50話 バレバレですね
私ぐらいになると、ps5の設定で躓きます。
サインアウトってなんですか?
「セリーヌさん。あなた勇者ですね」
アリアの指は私の右手の甲を指しながら、アリアは続ける。
「おかしいと思っていたんです。あのマザードが気にかけているし、2年からの急な編入。室内でも、食事の際も手袋を外さない」
「い、いえ……気のせいです。ただ単に親の形見で、着けている──」
私の言い訳に被せるようにアリアは私に近づきながら、まるで弁護士の如く語る。
「今日のお昼も素振りをしていましたね。まるで時間がないかのように……。その手袋は紋章を隠すためのもの。そうですよね、もし勇者だとバレてもしたら兵士に連行、最悪力及ばないまま戦場に駆り出されて戦死」
アリアが私の右手を掴み、無理やり手袋を外す。
「ビンゴです……ね……」
私の紋章を見てすぐに顔色が変わる。
「え……? オチンチ──」
「──わぁーーーーー!!!!」
その言葉をかき消すように大声をだす。
「す、すみません……、そういう理由でしたか。失礼しました。これは私だったら腕を切り落としますね……」
「違います!! 決して卑猥な形が恥ずかしいから隠してた訳ではないです!!」
こんな勘違いで解決されては困るため、必死に事情を話す。
◇
「なるほど。そんな理由があったのですね」
なんとか事実を知ってもらい、誤解を解いた私はため息をつく。
「事情は分かりました。ここで一つ提案です」
「提案?」
「はい。私の弟子になりませんか?」
なるほど。そう来ますか……。
「剣術だけでは厳しいことが必ずあります。なので私の元で魔術を学び、魔術剣士になる気はありませんか?」
その言葉は私にとって、ものすごく揺らぐ言葉だ。
マザードさんに剣術を教えてもらってる身としては魔術に割いている時間は無いし、疎かにしたく無い。
「欲張り貧乏になるかもしれませんが、空いている時間の1時間でもいいです。せっかくの才能を無駄にしたく無い、私のわがままを聞いてくれませんか?」
うーーーー、剣術、魔術正直どっちも学びたい。
めちゃくちゃ悩む。
「アリア先生。返事は明日でもいいですか?」
一度マザードさんとも話し合ってこのことを決めたい。
「いいですけど……もしかしてマザードに相談する気ですか?」
「え?! あ、いえ……」
「マザードに言っても否定されて終わりになると思います。あの人は魔術を信じていないので……」
突然扉が開く音がし、人が入ってくる。
「あ、アリア先生……言われていた本をお持ちしま──うわっ!!」
顔が見えなくなるまで積み上げられた本を持った生徒は扉の敷居に躓き、倒れ込む。
「アリア。生徒をパシリに使うんじゃない」
後ろから追加の本を同じく大量に持ったマザードがやってくる。
「最悪ですね、タイミング」
「なんだ? アリア、お前は人に本を持って来させておいて感謝も言えないのか?」
前が見えていないマザードは私に気づかずに本の置き場を生徒に聞く。
「あ、ありがとうございます……。そ、そこの机に……」
「ここか?」
「は、はい」
生徒は落とした本を拾い上げながらキョドった返事をする。
「アリア。生徒の方が礼儀正しいぞ……ん?」
本を置き、アリアの方を向くと、必然的に隣にいた私にも目が行く。
「なぜここにお前が……?」
「フォルトさん。ありがとうございます。今日の稽古は休みにしますので、自習しておいて下さい」
「え? あ、分かりました……」
マザードの困惑顔を横目にアリアから帰宅命令を出されたフォルトが速やかに退出する。
「アリアこの状況はなんだ? なぜセリーヌは手袋を外している」
左手で隠していた紋章を睨む。
「マザードは嘘が下手なんですよ。そしてセリーヌさんも同様です」
「そうか。で、何を話していた?」
怪しむマザードが私の顔を見る。
「あ……あの──」
「マザード。セリーヌさんに魔術を教えます」
私が言う前にアリア先生が切り込んだ。
「ダメだ。セリーヌはまだ剣術が中途半端なんだ。そんな中、魔術を学べる時間はない」
「今日の授業の件は知っているはずです。セリーヌさんの急な魔力質の変化のせいで暴走してしまってるんです。学ばせなければ縛りと変わらないです」
「使わなければいい話だろう。何を無理して魔術に固執する理由があるんだ?」
「飛べない飛竜の話をしているんです。素晴らしい器なのに勿体無いのと、使いこなせれば武器になる」
どちらの言い分もわかる。
わかるからこそ私から言い出せない。
「どういう意味だ? 飛べない飛竜とは」
「はぁー、学がないですね相変わらず」
