半が神妙な面持ちで最後の試練を待ち望む。


「ははー! 来た! 俺の時代がー!!」


唯一元気なルトがペンを天に掲げて鼻息を荒く待っている。


「うるさいルト。あんたのせいで頭の中に詰め込んだものが消える」

「はぁ!? 自信がねーのを俺のせいにすんじゃねーよ」


元気だねー。

私はこの試験が一番自信ない。

それに比べてルトの自信たっぷりな様子を見ると確かにムカつくね。


「セリーも言って良いから、黙れって」

「え? あ、うん」

「うん?!」


想定外だったようで、ルトが少し口籠る。


「今回の内容は魔物・魔獣の形態生態と、冒険者の法律だね。さぁ、皆これで最後だ。頑張ろう」


クエン先生の試験は一番範囲が多い。

5ヶ月間の授業の内容はわかりやすく面白い。

だからこそ、どんどんと進むし、だんだんと難しくなる。


応用より、暗記メインと言えば良いだろうか。


さらに言えば法律問題。

これが一番厄介な内容。


法律と禁忌の違いに罰金金額、免許剥奪の内容が多すぎる。


でも、何故だろう。

意外と解ける。

すらすらと筆が進む。


音を聞く限り他の生徒も同様のようだ。


流石はクエン先生と言ったところだろう。






「ペンを置いて後ろから集めてきてくださーい」


クエン先生の合図で試験終了の鐘が鳴る。


「終わったーーー!!」

「最後の問題分かった?」

「最後習ってないよな」


試験が終わったその瞬間、生徒たちは解放されたと同時に、問題の内容を口に出すこの空気感。


勉強しようがしまいが、この瞬間だけは嫌いになれない。


「セリー、最後分かった?」

「全くわかんない」

「だよねー」


ラストの問題、授業で習っていない問題。

魔物と魔獣の違いを答える問題だ。


「分かんねーの?」


後ろからルトが意外そうに私たちを見る。


「分かんの? あんたは」

「そりゃぁ、魔獣は獣で、魔物は人に近い化け物だろ?」

「は?」


それを聞いてもなお、ニーナはわからないようで、聞き返す。


「いや、獣と化け物の違いだって」


私もその違いについて説明されてもわかる自信がない。


「簡単に言えば、食べれるか、食べたくないな? みたいな」

「?」


余計に分からなくなってきた。


「あー、多分分かった」

「え? ニーナ分かったの?」

「多分ね。多分。餓死寸前で、狼が目の前にいる場合、セリーは食べる?」


え……、食べたくはないけど……。

でも、餓死寸前で、食べ物が近くにないなら──


「我慢して食べる?」

「なら、狼がゴブリンだったら?」

「うえ……」


人型の魔物はちょっと、我慢しても無理かも……。


「いやでしょ? それが魔物って話でしょ?」

「そう。正解」


ルトが親指を立てる。


「狼もベアーも、ダンパも食べようと思えば食べれる。俺らがいつも食べている動物に近いから。でも、ゴブリンもドライアドも食べられない。ゴーストなんてもってのほか」

「なるほど……」


ルトって実は天才の部類に入るのではないだろうか。


「ま、今知った所で最後の問題は間違いだけどなっ」

「腹立つ……」






一週間後、試験結果が張り出される日。


いつもより沢山の人が下駄箱に溢れかえる。


「うわー、惜しかったー」

「え、私前回よりも上がってる!」

「よし、お前に勝った。売店の限定パンな」

「クソ、3点差かよ。俺の小遣いが……」


盛り上がる中、私の隣にいる1人の男子生徒が膝をついて絶望していた。


