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デスターン  作者: 春川立木
57/72

53話 シギョウ

ちょっとバッティングしただけで、筋肉痛。

もう、無理だ。

動けやしない。

馬車に揺られて俺たちはエスタ城に向かう。


「会うとしても顔を見せてくれないならどうしようもないね」

「まぁ、確かにな」


窓から見える景色、人がこちらを物珍しそうに覗いてくる。


「そんなに珍しいかね、この馬車」

「お父様の馬車は自慢なの」


鼻を鳴らし、腕を組むミルナは先ほどまでの赤面はいつの間にか引いている。


「エルは作戦あるんでしょ?」

「は? ないが」


そう言うと、クルトが眉をひそめて訴えてくる。


「いや、エルが今日行こうって言ったじゃん」

「そりゃ、悩んだら動けばいい。それにクルトだって会いたいって熱弁してたじゃねーか」


クルトはため息をついて、俺を哀れそうに見つめる。


「なんだよ」

「いや、昔仲良かった友達に似てるなって」


俺からすると、クルトも前世で親友だったやつに似てるけどな……。


「ん?」

「どうかしたの」

「いや、ちょっと思い出したことがあっただけだ」


エスタでの事件。

魔族のフィーナから受けた魔法で前世の世界? みたいな所にクルトがいたことを思い出す。


「まさかな」










「着いたー!」


馬車でおよそ20分。

5ヶ月前に見た景色と変わらず、でかい玄関がもてなしてくる。


「こっちなの」


ガイドミルナについて行きながら周りを見渡す。


「いつ見てもえぐい作りだよな」

「もう見飽きたけどね」


なんと贅沢なやつなんだ。

ここ最近書庫を頻繁に出入りしてたクルトは常連のため、この凄さに慣れてしまっている。


「そういやメルさんのところには行ってんのか?」

「んー、ぼちぼち? 来月からメルさんアズレットに行くって言ってたし、忙しいんじゃない?」


階段を登り、3階に向かう。


「なんでまたアズレットなんか遠くのところに?」

「岩村って場所に腕利きの鍛治師がいるらしくて、住み込みで見習いになるんだって」

「すげぇ……」


武器屋の店主が武器が好きすぎると、自分で作る方に行くんだな。


「魔術を放てる剣が完成しない理由は剣の声が聞こえないからだ! って言ってたからね」


なんだよ剣の声って。

命でも宿らせる気か?