アリアはため息を吐き、椅子に座る。
「いいですか。セリーヌさんの剣術の指南はいつも通りすればいいじゃないですか。空いている時間に魔術を教えるだけです」
「空いている時間は剣を振る。それだけだ」
マザードの言葉に段々とアリアのストレスに加わる。
「そもそも剣を持っているのにどうやって魔術を使う? 杖がなければ無理だろう」
「一般の魔術師はそうです。ですがこの質であれば問題ないと言っているんです。貴方は本当に何も知らないのですか?」
「知らん」
その返事にアリアは貧乏ゆすりが始まった。
「知らないのなら知らないで知識のある私に預けて下さい! セリーヌさんの身にもなって考えて貰えますか!」
「? アリア何を怒っているんだ?」
「脳みそまで鉄で出来てる同僚に怒ってるんです!!」
これはダメだ。
私が話を進めないと一生このまま平行線で、ストレスのせいでアリア先生の頭がショートしてしまう。
「マザードさん! アリア先生! 魔術学びます!!」
2人の喧嘩の間に入り込み、大声で答える。
「剣術は今まで通りやります! 放課後から夜ご飯までの間、魔術を学び、その後また剣を振る! それでいいですか!?」
私の声が大きかったのか、それとも私からの意見が来ると思っていなかったのか、2人は驚いて私を見る。
「ダメですか! ダメなら魔術は昼休みの間にします! あと、飛べない飛竜って私も分かりません!!」
言いたいことを言い終え、いっとき部屋の中には静寂が訪れる。
「……あ、あぁ。構わない」
「……本当にいいんですか? セリーヌさんの負担になりませんか?」
2人は私の顔を見たまま口を開く。
「なります!! てか、ならないといけないので!! 世界を救う勇者なので!!」
そう言うと、2人は目を開いたままアリア先生、マザードさんそれぞれの顔を見合わせる。
「──ふははははは」
「──あははははは」
なぜか2人は笑い合う。
え? 私、何か変なことでも言った?
「流石だ。流石私の弟子だ」
「ええ、そうですね。そっくりです」
だって、飛竜が何かわからないし、やるしかないじゃん。
「そっくりですけど──」
「あぁ、背負ってるものがまるで違うな」
さっきまでの喧嘩が嘘のように、意見が合う2人。
「きついぞ。二つを一気にやることは」
「そうですね。りんご畑のドライアドになりかねません」
「なんだ? それは。りんご畑のドライアド?」
マザードさんの質問を無視してアリアが立ち上がり、私の右手に手袋を着けてくれる。
「出来るだけ私たちもセリーヌさんの負担にならないように気を配りますが、もしキツくなったらいつでも言って下さい」
「はい。でも……りんご畑のドライアドってのはなんですか?」
アリアはため息をまた吐き、私の顔を見る。
「勉強もして下さい」
「……分かりました」
その時のアリア先生の表情は少し柔らかく笑っていたように見えた。
◇
「マザードにしては意外でしたね」
「そうか?」
セリーヌのいなくなった準備室では2人の教師が会話をしている。
「はい。魔術を嫌ってるので、てっきりセリーヌさんの意見も聞かないと思っていました」
「はっ、自身の意見を聞かないで、師匠の言うことを聞く弟子なんていないだろう」
マザードから出るはずもない言葉にアリアは驚く。
「アリア、私は別に魔術が嫌いな訳ではない。私にその才能がなかっただけで、興味がないだけだ」
扉に手をかけてマザードが言う。
「まぁ、昔は大嫌いだったがな」
鼻で笑ってその場を後にする。
「あのマザードが弟子を持つとここまで変わるんですね」
アリアはフォルトが持ってきた本を自分の机に持っていき、椅子に座ってペンを持つ。
「さて、やりましょうか。セリーヌさんの個人レッスン内容を決めないと」
◇
準備室を出て、自分の寮へ戻る帰り道。
1人の男子が声を掛ける。
「あ……セ、セリーヌさ……ん」
その男子は待ち伏せでもしていたかのように、後ろに立っていた。
「びっくりした……。何でしょうか?」
私は声の方に体を向けると、そこには先ほどパシリにされていたフォルトがモジモジとしながら立っている。
「あ、あの……えっと……」
「は、はぁ……」
キョドったフォルトは頭を掻きながら下を向いたまま、ぶつぶつと口を開く。
「へ? ごめん。ちょっと声が聞こえない……かな」
「あっ! ご、ごめん。そ、その……僕、人と話すの苦手……だから……」
でしょうね。
見ただけで丸わかりですよ。
「今日……の授業……で、師匠──アリア先生に……呼び出された……んですよね……」
「え……、そうだけど」
今日の授業……!?