「終わった……俺の夏休み……」

「ま、まぁ、魔術だけだから……すぐ終わるよ……」

「フォルトが言っても慰めにならないって」


二年生のテスト順位、魔術の一位に書かれた名はフォルトと大きく書かれている。


「クッソ! ニーナお前、勉強してねーって言ってただろ!!」

「言ったけど、赤点取るとは言ってないし」

「クソっー!!」


ルトが何度も地面を叩く。


「でも、あんた座学は3位じゃん」

「そうだよ! あんだけ啖呵切っといて! 一位じゃなくて3位だよ!」

「ハハハ」

「セリーヌ!! お前だよ! 一番分かんねーのわ!! お前がなんで、なんで、剣術と座学一位なんだよ!!」


笑っていると、ヘイトがこちらを向く。


「そりゃ、あんたより努力してるだけの話じゃん」

「うるせーよ。俺だって頑張ってたんだよ。ニーナよりは」

「ドンマイ3位と、追試」

「だぁーーー!!」


確かにニーナが自分から勉強している所を見た事ない。

なのに魔術は3位、座学は4位、神聖授業は一位だ。


「さ、夏休みの予定でも組もうかな。ね、みんな……あ、ルトは追試で予定開かないか……」


ニーナの追い打ちがルトの胸にグサリと刺さる。


「あ、死んだ……」


地面に倒れ込み、ピクリとも動かない。


「何やってんのあんた達」

「あ、ロズ。結果みた?」

「見た。まあまあだった」


ロズねぇさんは魔術2位、弓専攻は一位、座学は2位の文句なしの成績なのに、まあまあで済ませるほどの冷静さ。


「まあまあだぁ? 高得点取ってんのに、こんなもんだ? 煽ってんのか!!」

「あ、起きた」


飛び跳ねながらルトが叫ぶ。


「うるさいわよ。 授業さてしっかり聞いとけば分かるでしょ」

「カーッ、これだから天才達は! ペッ!」

「汚なっ」






試験が終わればもう夏休み。

こっちの夏は涼しくて気持ちいい。


「今日から夏休みじゃん……起きるの早すぎて……」

「ごめん、起こした?」


朝の身支度をしているとニーナが目を覚まして起き上がる。


「休まんの?」

「うん。なんか動いてないと不安だから」

「へー。おやすみ」


ニーナは再び横になり、二度寝を始める。


「よし、マザードさんいるかな」




夏休み前、剣術の追試を受ける人たちから聞いた話。


「セリーヌ! 頼む。俺らが走ってる間マザード先生と相手していて欲しい!」

「え? その予定だけど……なんで?」


追試組の人たちが私の席に来て両手を合わせて頼み込んできた。


「ほら、俺ら走り込みの追試だろ? サボってたら殺されるじゃん」

「そうそう、授業中はセリーヌがマザード先生と一対一してたからちょっとサボっててもバレなかったけど……」

「……セリーヌが居なかったら俺らどうやってサボれば……」


いや、サボらなければ良い話でしょ。


「頼む。追試中だけで良いんだよ!」

「う、うん。分かったけど……元からその予定──」

「マジで?! 助かるわ!!」

「え……いや、だからその予定だったって──」

「流石は首席! よっ! セリーヌさん!!」




あの時のあの喜び様、どれだけ切羽詰まってたんだろう。

別にはなからそのつもりだったし、私は良いけど……追試組の人たちはそれでいいのかな。


「声が小さい!!」

「おっす!!」


訓練場に入ると熱気が私を襲う。


「お前らは他の奴らより劣ってんだ!! ここで巻き返せ!!」

「おっす!!」


部活かな……?