「ここなの」


くっちゃべっていると、目的地に着いたようでルート案内を終了された。


「さて、どうするか……」


皆の前には5年程、誰も開いているところを見たことのない開かずの間がある。


「壊すか」


俺は腕を振りながら前に出る。


「待って、待って考えようよ」

「えー、領主公認なんだろ?」


クルトの右手が後ろから俺の襟を掴み、止めさせられる。


「破壊が公認な訳ではないよ。最悪の場合の話ね」


うー、めんどくせーな。


「どうせ開けるんだろ? 結果は一緒だと思うがな」

「開けてもらうと、こじ開けると、破壊するのは大きな差があるんだよ」


俺を後ろに引っ張り、代わりにクルトが前に出て、ドアを叩く。


「こんにちわ。シギョウ様、いらっしゃいますでしょうか?」

「…………」


返事がない、ただの屍のようだ。


「僕はクルトです。孤児院に住んでて、シギョウ様と同じく9歳。ミルナお嬢様に魔術を教えている先生でもあります」


一般人が聞いていたら普通に疑問が出てくる自己紹介だよな。


「…………」

「返事がないね」

「死んでんじゃね?」


破壊の案が却下されたお陰で、俺のやる気スイッチはオフに切り替わっている。


「なんてこと言うんだよ。まだ亡骸を見てもないのに、失礼だよ」

「いや、お前も失礼だろ。亡骸の可能性を考えてる時点で」


俺のツッコミで冷静になったクルトは手を叩いて納得する。


しかし、クルトが納得できたところで、解決にはなっていない。


「うーん。どうしようか」

「任せるの」


頼もしい姉の登場。

ミルナは肩を鳴らしながらドアの前に立つ。


「シギョウ! 開けるの!! 拒否権はない!」


うお、初めてミルナ嬢の怒号を聞いた気がする。


「もし、開けないならこの扉を壊すの!!」

「え?! まじ!? 任せろ!!」


意外とミルナも乗り気だったのか。

後ろで俺も肩を鳴らす。


「最後の警告なの! 開けるの!!」

「…………」


返事のないシギョウに呆れるミルナは、俺に合図を送る。


「おし! いっちょ派手になぁ!!」


力強く、拳を握り、ドアを殴り飛ばす。


「ちょっ! 加減しろよ──」


嫌な予感がしたのか、クルトが殴る瞬間に忠告をするが、すでに扉に拳が触れている。


「え? なんか言った?」


聞き返す俺はクルトを見るが、それと同時に扉が破壊されて、吹き飛ぶドアと共に爆音が鳴る。


「……はぁ、なんでも」


頭を抱えたクルトがため息を吐き、ミルナは誇らしげに腰に手を当てて鼻息を荒げ、モナは目を見開き、驚いていている。


「お邪魔しまーす」


ズカズカと部屋に入り、辺りを見渡す。


「な、なんなんだ! お前らは!!」


部屋の中には1人の子供がベッドの上でシーツに包まり、うずくまっている。


「ん? あれがシギョウさん?」

「はぁー、こうなったらもういいや」


クルトは俺を横切ってベッドの横に近づく。


「初めまして、僕はクルトです」

「近づくなぁ!!」


シギョウと思しき子供は大声で威嚇をする。


「……すみません。ですが顔を見せて頂けませんか?」

「嫌だ!!」


頑なに拒否を続けるシギョウに困った様子を見せる。


「しょうがねーな」


俺はシーツを掴み、おもいっきり剥ぎ取った。


「うわー!!」


シーツの中にいたシギョウはボサボサの青髪で、痩せ細っており、両手で顔を覆っている。


「シギョウ! 情けないの!! 男なら正々堂々と、顔を見せるの!!」


泣き叫ぶシギョウにミルナは腕を掴み、力強く引き剥がす。


「いやー!! むりー!! まじでやめて!!」


何をそこまで嫌がるものか、シャイなのだろうか?