え? 他の生徒はあの時、誰も気づかなかったはずだけど……。
「ごめん……僕人より目が……いいから……」
「あぁ、なるほど。ん? てか、師匠って言った?」
私が質問をするとフォルトはビクつき、かけていたメガネを両手で触る。
「す、すみません……。クセで……」
「えっと……フォルトくんだっけ? 今日の授業でもアリア先生からお手本の指名を受けてたよね」
フォルトは、口を開かず頷いた。
「あー、何となくわかった。私もマザードさんと似たような関係だし」
「あ、あの……セリーヌさんも……アリア師匠から指南を……?」
モジモジしながらフォルトは頭を掻く。
「うん。フォルトくんの後輩になるのかな……?」
「こ、後輩! そ、そうです……僕が先輩です……」
嬉しそうにフォルトが目を見開いて私を見る。
「よろしくね」
優しく挨拶をすると、フォルトは照れか、驚きか、それとも苦手意識か、すぐに後ろを向き頷く。
「ぼ、僕は図書館に……基本いるので……いつでも」
「う、うん」
そう言ってフォルトはその場から離れていく。
「いつでも……? わからないことを教えてくれるってことかな……」
遠くなったフォルトの後ろ姿を見送り、少し嬉しさが顔を出す。
剣術は基本1人でやってきたけど、ここに来てから同じ目的の人がいるからなんか心強い。
魔術の基礎すら知らない身としては先輩弟子がいることはアドバンテージだ。
「さてと。一度部屋に戻って、素振りをしますか」
◇
「ただいま」
「おかー」
部屋に戻るとニーナがベッドの上でだらけていた。
「制服ぐらい着替えたら?」
「えー、めんどい。どーせこの後風呂に入るしいいじゃん」
緑色の石で手遊びをしながら、だらけた返事が返ってくる。
「なにそれ?」
「ん? これ?」
ニーナは持っていた石を私に渡す。
「今日の授業で作ったただの石」
「? 専攻科目の?」
ニーナは頷き仰向けでベッドに転がる。
「なんか、聖霊が宿るとか奇跡が起こるとかよくわからん石」
「……神聖的なものなんでしょ? そんな物を投げて遊ぶなんて」
石をニーナに返して、服を脱ぐ。
「まぁ、そうなんだけど、うちからしたらただの石だし、聖星石なんて大層な名称が付くほどの価値があるのかね」
石を摘んで見つめる。
「もう風呂?」
「ううん。運動着に着替えて素振りしに行く」
「うわー、まだやるんだ」
少し引き気味のニーナが起き上がる。
「一緒にやる?」
「まさか。そーいや、何だったん用事って」
上着を着て、ズボンを履く。
「んー、アリア先生に魔術を教えてもらう事にした」
「え? これから?」
靴を履いて剣を持つ。
「いや、多分明日から?」
「よくやるよほんと。何でそんなに努力できるん」
何でって、一つしかない。
両親を殺した魔族の仇は取りたい。
世界を救うよりも先に、それを成し遂げたい。
「殺したい奴がいる……ってだけじゃダメかな」
「こ、殺したいって物騒じゃん」
ニーナは聖星石を握りしめて、私を見る。
「でも、うちは好きだよ。そういうの」
握りしめた右手を私に差し出して、笑う。
「この石、昔からお守りとして使われてたらしいから、あげる」
「え、いいの?」
ニーナは頷き、聖星石を私の手のひらに置く。
「うちも仇打ち応援したげる」
「ありがとう」
そう言って、私は外に向かう。
「りんご畑のドライアド」は「花も折らず実も取らず」みたいなものらしいです。
「飛べない飛竜」は「宝の持ち腐れ」だと思います。
この世界のことわざだと、アリア先生が言ってました。