「おはようございます」

「お、セリーヌか、どうした今日から夏休みだろ?」

「はい。でも追試組も頑張ってるんで、私も何かしてないと……」


汗を拭って息を切らしながらも必死に走っている生徒を見る。


「あいつらはお前より努力を知らん。だからこうして機会を与えてるだけだ」

「でも、朝早すぎません?」

「夏休みだからな。早朝の方が涼しいし、早く終わればあいつらも息抜きできる時間ができるだろう?」


腕を組んだままマザードは生徒達を睨む。


「おい! スピードが落ちてるぞ!!」

「おっす!!」


マザードさんって、飴と鞭を知らないって思ってた……。

意外としっかり皆んなのことを考えているんだな……。

でも、その飴が本人達に伝わってないけど。


「で、セリーヌも走るか?」

「マザードさんと打ち合いをしに来たんですけど……」

「そうか。朝ごはんは食べたか?」

「はい」


そう言うと、マザードは腰に巻いた剣を抜き取る。


「……え」


今まで鞘がついた状態での打ち合いだった為、初めて真剣を持ったマザードさんに驚く。


「たまにはな」

「は、はい!」








「はぁ、はぁ、はぁ」

「どうした? ビビってるのか?」


初めての真剣で私の動きはいつもより硬直気味になっている。


「い、いえ。もう一本お願いします」


──ビビってるのか


そんな事は知っている。

何度も何度も鞘付きの剣でボコボコに叩かれた。


そして今、日光の反射で光る鋭く尖った剣先。

今まで通りとは行かない怯え。


足がすくむ。

別にここでマザードさんに殺されるとは思わない。

この人は寸止めで止めてくれると、信じてしまっているから。


だからこそビビってる。

切られないと分かってるから怯えている。

私が予想不可能な動きをして、誤って切られるという未来に。


「セリーヌ。お前は筋がいい。大丈夫だ、言っただろう? 直感に従えと」


剣聖とは人ではなく剣に宿る。


前の素振りの時、マザードさんが言っていた剣聖の域。

気になって図書室で調べていると見つけた一文。


物を大事にしていると魂が宿ると前世で聞いたものと同じ様に、正しい振りを剣が認識すると、剣が使用者を選び、共鳴する。


どう振って欲しいか、どう握って欲しいか、どう扱って欲しいか、それを決めるのは人間じゃなくて剣であると。


「来い!」


私の合図と共にマザードが踏み込む。


反対側の腰に剣を構えてこちらに来る。

横の大振りか、はたまた私の攻撃読みでのカウンターか。


きた──!


マザードさんが選んだ答えは踏み込みからの裏切りのサイドステップ。


「え……?!」


目の前から急に消えたマザードに驚き、咄嗟に距離を取る為その場から飛び後ろに下がる。


「あれ!? いない……!」


その場にマザードは居ない。

咄嗟に後ろへ逃げたはずなのに、そこには誰も居ない。


「まさか──っ」


束の間の時間。

焦りと驚きに翻弄され、私の判断力は鈍るその瞬間、私のさらに真後ろから風を切る一太刀が迫る。


──斬られるっ。


そう頭で分かってはいる。

脳がそう理解しても、脊椎から体へ流れる信号は間に合わない。


『ピクっ』


あ……来た──。


剣聖は剣に宿る。


どう動くか、どう凌ぐかその全ては今まで振るってきた剣が教えてくれる。


ほんの一瞬、私の剣が右に揺れる。


直感と、共鳴。


私は気づけばその剣の教え通り、足を踏み込み勢いよく真後ろへ右回転で振り回す。


「ふんっ──!!」

「なっ……」


マザードは予想して居なかったのだろうか、驚きで目を見開き、口を開いている。


ほんの一瞬だ。

瞬きをする様な刹那の景色。

それなのに何故かよく見える。


マザードさんの表情に、剣の筋。

滴る汗となびく髪。


音は無音で、匂いもしない。

しかし目で見た情報全てではない。


握った剣がまるで言ってくる。

『それでいい。それが正解だ』と。


ゆっくりと、ただゆっくりと、剣先がマザードさんの首へ向かうだけ。


驚いていたマザードさんの顔がだんだんと焦りへ変わる。


その表情を見て、私も理解する。


あ、このままだと、マザードさんが避けきれず、剣で弾ききれず、殺してしまう。


「まずい……!」


頭で分かって居ても、体が間に合わない。

それに勝手に剣が走る。


だめ……止まらない──


視界の端の端、緑色に輝く石が飛んでいる。


前にニーナから貰った石。

どんな効果だったのかは覚えて居ないが、お守りとして常にポッケに入れて居た石。


その石は剣がマザードさんの首へ向かうと同時に私の剣へと飛んでゆく。


緑の石に気を取られ、私とマザードさんの視線がそちらに向く。


左から向かう剣筋に対して、右から飛んでくる石。


まるでマザードさんを守る様に、剣の軌道を変えるべく、突っ込んでくる様に、その石は向かう。


思い出した。

あの石、前に貰ったときにニーナが言っていた。


「奇跡が宿る……聖星石っ」


聖星石はマザードさんの首に刺さる寸前の剣にぶつかり、砕け散る。


「──っ!!」


剣よりも脆いはずのその石は砕けると同時に、私の剣身を根本からポッキリと折ったのだ。


「はぁ、はぁ、はぁ、剣が……。でも、よかった……」


ニーナから貰ってなかったら、今頃殺してた……。


「私も鈍った様だな」


マザードは剣を戻してこちらを見る。


「セリーヌ。よくやった。合格だ」

「へ?」

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