「……? 特に何も……? 普通じゃね?」


シギョウの顔を見る限り、特におかしな所はないし、隠す要素も見当たらない。


「やめ──、見るな……」

「実の姉を呼び捨てなの」

「ち、違……」


何か様子がおかしい。

見られて困るものは無い。

それなのに、シギョウはまるで苦しそうに、声を荒げる。


「痛っ──僕を見ないで……頼む……」

「おい。大丈夫か?」


過呼吸になり始めたシギョウに俺は心配になり、顔を近づける。


「あ──っ、がっ…………」


まるで痙攣を起こしているかの如く、シギョウの反応が悪くなる。


「なに……これ……知らない世界──?!」


頭を抑えてうずくまり、嗚咽する。


「出て行け……ここから」


「エル……」

「分かったよ」


奪ったシーツを再度被せて、距離を取る。


「ぐ──っ、…………」

「シギョウ様。申し訳ございません」


クルトは頭を下げて謝罪をする。


「──はぁ、はぁ、はぁ」


落ち着き始めたのか、発作はなくなり、呼吸が戻る。


「……出ていってくれ。お願いだ」


シギョウはそう言い放ち、喋らなくなった。









部屋から出て客室に通された俺らはお茶を啜っていた。


「ごめんなの」


申し訳なさそうにミルナは俯く。


「いや、今回は俺が悪い。まさかあそこまでとは」

「ミルナは悪く無いよ。僕らがもっと慎重にしていれば……」


にしてもアレはやばいよな。

あそこまでの症状は俺らじゃどうしようもないだろ。


「エル。どう感じた?」

「どうって、反省してるよ」


カップに入った紅茶を覗き込みながら俺は答える。


「違うよ。シギョウ様の様子だよ」

「あー、なんだろうな……。単に人間不信って年齢でも無いだろうし、俺らの顔を見るや否や、気持ち悪がられた感じ?」

「だよね」


クルトはカップを持ち、口につける。


「クルトはどう思う」

「まぁ、気になることは言われてたね」

「?」


クルトには何か引っかかることがあったのだろうか。


「ミルナ、ちょっと書庫を借りてもいい?」

「もちろんなの」








クルトが本の虫になって1時間近くたった。


俺は特にこれといって本に興味がない為、ぶらぶらと城内を散歩していた。


「広いな。迷子だ」


一直線に広がる廊下を呆然と眺めながら、ポツリとこぼす。


「にしても、ここの使用人さん達は礼儀正しいな」


孤児院に住んでいるただの子供が横を通るだけで、頭を下げてくれる。


前世で一度は妄想したシュチュエーション、目に入る周りの人たちが敬ってくれるこの状況。


「んー、実際されると申し訳ない感じがする」


どこか場違い感を覚えながらひたすらに前に進む。


「お、訓練中か?」


ふと、窓の外に目をやると、中庭で兵士達が剣の打ち合いを行っていた。


「混ざりてぇ」


最近ロンさんは避けているのか、打ち合いをしてくれない。

子供の俺があそこに行っても、かまってもらえるのかな。


「久しいな」

「?」


窓の外を覗いていると、後ろにいる誰かが声をかけてきた。


「あ! 久しぶりです。領主様」


声の主はカモク・エスタ。

このエスタ城のトップである、領主だ。


「相方の方はよく顔を合わせるが、君は本が嫌いか?」

「あ、いやー自分は体を動かしたいタイプなんで……」

「若いな。私も君と同じ年齢の頃は勉強なんて、大っ嫌いだった」


カモクは笑いながら俺と同じように外を覗く。


「気になるか?」

「めちゃくちゃ気になります。最近剣術を習い始めて」


まぁ、ほぼ素振りしかやってないが。


「そうか、いつでも騎士団に入るがいい。歓迎するぞ」


おっと、それはまずい。

騎士団に入ったら安泰ではあるが、俺の目的と離れてしまう。


「ハハハ。冗談だ」


俺の曇った表情を見て、カモクは笑う。


冗談だじゃねーよ、領主様直々に言われると、怖くて否定できねーだろ。


「シギョウには会ったか?」


カモクは話を変え、俺の目を見る。


「はい。でも、出てけって言われました」

「そうか」


元々怖い見た目のカモクの表情がさらに濃くなる。


「聞いたぞ、扉を粉々にしたと……」

「! あ、えっと……」


誰だ!

俺が壊したことをチクった人間は!!


領主公認じゃなかったのかよ!!


「別に怒ってる訳ではない。そのうち私がやろうとした事だ。むしろよくやった」

「ホッ」


胸を撫で下ろし、顔を見上げる。


「領主様。失礼な質問かもしれませんが、シギョウ様に怒ってます?」

「? なぜだ?」


見上げた時、カモクの顔は怒っている様で、諦めている様な表情だった。


もしかすると、5年も引きこもった息子なんて、必要ないと、切り捨てているのかもしれん。


「いえ、ただ単にどう思っているのかと」

「……どう、そうだな。まぁ、怒りはある」


カモクは目線を中庭に戻して話を続ける。


「あの子は物覚えが早かった。と言うか、赤子の頃から人の考えを読み解くことが出来ていた。アレは私よりも天才だった」


親バカかよ。


「歩くのも、喋るのも誰よりも早く成長し、誰よりも早く理解した。……だが、文字を理解し始めた頃、部屋から出てこなくなったんだ」

「文字……」


え?

待って、5年前に引きこもったんだよな?

今9歳……え? 

4歳で、文字を理解したの?!


「理由も話そうとせず、顔も合わせたがらない。まるで自分が一番可愛いと、苦労もせずに楽な方へ逃げる。そんなところに私は怒っている」


まぁ、この時代に多様性などは存在しないわな。

前世ではその言葉は刃となり、よく燃える燃料になっただろうに。


「──だが、それよりも、シギョウは私の息子だ。長男であり、末っ子だ。怒りよりも、失望よりも、無関心よりも、どんな感情よりも、それらを通り越して、心配が勝っている」

「領主様……」

「どんな穀潰しでもどんなバカな息子でも、私の本心は変わらない。一緒に夕食を囲みたいと思ってしまうものなんだ。それが父親なんだ」


パパ……。


「まぁ、君もそのうち分かるようになる」

「そうですかね……」


俺の脳裏には実の父、ゲールが浮かぶ。


「長くなったな。私のつまらん話を聞いてもらってすまない」

「いえ。大変興味深いお話で──」

「──領主様! エル! 多分分かったよ!!」


クルトが大声の呼び止めが俺の言葉を遮った。

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